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第2回 厚木ラーメン研究会 チャーハン編

Abstract

厚木ラーメン研究会とは、神奈川県厚木市でラーメンを研究する会である。初回の研究会では、「家庭で麺からラーメンを作ろう」という主催者の号令のもと、我々はタンパク含有率の異なる小麦粉で製麺を行い、それらを比較した [1]。その後、この体験を文章にしなければならないという衝動に駆られた私は、帰りの新幹線で驚天動地の勢いで記事を書き上げ、主催者を勝手に会長と呼び、この集まりに厚木ラーメン研究会という名前をつけた。その中で第2回についても言及したが、それは勢いに身を任せた妄言であり、第2回開催の予定は当初まったくなかった。ところが、会長の飽くなき探究心は留まることを知らない。次に彼が目をつけたのはラーメン屋の定番サイドメニューの「チャーハン」である。「高火力の業務用コンロで中華鍋を振ってチャーハンを作りたい」という会長の号令を受けた我々は、東京都葛飾区に集まった。つまるところ今回は、厚木でなく、ラーメンでもなく、研究会でもない。神聖ローマ帝国ばりのタイトル詐欺 [2] をあらかじめ宣言した上で、我々のたどり着いたチャーハンを以下に報告する。



1. はじめに

業務用の中華コンロが使えるレンタルキッチンが東京都葛飾区にあるらしいということを当研究会の会長がつきとめたのは2月末のことだった。会長の提案に二つ返事をした我々は、約2年ぶりとなる厚木ラーメン研究会の開催を決定した。参加者は前回同様に会長、副会長、そして筆者の3名だ。我々は大学時代の同級生で、3人とも在野の料理好きであり、特に豚肉の塊を調理するという共通点が、今日のラーメン研究会に繋がっている。

そんなわけで4月27日、新横浜駅に集合した我々は会長の車に乗り、葛飾区へ向かった。付近のスーパーで気の向くままに食材を買い、レンタルキッチンに到着した我々は、オーナーからコンロの使い方のレクチャーを受けた後、早速準備に取りかかった。



2. 準備

2.1 食材の準備

図1 業務用中華コンロと中華鍋

まずは米を炊く。チャーハンにはコシヒカリのような粘りの強い品種よりも、ササニシキののようなさっぱりとした品種の方が合っているとされている。ただし、今回は立ち寄ったスーパーにササニシキ系統の品種がなかったため、コシヒカリ以外の品種から適当に「青天の霹靂」を選んだ。名前がかっこいいからだ。青天の霹靂は青森県の品種である [3]。ちなみに、青森県の気候を考えると、この品種は寒冷な環境に弱いササニシキ系統ではないことが予想される。しかし、これはあくまで個人的な意見だが、かっこいい名前の米でつくったチャーハンはかっこよくなる。

米を炊くときは硬めになるように水を少なめにして炊く。実はこの「硬めに炊く」というのが、おそらくチャーハンをおいしくつくる上で最も重要である。具体的には、5合の米に対して4.6合分くらいの水を加えればよい。米を炊飯器にセットし、炊けるまでの間にチャーハンの具材を準備していく。今回用意した具材と調味料を図2に示す。

図2 準備した食材と調味料

具材は手前から輪切りネギ、紅生姜(トッピング用)、角切りチャーシュー、みじん切りネギ、みじん切りにんにく、角切りなると。また、この画像には映っていないが、アレンジ用の食材としてレタスとキムチを冷蔵庫に冷やしてある。調味料は塩、テーブルコショー、ブラックペッパー、オイスターソース、鶏がらスープの素、醤油2種類、うまみ調味料2種類。

醤油は普通の醤油に加えて、中華たまり醤油を会長が持ち込んだ。中華たまり醤油は中華料理にコクや照りを出す時に使われる定番調味料で、黒チャーハンをつくる時に使われる。

うまみ調味料は味の素とハイミーの2種類用意した。味の素とハイミーは構成成分が微妙に異なり、味の素が料理の味を整える役割なのに対し、ハイミーは、そのままだしとして使えるようなうまみと言われている [4]。

油は普通のサラダ油とラードを用意した。ラードを使うことで、豚肉の脂に含まれる香り成分が料理にコクをもたらすが、使い過ぎるとこってりし過ぎるため、今回はサラダ油とラードを併用する。チャーハン含む中華料理全般に言えることだが、油をかなり使う料理が多い。おいしいものは、脂肪と糖でできている。

2.2 流れの確認

具材を準備し終えたら、続いてチャーハンづくりの動線を確認していく。高火力の業務用コンロを用いたチャーハンは短時間で手早くつくらなければならないため、具材や調味料をあらかじめ手元においてすぐに加えられるようにする必要がある。今回は、具材が置いてあるテーブルからあらかじめ1人前の具材と調味料を取り分け、コンロの右側のスペースに置いておく。具材のテーブルとコンロの関係を図3に示す。

図3 動線の確認

図3の奥のように、サラダ油や具材の入った小ボウル、調味料をコンロの右側に置いておく。こうすることでコンロの位置から手を伸ばせばチャーハンの全ての材料に届く。こうして舞台は整った。



3. チャーハンづくり

3人で3回ずつ、合計9皿のチャーハンをつくった。また、サイドメニューを2品つくった。()内の名前は中華鍋の振り手を示す。

3.1 チャーハン(会長)

各々の初回はコンロの感覚を得るために王道のチャーハンをそれぞれつくることにした。まずは会長から挑戦する。具材と調味料は以下の通りで、ネギはみじん切りを使用した。以降、特に断りがない限り、ネギはみじん切りのものを使用している。

また、調理シーンを撮影して動画化した。調理手順の詳細は動画内で解説している。リンクは以下。
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=0s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、にんにく
調味料: 塩、胡椒、味の素、醤油

図4 会長のチャーハン

見た目は黄金色で綺麗なチャーハンだ。食べた感想だが、ラーメン屋のセットのチャーハンの味がした。明らかに家庭のチャーハンの領域は超えており、我々は早速業務用の威力を痛感した。味は少し薄かったが、薄すぎるというほどでもなく、言うなれば「ラーメンとチャーハンのセットを頼んだ時にラーメンの味がちょっと濃いめだった時のチャーハンの味ってこのくらいだよね」の感じである。2回目以降はこのチャーハンを参考に味の調節をしていけばよい。

3.2 スープ(筆者)

ここで、中華料理店でチャーハンを頼むとなぜか付いてくるスープをつくる。水に鶏がらスープの素、醤油、オイスターソースを入れて沸かす。乾燥ワカメとネギを加えて完成。なんとなく勢いでつくった割にはかなり味の再現度が高いものができた。チャーハンのお供として飲んでいこう。

図5 あたため
図6 盛り付け

3.3 チャーハン(副会長)

続いては副会長が鍋を振る。副会長は戯れに角切りのなるとを加える。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=97s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、なると
調味料: 塩、胡椒、味の素、醤油

図7 チャーハン

先ほどの会長のチャーハンと比較して、まず見た目が異なる。米や具材にメイラード反応が見られ、香ばしい焼き目が特徴だ。味も会長のものと明らかに違った。町中華のチャーハンにありそうな系統の味で、「チャーハン」ではなく「やきめし」というメニュー名で売られていてもおかしくはない。醤油の香ばしさとなるとの優しさが感じられたが、この香ばしさは会長のものと比べて長かった調理時間から来ているだろう。また、紅生姜との相性が非常に良かった。

3.4 チャーハン(筆者)

1周目の最後は筆者のチャーハン。

調理シーンでは筆者ではなく編集者という記載になっている。
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=231s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、にんにく
調味料: 塩、胡椒、ハイミー、醤油

図8 筆者のチャーハン

筆者は青磁の八角皿を持ち込んだため、それに盛り付けた。やはり皿がそれっぽいだけで、一気に中華料理店で提供されていそうな雰囲気が出てくる。味は3.1のチャーハンと同じ系統の王道チャーハンである。3.1の反省を踏まえて塩の量を増やしたため味も丁度良い具合だった。

3.5 青菜炒め(筆者)

このタイミングで、チャーハン以外で中華コンロを楽しむために、青菜炒めをつくることにした。味付けは筆者が担当した。ちなみによく「青菜炒めの青菜ってなに?」と聞かれるが、青い菜っ葉であればなんでもいい。小松菜がメジャーだと思っているが、店によってはほうれん草やチンゲン菜、空心菜を使っているところもある。今回は小松菜を使用。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=376s

具材: 小松菜、にんにく
調味料: 塩、醤油、味の素

図9 青菜炒め

かなり思った通りの味になった。高火力でサッと炒めているため、小松菜に程よい食感が残っている。鶏がらスープの素を少し加えていれば完璧だったかもしれない。青菜炒めも中華料理の例に漏れず、炒めるために油をたくさん使う料理ではあるが、これを食べている時はなんとなく健康に良いものを食べているという錯覚に陥る。閑話休題。

3.6 レタス黒チャーハン(会長)

ここからは思いついたアレンジでチャーハンをつくっていく。まずは会長が中華たまり醤油を使って黒チャーハンをつくる。具材には卵、ネギ、チャーシューの他にレタスを加える。

また、これまでは調味料をそれぞれ加えていたが、このやり方だともたついてしまうため、あらかじめ塩、胡椒、うま味調味料を小皿に取り分けておくことにした。これ以降のチャーハンはこのやり方を採用している。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=474s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、レタス
調味料: 塩、胡椒、ハイミー、醤油、中華たまり醤油

図10 レタス黒チャーハン

黒い。明らかに黒い。これが中華たまり醤油の底力かと思ったが流石に醤油を入れ過ぎたようだ。会長曰く、中華たまり醤油に加えて普通の醤油も入れてしまったのが余計だったようだ。味はさすがに少し濃くて、多少醤油の水分が飛び切っていない感はあったが、中華たまり醤油のコクが十分に感じられる味だった。あと油をまとったレタスがうまい。

3.7 レタスキムチチャーハン(副会長)

続いて、キムチとレタスでチャーハンをつくる。キムチチャーハンとレタスチャーハンの合わせ技も、自分で調理するからこそできる贅沢だ。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=579s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、キムチ、レタス
調味料: 塩、胡椒、ハイミー、醤油

図11レタスキムチチャーハン

やはりキムチチャーハンはうまい。キムチはそのまま食べてももちろんおいしいが、調味料兼具材として加熱利用した時のポテンシャルには目を見張るものがある。もっとキムチが入っていてもいいと思った。

3.8 ネギ黒チャーハン(筆者)

私の番になって、味のアレンジとしてオイスターソースを使ってみようと思い立った。中華たまり醤油も使って色もつけていく。ネギは輪切りのものを多めに使用した。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=710s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、にんにく
調味料: 塩、胡椒、味の素、中華たまり醤油、オイスターソース

図12 ネギ黒チャーハン

残念ながら、期待していたオイスターソースの風味はあまり感じられなかったが、黒チャーハンらしいコクのある味になった。紅生姜との相性も良い。これを食べていて、中華たまり醤油が家に欲しくなってきた。

3.9 レタスハイミーチャーハン(筆者)

少し休憩した後に、私から再開した。具材にはレタスを加える。にんにくも多めにした。調味料を準備する時にハイミーを出し過ぎてしまったが、そのまま使うことにした。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=846s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、レタス、にんにく
調味料: 塩、胡椒、ハイミー、醤油

図13 レタスハイミーチャーハン

ハイミーの強いうまみが感じられる味わいになった。にんにくも結構効いている。ハイミー、ラード、にんにくの強力なトリプルパンチを業務用コンロの高火力が支えている。中華料理屋のチャーハンを大げさにした感じ。あと油をまとったレタスがうまい。

3.10 チャーハン(副会長)

なるとが余っていたので、副会長はこのなるとを使って再び王道のチャーハンをつくる。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=980s

具材: ネギ、卵、チャーシュー、なると
調味料: 塩、胡椒、ハイミー、醤油

図14 チャーハン

やはり町中華の香ばしいチャーハンに回帰した。これが彼の結論である。多分前世は町中華のおじさんに違いない。

3.11 レタス卵ペッパーチャーハン(会長)

10個入りの卵パックを買って、これまで8皿のチャーハンをつくったので、この時点で2つの卵が余っていた。時間的にもご飯の残量的にも、このチャーハンが最後のチャーハンになるので、余っていた食材を全て使ってチャーハンを作る。また、調味料として粗挽きのブラックペッパーを加えてパンチを効かせる。

調理シーン
https://www.youtube.com/watch?v=QvmwwrwpU4M&t=1102s

具材: ネギ、卵(2個)、チャーシュー、レタス、にんにく
調味料: 塩、胡椒(粗挽きブラックペッパー)、ハイミー、醤油

図15 レタス卵ペッパーチャーハン

具が多いため、チャーハンというよりレタス卵炒めに近づいている気もするがペッパーのアクセントが非常に効果的で、今までのチャーハンとはまたタイプの異なる味となった。たっぷり卵の優しさとブラックペッパーのキレが両立している。油をまとったレタスは相変わらずうまいが、それよりもお腹がいっぱいだという感情が勝った。



4. まとめ

本稿では、業務用の中華コンロを用いたチャーハンづくりに取り組み、9皿のチャーハンをつくった。また、サイドメニューを2品つくり、チャーハンの合間に楽しんだ。3回ずつチャーハンをつくる中で、中華コンロの使い方が少しは理解できたように感じている。動画を見ていただければわかるが、1回目は少しぎこちない動きだったのが、3回目では慣れを感じる鍋振りになっている。今後の展望についてだが、チャーハンは一旦満足している。次回こそはラーメンをつくる…はずだ。

3章で小出しにしたが、本稿執筆にあたって調理シーンの動画を編集してYouTubeに投稿した。Appendicsにリンクを記載している。



参考文献

[1] Gan-fu Works 「第1回 厚木ラーメン研究会」(2022)

[2] ヴォルテール「諸国民の風俗と精神について」(1756)
歴史哲学を論じたこの本の中で、近世の神聖ローマ帝国は「神聖でなく、ローマでなく、帝国でない」と評されている

[3] 晴天の霹靂HP
https://aomori-komehonbu.gr.jp/seitennohekireki/

[4] 味の素HP「うま味だしハイミーご存知ですか?」
https://www.ajinomoto.co.jp/aji/hime/



Appendics

チャーハン調理動画


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