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「旅入」

旅入(造語)[→りょにゅう]
よその土地へ心の中で入ること
「映画を観てるといつの間にか現地に-している」

テレビCMなどを観ていたら、そのCMが撮影されているロケ地に行った気持ちになってフワッとすることは無いだろうか。そのロケ地に居る自分を想像するというか、そのロケ地での自分の視点に切り替わるというか。そのロケ地のことは知らなくても、自分が過去に行った場所の中で、雰囲気が近いところに行った時の心情を思い出すような。

懐かしいような、甘酸っぱいような、緊張するような、寂しくなるような、言葉にしきれない色んな感情が入り混じって胸がキュンとなる。観ている映像によって、ポジティブにもネガティブにもなる、でも、その現実に戻って、その感覚を思い出すとなんとも心地よい。

そうした感覚を「旅入」と呼ぼう。旅に行くのではなく、旅に入る。自分の心の中で、現地への旅に入っていく。

現実に「行く旅」では、行く場所それぞれで、それぞれの感動があるが、「旅入」では、その一瞬だけだ。具体的な場所に紐付いていないだけに、記憶にも残りにくい。しかし、一瞬の心の旅トリップ(重複語のようだ)を楽しむために、時々、CMを観る。

ドラマや映画やMVではなく、CMで起きることが多い。ドラマや映画は、その世界の中に入り込むことが多い。ストーリー調のMVにしてもそうだ。ロケ地というよりは、ストーリーや登場人物同士の会話、その世界の描かれ方に目と頭が行く。しかし、CMでは、そうした内容自体に頭が行くことが少ない。特に、知っている俳優やタレントが出ていないと尚良い。全く知らない人たちが、知らない場所で映っているCMでこそ「旅入」は起こるのだ。

ちなみに、映像だけでなく、音声でもそれは起こる。こちらの演劇作品でも、旅入体験をすることが出来た。

紙に記載されている場所(洗面所とか玄関とか)に行き、横に貼られたQRコードを読み取ると、その場所に因んだ日常音と誰かの声が聴こえるのだが、まさしく、その場所に入り込んだような感覚になるのだ。映像におけるそれとは、また違った感覚で、聴こえてくる細かな家のきしみや壁に当たった時の音などから、その家自体を想像する。今までに行ったことの無いはずのそこに、目をつぶると行くことが出来る。この作品の素晴らしいのは、単に日常の音声(そこで語られるセリフにも、もちろん意味がある。)を聴かせるだけでなく、BGMや全く違う場所の音も重ねられるのだ。日常では決してあり得ない音。その音の体験によって、現実ではない場所に存在する。映像的なVRでは出来ない、人間の想像力を信頼した体験。

まだ、購入可能なようなので、興味を持った人は是非、体験してみて欲しい。

郵送演劇 HOMESTAY AT HOME vol.1 『ハウスダストピア』 | ウンゲツィーファ グッズ https://unge.thebase.in/items/31109792

レビューもあった。

ウンゲツィーファ『ハウスダストピア』:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape https://artscape.jp/report/review/10163305_1735.html

テーマソングもある。

ウンゲソング『ハウスダスト・メモリー』 - YouTube 


コロナ禍の今こそ、Go Toキャンペーンになど乗らずとも出来る旅入体験がありがたい。