【がん治療記x受験奮闘記】治療前

 治療を受ける前、僕の頭の中に治療に対する不安はなかった。それよりも病室での受験勉強に対する不安の方が大きかったからである。まず、病室は大部屋のため他の患者の音が聞こえる。また、慣れない環境でなおかつベッドの上で勉強しなければならなかった。さらに、6時起床21時就寝であるため、健康な受験生に比べ勉強に集中できる時間が少なくなると思われる。受験生であるならば、1日10時間以上が普通だろう。しかし、僕の場合、起きている時間が15時間、そのうち病院食を3食食べるのに3時間はかかる。その他、回診や週3回のシャワー、最初の1か月の放射線治療などでも時間はかかる。残りの時間は10時間を超えているかもしれないが、そのすべてを勉強に回すのは無理がある。多少の休憩などを挟んで9時間くらいの勉強時間を見込めると考えていた。
 ただ、この時間の計算には副作用による影響を全く考慮していなかった。それは僕の中では0でしかなかった。誰も青色がどのように見えるか説明できないように、誰も副作用をどのように感じるか説明し伝えることはできない。つまり、いくら副作用の説明をされてもそれらによる自身への影響を考慮に入れることはできない。というか考慮に入れようという発想すらなかった。
 そんなことを考えながら、英検の準1級2次試験の日を迎えた。勿論、僕は試験会場にいくことはできなかった。僕はベッドの上で治療の始まる日を待ちながら勉強することしかできなかった。ただただコロナを憎んだ。コロナさえなければ友人との面会もできただろう。コロナさえなければ一時退院して勉強に適した環境で学ぶことができただろう。コロナさえなければ、英検の準1級を取り、大学入試の2次試験の英語の10点の加点を受けることができただろう。コロナさえなければ、、、。そんなことを考えても仕方がない。コロナに関してはどの受験生も悩まされているだろう。その行動は完全に無意味である。そうと分かっていながらも、憎まずにはいられなかった。

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