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怪談朗読台本「醜貌(しゅうぼう)の美少年」

ホラー ✖ 戦国時代 ✖ BL!!!

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朗読データ

✓朗読時間 15分程度
✓ジャンル:ホラー / 時代劇 / BL
✓落語・講談風作品

あらすじ

戦国時代の武将・下方助五郎(しもかた すけごろう)はその腕っぷしの強さもさることながら、男色家としても知られていた。助五郎は政時(まさとき)という家臣を気に入り、衆道の契りを結んだが、町で偶然に見かけた尚弥(なおや)という美少年に恋をし、策を弄して屋敷へと向かい入れる。

邪魔になった政時のことは、医師で僧侶でもある明慶(みょうけい)と結託し、見た目が醜くなっていく薬を使い、それを理由に屋敷から追放。政時は悲しみのあまり自害をし、悪霊となる。

助五郎は毎晩のように悪夢にうなされるようになり、明慶に相談。お祓いをすると悪夢は見なくなったが、今度は尚弥の顔が醜く変化。政時の姿と重なったことから、切り捨ててしまう。以来、助五郎は全ての気力をなくし、屍のような状態になってしまう。

怪談朗読台本「醜貌(しゅうぼう)の美少年」

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「番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)」のお菊さん、「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」のお露(つゆ)さん、最近では「リング」の貞子さんに至るまで、古今東西、幽霊と言うのは女性、それも美女というのが定番。しかしここに、珍しい怪談話が一つある。なんと、幽霊は政時(まさとき)という美少年というのだから驚きだ。

さぁ、政時がなぜ幽霊になったのか。どんなことをしたのか、されたのか。そこのあんた、興味はないかい? この暑苦しい夏に丁度いい話しを、今宵は聞いていっておくれ。


遥か昔、世は戦国時代。下方助五郎(しもかた すけごろう)という腕っぷしのいい武将が居た。そう大きくはないものの、豊作の領土を持ち、当時としてはかなり良い暮らしをしていたのだそうだ。領民からも慕われている助五郎の人生は順風満帆に思えたが、ただ一つだけ悩みを抱えていた。

ある夏の夜のこと。助五郎の寝所(しんじょ)に、うめき声が響く。

「ゆ、許して……おくれ! こ、こっちへくるな……! たのむ……わしは悪くない!!」

それは他の誰でもない、助五郎自身の寝言である。

「助五郎さま、どうかされましたか? また悪夢を見たのでございますか?」

そう声をかけたのは、尚弥(なおや)という見目麗しい少年。

この時代、衆道(しゅうどう)や男色(だんしょく)などと呼ばれる男性同士の恋愛、いまで言うところのBL(びーえる)・ボーイズラブというものは大して珍しくもなかったし、それを恥じる文化もなかったと言われる。特に女人禁制(にょにんきんせい)の戦場において、色小姓(いろこしょう)とよばれる武将の性の世話をする少年は非常に大切な役割を担っていたそうだ。

助五郎も例外ではなく、大変な男色家であり、その横には常に美しい少年が居たのだとか。先ほど登場した尚弥も、助五郎とそういう関係にある美男子。助五郎は町で見かけた尚弥を一目で気に入り、無理矢理に屋敷に入れたというのだから、その惚れ込みようが分かるだろう。

「あぁ、尚弥。すまない。また起こしてしまったな」
「いえ、わたくしのことはいいのですが……助五郎さまのことが心配でございます」
「わしのことは、気にするな。ちと厠(かわや)へ行ってくる」

大量の汗をかいた助五郎は、なかばよろめきながら厠へと向かう。その頭に蘇るのは、政時(まさとき)という少年のことだ。

政時は尚弥がやってくる前の色小姓であった。いや、正しくは尚弥を入れたいが故に、強引に屋敷を追い出された少年である。

当時、衆道においても厳しい契約があり、下方(しもかた)家では代々「側室の数は制限しないが、色小姓は一人のみとすること」という掟があった。これは色小姓同士の争いを起こさせない意図もあり、破る者はいなかったと言われる。

そんな中、既に政時という相手が居るにも関わらず、尚弥に惚れてしまった助五郎は困り果て、医者であり住職でもある古い友人の明慶(みょうけい)を尋ねた。すると明慶はこのように提案した。

「この薬を毎日少しずつ、その政時という少年に与えなさい」

そう言われ、助五郎は聞き返す。

「それは何の薬だ? わしはこう見えて、戦(いくさ)以外の人殺しは好まんぞ」
「この薬は飲み続けると、皮膚にできものが現れる。それを見て、助五郎殿は彼に「流行り病(はやりやまい)の疑いがある。早急に故郷に帰れ」と言えばいい。それに見た目が悪くなれば、色小姓としての資格もあるまい。これで簡単に追い出せるというわけだ」
「なるほど。さすがは明慶! 恩に着るぞ」

助五郎は、明慶の言う通りに動いた。すると3日もせずに、政時の顔に何とも気味の悪いできものが現れた。そして、一週間もすれば、かつての美しさが嘘のように政時は誠に醜い顔になった。その折を見計らい、助五郎は政時に話しをした。

「政時、その顔はどうした?」
「それが……わたしにも全くもって分からないのです」

政時は困惑と悲しみの顔をしていた。

「そうか。それは可哀想だが……すまぬが、この家を出て故郷に帰ってもらいたい」
「それは……わたしの顔が、こんなにも醜くなったからでございますか? もう、わたしとは関係を持てないと……そういうことでございますか? 助五郎様とは契りまで交わしたというのに、捨てるのですか?」
「……違う。そうではないのだ、政時。わしの話しを聞いてほしい」
「なんでしょうか?」
「わしはそなたを変わらずに想うておるぞ政時。しかし、そなたは流行り病にかかっておる。明慶の見立てなので間違いはない。屋敷にその病が広がっては困るのだ。戦どころではなくなる。だから下方家のためだと思い、どうか故郷に帰ってほしい」
「……そうでございましたか。それならば、仕方ありません。わたしは明日の朝にも、ここを出ます」

そう言った政時はその通り、翌朝には下方の屋敷を出て行った。助五郎はさも悲しげな表情を作り見送ったが、その心の内は華やいでいたのであろう。すぐに尚弥を迎え入れたのだから。

しかし、政時の心中は全く違っていた。

『わたしの顔が醜くなったから、助五郎様はわたしをお切りになったのであろう。それに、この顔では故郷にだって帰れやしない。流行り病であるなら、なおさら、故郷にこれを持ち込むわけにはいかない』

そんなことを考え、道中の山の中で自らの腹を切り、自害したのである。

政時の訃報はまもなく下方の家にも届いたが、助五郎は尚弥に夢中で気にも止めなかった。なんとも、酷い男である。

この男に天罰を下すためか、政時は悪霊となり憑りついた。ゆえに助五郎は、最近は毎晩、悪夢を見るのである。

『助五郎様。わたしが醜いから捨てたのですか? そうなのでございますか?』

本来よりも醜く成りはてた政時が、毎夜毎夜、問いかけるのである。仕方なく明慶に相談し、お祓いをしたところ、そのあとは悪夢を見ることがなくなったそうだが……本当の悪夢はこれからだったのである。

ある夜、厠に起きた助五郎が寝所へ戻ると、そこに顔に気持ちの悪いできものを大量に発生させる政時の姿があった。できものは見る見るうちに増え、助五郎は震えあがった。

「ま、政時。お前、死んだはずだろう? ここで何をしている?」
『助五郎様、わたしが醜いから捨てたのですか? そうなのでございますか?』
「違うと言うたであろう! なぜ、わしを信じないのだ」
『わたしは知っているのですよ』
「な、なにを知っているというのだ?」

もはや醜くなりすぎたそれは、人間の姿すら留めていない。妖怪にだって、こんなに気持ちの悪いものは存在しないだろう。

『あの坊主と手を組んで……お前は私を“殺した”んだ!!!』
「わしは薬を飲ませただけで……」
『……お前を許しておくわけにはいかない』

そう叫ぶ声に助五郎はついに耐え切れなくなり、寝所にある刀を手に取り、切りつけた。するとどうしたことか。悪霊と化した政時の姿は一瞬で消え失せ、そこには大きな切り傷を負った尚弥の姿があったのである。助五郎は慌てて駆け寄るも時すでに遅く、尚弥は息絶えていた。

「尚弥、すまない。すまない。全てわしが悪いのだ。だからどうか頼む。生き返っておくれ」

まだ温もりの残る尚弥の身体を抱きしめながら、助五郎はひたすらに泣き続けた。

それからの助五郎のことは、はっきりとは分かっていない。尚弥の死そのものは、明慶の働きにより事故によるものとして処理され、助五郎の仕業(しわざ)であることが世間に知られることはなかった。だがそれ以降、助五郎は屍(しかばね)のようになり、寝所から動けなくなったという噂である。また、明慶に関しては、こののち、原因の分からないできものにより死んだとする説がある。しかし、これも確かなものではない。


さて、本日の怪談話はこれまで。

暑い夜を凍り付かせるような、美少年・政時の復讐劇。あんた、どう思ったかね?
これはあくまで伝説だが、実際、今でも色恋によるもめ事は絶えないだろう?

色恋に性別なんざ関係ないが、そこには人間の「心」があるってことを忘れちゃいけねぇよ。あんたは、こんな奇妙なことに巻き込まれないように、気を付けておくれ!

――それじゃ、また、いつかどこかでお会いしましょう。

【完】


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