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【Akili】ゲームでADHDを治療、FDAが承認「EndeavorRx」

要約

Akili Interactive Labsによって開発されたEndeavorRxは、小児向けのADHDの治療に有効であるゲームとしてFDAに認証された。
2023年夏にはビジネスモデルが処方箋を通じた保険適用型から OTC医薬品の販売を行うD2Cモデルに切り替わった。
日本では塩野義製薬と提携しており、ゲーム処方の今後の動きに注目である。


ADHDの現状と薬剤不足


 ADHDは「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつである。ADHDを持つ子どもの脳では、前頭葉や線条体と呼ばれる部位のドーパミンという物質の機能障害が想定され、遺伝的要因も関連していると考えられている。
ドーパミンは中枢における神経伝達物質の1つであり、ドーパミンが不足すると、「順序立てて物事ができない」「待つことができない」という行動が現れる。
有病率は世界中で5%ほどと言われており、小児精神疾患の中で最も多く診断される疾患の1つである。
現状の治療では間接的にドーパミンなどを増やす薬理的治療が用いられる他、環境調整や日常動作のトレーニングを行う非薬理的治療が用いられてきた。
しかし、非薬理的治療は訓練を受けたトレーナーや専門家不足により、多くの患者を対処できるわけではないのが現状だ。そのようなスケーラビリティの問題を解決する手法の1つとして生まれたのが「EndeavorRX」だ。

「EndeavorRx」 とは

「EndeavorRx」はADHDの改善のためのデジタル的な治療薬として、Akili Interactive Labsが開発した。
2020年には米FDA(食品医薬品局)によって承認され、初のゲームベースのデジタル治療機器として大きな注目を浴びた。
対象デバイスはスマートフォンやタブレットで、どんな場所でもどんな時でもゲームで治療を行うことができる。
ゲームが処方される対象者は、不注意型または複合型ADHDで、注意力に問題があることが示された8歳から12歳の小児患者に適応される。

ゲームの内容としては、同時に2つの課題に取り組んでもらうゲームである。
ユーザーはキャラクターを動かして障害物を避けながら、画面に現れる特定の標的だけにタッチすることを行う。
これにより、注意や作業記憶を司る前頭葉を刺激することで、有意に認知機能を向上させることが目的だ。
イメージとしては、「マリオカート」のようなゲームに近く、1日あたり25分以上のプレイが有効とされている。


ゲームの画像イメージ。
目の前の障害物を避ける・壊す・アイテムの入手や利用などの複数の動作を組み合わせゴールを目指す。

実際に効果はあるのか?

では、ここからはLANCETに掲載された、「EndeavorRx」と他のデジタルゲームとの比較をRCT(randomised controlled trial:研究の対象患者をランダムで分けて、対象手法を行ったグループで実際に効果があったかを検証する手法)で行った、こちらの論文を紹介する。

研究方法

対象者は8〜12才でADHDと確定診断された人で、AKL-T01(EndeavorRx)投与群(介入群)と対照群(コントロール群)で1対1で割り付けられた。
コントロール群には、ADHDとはほとんど関連のない認知機能を対象とした、単語ゲームを使用した。
効果測定には、2群間での持続的注意および抑制制御に関する客観的な評価方法の一つである、TOVA API 値を用いた。

結果・考察

EndeavorRxを用いるとTOVA API値は有意に向上し、ADHDの小児患者において、客観的に測定された不注意を改善するために使用される可能性がある。と結論づけられた。

EndeavorRxの優れている点としては、既存の薬物治療と異なり、副作用が極端に少ないことが挙げられる。研究で見られた副作用はゲームを長時間プレイすることで生じる、頭痛や気分が優れない、などしか確認されていない。
また薬剤不足、医療費高騰というような近年の問題に対しては、ゲームというデジタルデータの普及によって解決できる。

Akiliのビジネスモデルの変化

AkiliはEndeavorRxを発売以来、保険償還型のビジネスモデルを選択してきた。
これは、患者は病院での診断時に医療費を先に全額支払い、その後保険会社から保険の補助を受けることができる、といった仕組みだ。
日本では、通常では医療費の3割を窓口で支払うことが一般的であるが、保険償還型は医療費が高額療養費などの場合に適応される。

しかし、2023年夏に18歳以上の成人向けに、D2Cモデルとして、 自社のゲームをOTC(Over The Counter:処方箋なしで薬局で購入できる薬)医薬品の販売を行ったところ、EndeavorOTCは売り上げ金額・アプリ継続率ともに大幅な向上が見られたという。

そのため、今後は小児向けにおいてもOTC医薬品の販売を進めていくようだ。
すでにEndeavorRxを処方された患者へのサポートを展開しつつも、人員を40%削減し、セールスの人員を増加させていく。

今回のビジネスモデル変更の判断は、治療用アプリを展開する米国スタートアップPear Therapeutics(ピア・セラピューティクス)社の倒産、というニュースが関わっているのと推測される。
同社は、慢性不眠症改善アプリ『Somryst®』やオピオイド使用障害(OUD)の治療補助アプリ『reSET-O®』などの治療用アプリを多数展開していた。
しかし、保険償還型でのビジネスモデルでは、保険適用までに長期の時間が必要なこと、そしてアメリカ特有の問題として、保険適用が一括でないことなどにより、予想数より下回った処方量数などでの資金繰りの悪化によって倒産を迎えてしまったとされている。

つまり、保険適応だけを狙っていては認証までの長期間をいかにして耐えるか、またその後処方されるまでの患者数の増加、他の治療法への優位性やブランドイメージの獲得等、困難なハードルが多く存在する。
今回Akiliが示した、 OTC医薬品としてのデジタル治療ゲームの販売が今後DTxの販売の主流になってくるかもしれない。

日本での普及

ADHDの治療に病院でゲームが処方される。アメリカでは現在予約制ではあるが、実際に患者さんの元へとゲームが届いている。
しかし、今後は「処方されるゲーム」ではなく、「薬局で購入できるゲーム」となり、ゲームによる医療への介入が進むに連れて、効果が出るのは当たり前で、既存のサプリメントのようなマーケティング上での勝負になってくるかもしれない。

そんなEndeavorシリーズだが、日本では、Akiliは塩野義製薬と提携しており、AkiliのDTxの日本での独占的な開発権と販売権を保有しており、近いうちに日本でも「ゲームの処方」が始まるかもしれない。

EndeavorRxhttps://www.endeavorrx.com/

参考記事
https://alldtx.com/product-best/mentalhealth-best-product-pickup-best/endeavorrx-akili-interactive-labs/
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-permits-marketing-first-game-based-digital-therapeutic-improve-attention-function-children-adhd
https://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(20)30017-0/fulltext

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