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ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム

2017年3月3日、ある歴史的なゲームが任天堂から発売された。
ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(以下bow)」。

圧倒的な自由度とボリューム、奥深いゲーム体験により発売直後から国内外で絶賛された同作は、その年の様々な賞を獲得、日本のゲームとしては初めて4大GOTYを獲得するなど、名実ともに「2010年代最高のゲームの一つ」という評価を確固たるものとした。

今回取り扱う「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム(以下totk)」はbowと世界観を同じくした正式な続編であり、かの名作の続編ということもあり、発売前から高い注目を浴びていた。

反面、あまりに期待値が高すぎると期待外れだった時の反動も大きくなるのが人間の心理というもの。自分は正直「いかに任天堂と言えども、前作を超える作品を創るのは簡単なことではない」「当然面白いものには仕上げて来るだろうけど、あまり期待しすぎるのも良くないかも」とやや冷めた目で見ていた。

結論から言うと、その心配は全くの杞憂であった。
世界観を同じくしながらも、前作と異なる全く新しいゲーム体験がそこにはあり、クリアした時の満足度は前作以上のものがあった。
今回は、前作からいかに進化したのかを中心にtotkをレビューしたいと思う

なお、ネタバレも多く記述していくので、未プレイの方は閲覧しないことを推奨する。


手を取り合って

厄災ガノンがリンクとゼルダに打ち倒されてから数年後。ハイラルの地は順調に復興していた。
ある日、リックとゼルダはハイラル城の地下から発生した瘴気の調査に向かう。
ハイラル城の地下深くで謎の右手に封印されていたミイラを発見する二人。
直後、封印が解け復活したガノンドロフを名乗るミイラ。
彼の放った瘴気によりマスターソードは朽ち果て、リンクの右手は蝕まれてしまう。
その後、ハイラル城を空高く浮かび上がらせたガノンドロフ。
その時発生した地割れに飲み込まれ、必死に伸ばした手もむなしく地の底に消えていったゼルダ。
リンクはガノンドロフを封印していた謎の右手に引き上げられ、突如として出現した地上のはるか上空、空島へと導かれる。
地の底に消えたゼルダを探すため、リンクの新たなる冒険が始まる…

上記のような導入で始まる今作の物語。
一見すると「ゼルダ」を探し「ガノンドロフ」を討伐するという目的自体は前作と変わっていないように見えるが、実際プレイしての印象は全く異なるものとなっている。

まず、前作の物語は基本的に孤独なものであった。
もちろん前作でもリンクには各地に協力者がおり、また4英雄という仲間と呼べるキャラクターも存在していた。

だが、その4英雄はゲーム本編ではすでに故人であり、彼らとの関係性は過去を除くことで垣間見られる程度のものであった。
メインヒロインのゼルダも、ゲーム本編での出番はクライマックスのわずかな部分しかなく、ガノンにいたっては明確な意思のない災害のようなものであった。

反面、今作の仲間である4賢者は、個別のイベントをクリアした後に手に入るアイテム「盟約」を使用することで、彼らの分身とともに冒険をすることが出来る。
会話こそできないものの、常にリンクに付き従い戦闘にも参加してくれる彼らのおかげで、道中の孤独感はだいぶ緩和されている。

また、今作の悪役であるガノンドロフは、明確な野心と悪意をもった一人の人間であり、自らの意思でハイラル全土を支配すべく活動している。
自らの野心のために、ハイラルの初代国王ラウルに頭を下げ恭順の意を示すことも厭わない狡猾さも持っており、倒すべき悪役として魅力的な人物像となっている。

そしてメインヒロインのゼルダ。彼女自身の出番は実は前作とはあまり変わっていない。
龍の泪と呼ばれる地上絵を巡ることで彼女視点の物語を体験することが出来るが、この手法自体は前作のウツシエの場所巡りと全く同じである。
特筆すべきはその内容。前作のウツシエはあくまで過去のリンクとゼルダの関係性を印象付けるためのものでしかなかったが、今作の地上絵巡りはメインストーリーにしっかりと紐づいており、実はオープニングで離ればなれになったゼルダがゲーム開始直後より常に現在のハイラルに存在していたことが明らかになる。

これらの伏線を紐解いてからのゲーム終盤の流れはまさに圧巻であり、歴代でも最も感動的と言っても差し支えないマスターソードの入手イベント、リンクのピンチに駆けつける4人の賢者、追い詰められ黒龍に変化したガノンドロフとの戦いに駆けつける白龍、大空でのガノンドロフとの最終決戦、そしてガノンドロフ討伐後のゼルダとの再会の流れに至るまでその全てに一切の無駄がなく、圧倒的なゲーム体験を感じられるものであった。

個人的に特に印象に残ったのはガノンドロフとの決戦時に徐々に日が傾いていく演出。
特にガノンドロフの体力がわずかになった際には、夕日によりハイラルの空が赤く覆われており、まさに最終決戦にふさわしい美しい演出であった。

また、ガノンドロフ討伐後のゼルダとの再会も印象的であった。
開発者インタビューによると、今作のテーマは「手と手」とのことで、仲間との共闘感など、それを感じさせる演出は多い。

だが、今作のオープニングではリンクはゼルダの手を取ることに一度失敗している。
ゼルダの手を取れなかったリンクは空島に到着し、直後に最初のミッション「ゼルダをさがして」が提示される。
そしてガノンドロフを討伐し再びゼルダの手を取ることでようやく再開をはたし、「ゼルダをさがして」のミッションがクリアとなる。
つまりゲームで一番最初に提示されるミッションはゲームの一番最後にクリアすることになる。
言葉にするとシンプルだが、非常にボリュームの大きいゲームだからこそ、最後に「Msion Clear」の表示が出た時、実にさわやかなプレイ後感が得られた。

答えを創造する

次にシステムについて見ていきたい。

前作bowは「シーカーストーン」というタブレット端末のようなアイテムを起点に、「リモコンバクダン」「マグネキャッチ」「ピタロック」「アイスメーカー」「ウツシエ」という5つの機能を組み合わせることで様々な謎を解いていった。

今作では上記の機能は「ウツシエ」を除き全て撤廃。新たに「ウルトラハンド」「スクラビルド」「モドレコ」「トーレルーフ」「ブループリント」という機能に変更された。

機能の詳細については省くが、システムの方向性として、よりプレイヤーの創意工夫が反映されやすいシステムとなっている。

例えば「ウルトラハンド」は物体を運び上下左右に回転されるという前作の「マグネキャッチ」と同じ機能に加え、物体同士をくっつけるという新たな機能が追加されている。

より具体的に言うと、水に浮かぶ木の板に帆をつけて簡易式のいかだを創る、といった具合である。

さらに今作には「ゾナウギア」という古代文明の遺産があり、これらを活用することで、より高度な創作が可能となる。

例えば上記のいかだに「扇風機」のゾナウギアを付けることで、風に頼ることなく自走するいかだを創ることが出来る。
「操縦桿」のゾナウギアを付ければ、水上を自由に移動することも出来る。

ゾナウギアの種類は20種類以上あり、その組み合わせはまさに無限と言っても差し支えない。
動画サイトなどでは「可変式戦闘機」や「人型起動兵器」を創って魔物を蹂躙しているプレイヤーの姿も見られ、まさにプレイヤーの数だけ創作の可能性のあるシステムとなっている。

空と大地、そして地底

今作の冒険の舞台は、前作と同じハイラルの大地に加え、多くの空島からなる上空と暗闇の支配する地底となっており、それぞれがシームレスに移行する。
舞台が3つでボリュームも3倍…というわけではないものの、十分なボリュームを誇った前作よりもさらにボリュームアップしているのは間違いない。

また、空中アクションやゾナウギアを駆使して探索する空島と、明かりを確保しながら慎重に探索を進める地底で同じ探索でも異なる印象を与えることに成功しており、凄まじいボリュームながら探索が助長になることもあまりない。

地上に関しても、街や馬宿の場所こそ変わってないが、祠を始めシーカータワーに代わり新たな探索の起点となる鳥望台や、前作にはなかった洞窟など新たな探索ポイントも多数追加されており、新鮮な気持ちで探索が楽しめる。

なにより地上だけでなく空や地底をあてどなく冒険することは理屈抜きに面白い。
なんとなくぶらぶらと冒険するだけでも、次々と気になるスポットやミッションに出会うことが出来、ハイラルの世界に浸らせてくれる。

様々な部分が前作から進化した今作だが、シリーズの根底にある「わくわくするような冒険」はしっかりと継承されている。

余談だが、今作の祠の名称は京都市の地名から取られていることが、京都市出身の自分には地味にうれしかった。
ちなみに実際の京都市の地名の位置関係と祠の位置関係は割と一致する。
もし京都に旅行に来られるときは、今作の祠の位置を思い返していただければ、散策の助けになるかもしれない。

求められる想像力

全体的に非常に満足した今作の出来だが、気になる点もある。

まず、ユーザーの想像力次第で楽しみ方の幅に差が大きく出てしまう点。
前述した「可変式戦闘機」や「人型起動兵器」などは、当然それを創ろうと思わなければ創ることは出来ない。
当たり前のことだが、人の想像力というのは結構個人差がある。発想できない人には一生発想が出来ないものだ。

無論、動画サイトなどを確認すれば自分の想像力をフォローすることが出来る。
だが、実際創るとなるとまた別のハードルが立ちはだかる。
いかに優秀な建築デザイナーと言えど、実際に現場で具現化する人がいなければ画餅に過ぎない。
「マインクラフト」で動画サイトにある優れた建築物を自分でも創ろうとして挫折した人も決して少なくないだろう。

もっとも、今作は本格的なサンドボックスゲームではない。
多くの謎解きでは、近くに謎を解くための十分な材料も提供されており、人並み程度の発想力があれば攻略することは出来る。
EDを迎えるだけなら「可変式戦闘機」も「人型起動兵器」も創る必要はない。

操作感について。
前作から気になってたことだが、しゃがみが暴発しやすい。
左スティックを押し込むことでしゃがみが発動するのだが、回避コマンド(左スティックを左右か後ろに押しながらジャンプボタン)を入力したときに特に暴発しやすく、敵の攻撃を被弾することが多い。

この点は前作から指摘されていたことだが、今作でも改善されていなかった。
解決するためには、ジョイコンではなくプロコンを使用するしかないようだが、任天堂公式ページによると税込みで7,678円と決して安い買い物ではない(中古品という手もあるが、当然品質は保証されていない)。

ボリュームについて
地上に加えて空島と地底もある今作だが、重要なイベントのほとんどが地上で発生する。
空島と地底にもイベントは存在するが、密度の差はかなり大きい。

空島はオープニングで訪れる始まりの空島が一番大きく、それ以外の空島は全体的に小ぢんまりしており似たような景色も多く、探索の楽しみはいまいち欠ける。

地底は地上と同じくらい広大だが、イベントはほとんど発生せずアイテムを入手するための場所という印象が強い。
もっとも今作の事実上のラストダンジョンは地底にあり、一応の面目は取れている。

いくつか気になる所も書いたが、正直揚げ足取りに近く、今作の出来を大きく左右するものではない。
何よりも、これだけのボリュームのゲームを大きな破綻なくまとめ上げたその手腕には感服するよりほかない。

総評

色々な意味で予想を上回る一作であったと言える。
一見、舞台を同じくした正当進化に見えるかもしれないが、実際プレイすると前作から大きく変わった部分が目立つ。

特にウルトラハンドやスクラビルドといったプレイヤーの創作意欲を刺激するシステムは、シリーズに新たな風をもたらしたと言ってもいいと思う。

その一方で、ボリュームの大幅な増加など正当進化と言える部分も持ち合わせている。

欠点らしい欠点もほとんど見られないが、プレイヤーの想像力で楽しみ方の幅が大きく変わるため、その点は好みが分かれるかもしれない。

とは言え、その完成度に疑いの余地はなく、2023年を代表するゲームの一つなのに異論はないだろう。

前作をプレイされた方も、そうでない方にもお勧めできる、任天堂渾身の一作である。

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