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SEA OF STARS

1995年という年はRPG好きにとって特別な年である

というのも、その年に発売されたRPGタイトルを並べてみると、「ドラゴンクエスト6」「ロマンシング サ・ガ3」「テイルズ オブ ファンタジア」「聖剣伝説3」「幻想水滸伝」「不思議のダンジョン2 風来のシレン」「タクティクスオウガ」「フロントミッション」「アークザラッド」といった有名な作品から、「エストポリス伝記Ⅱ」「天地創造」「ミスティックアーク」「真・女神転生 デビルサマナー」「リンダキューブ」「キングスフィールド2」などといった、やや知名度は劣るもユーザーから高く評価された作品まで、非常に幅広いタイトルが発売された「奇跡の年」だからである

そんな奇跡の年にあって、なお一際輝くタイトルがある

それは「クロノ・トリガー」
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いであった旧スクウェアから発売された渾身の一作であり、当時のRPGの最高到達点といっても過言ではない傑作である

その影響は国内外問わず非常に大きなものがあり、現在でも影響を受けた作品が度々現れる

今回紹介する「SEA OF STARS」もまた、「クロノ・トリガー」に影響を強く受けた一作であり、様々な部分で熱いリスペクトを感じる出来となっている

「クロノ・トリガー」が発売されてから約30年、当時のファンによって創造された「SEA OF STARS」はどのようなゲームなのか、早速レビューしていきたい

例によってネタバレもあるので、未プレイの方は留意していただきたい


概要

「SEA OF STARS」とは、2023年の8月29日に発売されたRPGである

対応プラットフォームは、「Steam」「Nintendo Switch」「PlayStation4」「PlayStation5」「Xbox One」「Xbox Series X/S」であり、現行のプラットフォームならどれでもプレイすることが出来る

ちなみに筆者はNSのパッケージ版を購入した

開発はSabotage Studioというカナダのインディーズゲームデベロッパーによるもので、前作にあたる「The Messenger」の数千年前を舞台にしてる

この「The Messenger」も、テクモの忍者龍剣伝に影響を受けた探索型の2Dアクションゲームで、プレイヤーからの評価は高いようだ(筆者は未プレイ)

ちなみに、続編とは言え基本的にはストーリーは今作で完結しているので、前作をプレイする必要はない

物語

宿命の旅が織りなす「至点の子」の物語

太陽と月の力が融合した「蝕の魔法」を操る「至点の子」と呼ばれる2人の物語。
その魔法は、邪悪な錬金術師「フレッシュマンサー」が生み出す恐ろしい怪物に対抗できる唯一の力。

Nintendo Switch版 パッケージ裏より

「至点の子」と呼ばれる太陽と月の力を操る二人の主人公、「ゼイル」と「ヴァレア」が幼馴染のお料理戦士「ガール」を始めとした仲間と共に、悪の錬金術師「フレッシュマンサー」と彼の生み出す怪物の打倒を目指すという、非常にオーソドックスな導入から始まるのが今作のシナリオである

ちなみに主人公は「ゼイル」と「ヴァレア」の二人から一人を選ぶ形式だが、どちらを選んでも物語に変化はない
せいぜい道中のメッセージが変わる程度であり、選ばなかった方の主人公も仲間として最初から加入するほか、ゲーム中いつでも主人公を変えることが出来る

シナリオとして印象的なのが、クロノ・トリガーをオマージュしたであろうイベントがかなり見られること

詳細は省くが、プレイして既視感を感じるシーンは多く、クロノ・トリガーに対する強いリスペクトを感じる部分が多く見られた

また、90年代のJRPG風の幻想的なグラフィックも、今作のシナリオを良く引き立たせている

空に浮かぶ学園、眠った竜が巻き付いている山、幽霊船、不気味な沼とその奥にある魔女の館、巨人の住む空中都市、そして文明の進んだ別世界など、冒険心をくすぐる様々なロケーションが、幻想的な2Dグラフィックで再現されている様は、90年代に青春を過ごした筆者にとって、非常に感慨深いものであった

BGMに関しても印象的な曲がそろっており、特に通常戦闘曲は基本的なメロディーこそ変化がないが、シナリオ進行に合わせて微妙にアレンジされており、今作でも特に印象的に残ったBGMであった

反面、シナリオは全体をプレイヤーを置いてけぼりにするような展開が見られた

例えば、中盤に眠り竜を巨大なパンを作って起こすというイベントがあるのだが、何故そんなことをしなければならないのか?という疑問に対する説明がスッポリ抜け落ちているため、プレイヤーは訳も分からずお使いイベントをこなすことになるしかもこの眠り竜、目が覚めるとヤバいとシナリオで説明があったので尚更である

他にも、重大な事態をわりとあっさりと流したり、前述のような急展開に簡単に適応したりと、プレイしてどうにも違和感を感じることが多かった

一応シナリオ全体を通してみると、それなりに衝撃的なシーンや熱いシーンもあり、整合性も取れているのだが、展開がどうにもプレイヤーの感情に寄り添っておらず、いろいろと惜しいと思ったのが正直なところだ

戦闘

今作のバトルは、マリオRPGに近いものとなっており、オーソドックスなコマンドバトルをベースに、攻撃や防御の際にボタンをタイミングよく推すことで効果がアップするというシステムとなっている

攻撃手段は、通常攻撃と各キャラ固有のスキルの他に、二人以上のキャラが同時に攻撃する「コンボ」、コンボを数回使うことでたまるゲージを消費して攻撃する「究極技」がある
また、敵を通常攻撃することで、「生マナ」が溜まっていき、それを取り込むことで通常攻撃やスキルの効果を上げることが出来る(ブースト)

敵は通常攻撃のほかに、強力なスキルも使うのだが、敵の攻撃前に特定の属性攻撃を規定回数当てることで、行動をキャンセルすることが出来る
これを「ロック」という
「ロック」は強力なスキルほど、キャンセルするための攻撃回数が多くなる傾向がある
そのため、確実にキャンセルするためには、味方の行動遅延スキルや複数の属性で攻撃をすることも必要になってくるが、間に合わない場合も当然ある
例え行動をキャンセルできなくても、ロックを解除するほど敵のスキルの効果は弱まるため、攻撃は無駄にはならない

まとめると、一見シンプルでとっつきやすいシステムだが、意外と戦略や駆け引きの要素は多く、実際プレイしてみると、なかなか忙しいバトルとなっている

また、戦闘バランスは終始安定しており、無駄な経験値稼ぎは一切する必要なく最後までクリアできる点も好印象である

その一方、バトルそのものはやや単調な出来に思える

確かにアクション入力やロックの解除など、プレイヤーを飽きさせない工夫はみられるのだが、バトルに偶発性が少ないためか、ややスリルに欠ける印象を受ける

また、難易度のバランスは取れているがな技のバランスは取れているとは言い難い

例えばコンボ技は、味方全体を回復する「双癒光」の使い勝手が極めて良く、溜まったコンボゲージの多くはこれに使う事になったため、せっかくの豊富なコンボ技を使う機会がほとんどなかった

攻撃用のコンボ技にしても、「サンムーメラン」や「大炎上」といった優秀な技と使えない技の格差はかなり大きく、結果的に同じ技ばかりを連発するのが最適解となっている

究極技に至っては、仲間の一人であるレシュアンのそれが「敵全体に大ダメージ」+「味方全体を回復」+「敵全体の行動を遅延する」とチート性能のため、事実上一択といっても過言ではない

これらの点は、90年代ならそれほど気にならなかったかもしれないが、現代の洗練されたゲームに触れていると、どうしても気になってしまうというのが正直な所だ

探索

今作の特徴の一つに、豊富な探索要素があげられる

各キャラの最強装備、全60個ある収集アイテム「虹の巻貝」、ミニゲームの「釣り」「ホイールズ」、料理のレシピ、楽譜、秘宝、遺物など、実に多くの収集要素が存在し、そのうちのいくつかは真ENDの条件にも関わってくる

これだけ多くあると集めるのも大変だと感じるかもしれないが、未入手のアイテムを教えてくれる秘宝「オタカラオウム」もあるため、実際はそこまで大変でもない

ただ、今作にはルーラもリレミトも存在しないため、その点では手間かもしれない

探索要素のうち、いくつかを解説しよう

最強装備は、ゲーム終盤に仲間の個別エピソードをクリアすることで入手できる
主に隠しダンジョンを踏破し、最奥のボスを倒す事で入手できる(一部例外あり)
隠しボスは基本的に本編ラスボスより強いため、一度本編をクリアしてから挑戦するのが良いと思われるが、先に入手するのも勿論あり
ちなみに個別エピソードのヒントは、ゲーム終盤のキャンプで仲間に話しかけることで聞ける
この辺からもクロノ・トリガーの影響が垣間見える

虹の巻貝は、いわゆる小さなメダルに相当そる収集アイテムで、一定の個数を集めるごとにアイテムと交換してくれる
60個集めると交換できるメタ的ななにかこと虹の星は、真ENDへ導くための重要アイテムである
虹の巻貝はゲーム序盤から特殊な青い宝箱に入っている他、ミニイベントをクリアすることでも手に入る
ただし、ダンジョンの宝箱の中には、ある程度ゲームを進めて探索用のアイテムを使わないと手に入らないものもある
ゲーム終盤になると空を飛べるようになり探索の効率が上がるので、そこから本格的に収集しても良いだろう

ミニゲームは定番の釣りを始めいくつかあるが、今作ならではのものに「ホイールズ」という盤上ゲームがある
二人のプレイヤーによる対戦ゲームで、それぞれのプレイヤーが盤上に2体のフィギュアを展開し、スロットを同時に回して出目に応じてフィギュアで攻撃を行い、相手の体力を先に0にしたほうが勝ちというゲームである
一見ややこしいように思えるが、実際のルールはかなりシンプルで、すぐに慣れることができると思う
シンプルが故に気軽にプレイすることができ、冒険の息抜きとして機能している他、街事のNPCに勝ち続けると、やがて最強のプレイヤーと対戦出来るというやり込み要素もある
ちなみにフィギュアの性能には格差があり、特にアサシンは敵の行動を遅らせながら攻撃できるという反則的な性能のため、こいつさえ手に入ったらクリアしたも同然である

他にもキャンプで作成出来る回復アイテムの種類が増える「料理のレシピ」、各街で音楽を演奏する仲間の海賊に渡すことで音楽の種類を増やせる「楽譜」、手に入れる事で様々な冒険の恩恵を受ける事が出来る「秘宝」、仲間の語り部「チークス」に渡すことでストーリーの裏設定を聞くことが出来る「遺物」など、収集要素は多岐に渡る

そのためか今作のボリュームは意外と多く、真ENDに辿り着くまでにおよそ30時間程度はかかる
値段を考慮すれば、かなりコストパフォーマンスに優れていると言えるだろう

総評

一つのゲームとしては決して悪くない出来である

ストーリー、戦闘共に多少の粗は見られるが良くまとまっており、最後まで大きなストレスなくプレイ出来た

システムも利便性に若干の難こそ見られるが、快適性を大きく損ねるほどではない

その反面、今作ならではの魅力に乏しい印象があり、良くも悪くもファンの作った模倣作品の域に収まっているゲームだと感じた

もっとも、今の時代に2Dドット絵のJRPG風ビデオゲームを作る事自体が挑戦的な行いであり、おそらく大企業でこのような企画はまず通らないと思われ、インディーズゲームだからこそ実現した企画なのは確かだろう

インディーズゲームの可能性を感じさせてくれたとともに、その限界もまた感じさせられた一本、それがこの「SEA OF STARS」である


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