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どうやらニンゲンやめるのには5時間かかるらしい。



今日は半年以上ぶりに髪を染めに行ってきた。
これまでどんなに期間が空いても3ヶ月に1度は脱色して染め直していたのだが、今年に入ってからは美容院にもなかなか行きづらくなっていた。
その間に自宅でのメンテナンスの腕を上げ、そこまで高頻度で通わなくても気にならなくなってきたのだが、さすがに地毛の黒髪が半分以上を占めてしまったので久しぶりに予約した。


なにせ明日は楽しい予定が入っているからだ。


予約時刻は12時。
単なるカラーでなくブリーチを含むため、毎回施術時間が長くなる。
最近では平均4時間かかるため、出来るだけ早い時間に予約をしている。
もしも私が担当の美容師だったら4時間もかかる客の予約は「明日は大仕事だぞ」と思いながら気合を入れるだろう。



今の美容院には2年ほど通っている。
その前の美容院へは4年間通っていたのだが、実家の引っ越しに伴って片道1時間以上かかるようになったので、新しいところを見つけたのだ。
生意気にも“美容院”などという洒落た名前のところへ通いたがるわりに、私は“美容院”と名のつく店の雰囲気が、大抵の場合は得意でない。
“美容師“にももちろんいろいろなタイプの人がいるが、心にもなさそうなお世辞や興味のなさそうな質問、ナゾの距離感から繰り出されるタメ口、自分で施術しておきながら「イイじゃん」の連発(お世辞を通り越して自画自賛に思えてしまう)などにはかわいた笑いしか出ない。
また、あの空間のなんだか人を緊張させる雰囲気も苦手なのだ。



その点、4年通った美容院は良かった。内装がアーティスティックで初めて足を運んだときから安心感があったし、担当の美容師もサバサバしていて、私が上記にあげたような”THE美容師“像にも「わかる〜」と言いながら笑ってくれたのであった。決別したわけではないので今後も折に触れてあのお店へ行きたいし担当に会いたい。そう思わせる良いサロンだ。


そんな風に心に残るサロンがあるのだが、今は自宅から数駅のところへ通っている。
そこもなかなかに良い感じなのだ。店内は緑を基調としたクリーンな雰囲気で、所属しているスタッフの方達も”THE美容師“っぽい人はおらず誠実な接客が印象的だ。

なによりも、担当してくれている美容師の腕がかなり良い。
原宿、代官山、下北沢、表参道、これまで様々な

サロンに行ったことがあるが、カットもブリーチもカラーも、おそらく一番仕事が丁寧で完成度が高いのだ。
何度通ってもカウンセリングをきちんと行ってくれるし、ちょっとニュアンスを伝えるだけでこちらが具体化できていなかった部分まで完璧に”イイ感じ“に仕上げてくれる。
それから、今までの美容師と決定的に違うのは、ほとんどお喋りをしないところだ。
愛想が悪いわけではないのだが、髪の施術に対して毎回真摯に、かつ熱心に取り組んでいるのが見て取れるので、これがプロの仕事か、とこちらもなんだか感心しながら見入ってしまう。



そんな担当美容師を指名して、久しぶりに髪をメンテナンスしてもらった。
席についたら15分ほどかけて通っていなかった間のメンテナンスの状態を伝える。それから今日やりたい髪型についてのすり合わせ。私の場合は大体カラーの色味の相談がメインになる。画像を見て良いと思ってもあまりにも退色が早いと残念な気持ちになるため、色持ちも含めて色味の調整をしてもらうのだ。


それから、ブリーチ剤の塗布が1時間。髪を薄く束にしては塗り、アルミホイルをかぶせる。その繰り返しで、私だったらこんなに根気のいる作業は無理だな、と思いながら無心で眺める。この間、お互いにほぼ無言。担当のブリーチが毎回ムラなくきれいに抜けるのはこの工程でとる髪の量が本当に細かいからだろうな、と思う。


塗布し終わったらブリーチ剤を浸透させるために約1時間ほど放置する。最初に20分置いてから抜け具合を見ながら調整するのだ。これまで放置中は雑誌と飲み物が用意されていたのだが、感染症予防のため雑誌はタブレットの中の電子書籍に、飲み物はペットボトルの水にかわっていた。ただ座っているだけなのだがこの時間が結構辛かったりする。厚みのあるクリームを含んだ髪はどっしり重たくなるので、首や肩が凝るのだ。今回は半分ほど地毛だったためその分薬剤の量も多く、体感1kgくらい頭に乗せていた心地がした。


これで時刻はすでに14時なのだが、ブリーチ剤を落としてみたところ、髪の中央部分に黄身が残っていた。このまま染めると発色が悪くなり、退色後の髪も悲惨な色になる。いかにもブリーチしました!というような下品なギラつきが残る。通常の美容師であれば1度ブリーチし終えているので「上手に抜けましたね〜」などと言ってそそくさとカラーにうつるのだが、担当は私の髪の様子をつぶさに見たあとで「今日時間大丈夫ですか?」と聞いてくれた。もちろんOKだ。


と、いうわけで抜けきらなかったところに再度ブリーチ剤を塗布していく。自分だったら絶対無理だと思う工程を即座に再放送してもらい、30分ほど放置。薬剤を流し、今度こそきれいに抜けた状態でようやくカラーにうつる。

時刻は15時。

この1年間ずっとブルーだったのだが、今回は気分をかえて暖色系にすることにした。とはいえあまり明るすぎるとこれまた退色したときに田舎のヤンキーのような有様になるため、紫芋のような色だ。”おさつ“のパッケージカラーと言っても過言ではない。遊び心で毛先は濃い紫にしてもらう。まずは全体にベースとなる紫を塗布。30分ほどしっかり置いてから、シャンプー台へ行き、ベースを流す。そのままシャンプー台で毛先に色を置き、少し待ってから再度流せばカラー完了だ。
あまり身体を動かせないことによる首肩の凝りと空腹でこの辺りから意識が朦朧としていた。朝食をとったのが9時だったため、7時間何も食べていないことになる。好きなときに食事できる無職にとってはなかなかハードである。何か軽食を持ってくれば良かった、と後悔し始めていた。施術してもらうこと自体は苦ではないのだが、空腹だけはネックだった。


そうして16時になってようやくカットが始まった。実はカットが一番早く終わる。伸びきった刈り上げを気持ちよく芝刈りしてもらい、髪の長さとボリュームを整え、最後に軽くセットしてもらえば終了だ。2ブロックは簡単で良い。



そんなこんなで本日の施術は5時間だった。
私が着席してから離席するまでに他の美容師は平均2人くらいの施術を終わらせていた。ハリウッドスターでもないのに毎回こんなに時間をかけて施術してもらうのもなんだか気がひけるのだが、髪のメンテナンスは人生の楽しみのひとつなのだ。
おかげさまで今回も色味からシルエットに至るまで何もかもが文句なしに”サイコ〜!“な出来になった。とても満足で、とても嬉しい。
私の施術中、美容師は私服にブリーチ剤をたらし、手ごと紫色に染めていた。
その尊い犠牲を忘れないでいたい。
こうしてどこか抜けているところがあるのも親しみやすさのひとつかもしれない。


これだけ時間をかけてもらい、(お見せできないが)これだけの仕上がりにしてもらって全メニュー込みでゲームソフト約4本分の料金だ。もちろん安くはない。しかし私は自分のしているようなヘアカラーを身に纏える芸術作品だと思っているし、上述したように人生の楽しみにもしているので無職である今でもこの価格は十分妥当だと感じている。
ちなみにこのサロンは今回のように2度ブリーチをしてもカラーリングで2色使っても追加料金はない。シンプルに最高である。



店を出るころにはすっかり夕方になっていた。席から立ち上がれるか心配になるくらいお腹が空いていたが、幸い街中なので大戸屋が食べたいなあと思いながら角を曲がったら突如として大戸屋が現れた。


ありがとう美容師。
ありがとう大戸屋。



そんな感じで1日イイ気分で過ごしていたら、今日はうっかりnoteを書き忘れるところだった。



あぶないあぶない。






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