note05 黒ひげ危機一発、ヒットの理由
※この記事は2012年公開のブログ記事を一部加筆訂正したものです。
ごあいさつ
やっほー。かいぽんです。
しばらくゲームとはあんまり絡まないゼネラルな話が続きました。ちょっと反省して、今回はちゃんとゲームデザイン関係のお話しです。といっても教材は玩具ですが。ではいってみましょー!
本日の教材『黒ひげ危機一発』
みなさんご存知の『黒ひげ危機一発』という玩具がありますね。今回はこの玩具のゲームルールの変遷がテーマです。Wikipediaによれば、このゲームは1975年に発売され、いまも販売している息のなが〜いロングセラー商品とのことです。すごいですね!
でもそんな黒ひげさんも、発売当初はいまいち人気がなかったそうです。
黒ひげさんは発売当初、剣を刺して「黒ひげを飛び出させた人が勝ち!」というルールでした。つまり処刑を完了させた人が勝つ。しかし、このときはあまり人気のないゲーム玩具だったのですね。
しかしその後「黒ひげを飛び出させた人が負け!」というルールに変更されました。囚われのおやびんに剣を刺していき(脅されて?)、うっかり処刑してしまった奴が負け、という具合です。
勝敗の決め方をまったく逆にするという逆転の発想!!実にドラスティックなルール変更です。
ルールを逆にした結果、「黒ひげ危機一発」はだんぜん面白い玩具になりました。その面白さが評判となり、それが後のヒットにつながっていったのですね!(ほかにも、このあとテレビ番組で使われるなどして認知度があがった、などの背景もあるようです)
このルール変更こそ、正真正銘のゲームチェンジャーってやつですね。
なぜルールを入れ替えたら面白くなったの?
さて、ここで疑問がわきます。この商品の命運を変えたルール変更、「飛び出させたら勝ち!」を「飛び出させたら負け!」にルールを入れ替えたら、なぜゲームが面白く感じるようになったのでしょう??? ほんのちょっとの変更にみえますが、ここにいかなるメカニズムが働いたのでしょうか???
ちょっと改行しておきますので、そのあいだに少し考えてみてください。
答えはこのあとすぐ!もうまもなく!
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黒ひげさんに何が起こったのか?
まず、発売当初のルール「飛び出させたら勝ち!」のゲームプレイを考えてみます。
ルール1「飛び出させたら勝ち」 ゲームスタート!
刺す→はずれ!
刺す→失敗!ハズレだ!
グサッ→また失敗!
グサッ→ミス!失敗だ!なにをしているッ!
刺す→またもやハズレ!もう君には頼まん!
刺す→バ〜ッド!また外したぞ!ニック、国へ帰れ!
グサッ→成功!すぽ〜ん! 君の勝利だ!!!
平均的にいって、上記のような失敗→失敗→失敗→成功、というゲームプレイになるかと思います。
では次に、変更後のルール「飛び出させたら負け!」のゲームプレイをみてみましょう。
ルール2「飛び出させたら負け」 ゲームスタート!
刺す→成功!大丈夫だ。
刺す→グッド。セーフだぞ。
グサッ→またまた成功!いいぞ。
グサッ→OK!セーフだ。
刺す→成功!ナイス刺し込み!その調子だ!
刺す→成功!フ〜ゥ、やるじゃない!
グサッ→失敗!ぽぽぽぽ~ん!黒ひげは星になった!!!You lose!!
平均的には、上記のような成功→成功→成功→失敗、という流れのゲームプレイになりますね。
プレイヤーには成功体験を積ますべし、という昨今のゲーム手法からいえば、失敗続きのルール1よりも、成功ケースが多いルール2のほうが優れてるのは明白ですが、これはじっさい正確にはどういうことなのか、もう少し詳しく見てみましょう。
難易度曲線で比較する
「黒ひげ危機一発」は、ゲームスタート時から差しこみ穴に剣を差し込んでいくことで、差しこめる穴の数がどんどん減っていき、それに従いだんだんと当たる確率が上がっていきます。おやびんが死にやすくなっていく!
つまり、
最初は当たりにくく、ゲームが進むにつれ当たりやすくなる
という単純な数学的原理が働いています。ハズレの穴が減っていくからね!
これを難易度の変化として考え、ルール1の「飛び出させたら勝ち」という場合を難易度曲線でプロットしてみましょう。
このようにゲーム序盤は当たりが出にくいため難易度が高く、それがゲームの進展に従い当たりが出やすくなって難易度が低下していく様子が分かります。
つぎに、ルール2「飛び出させたら負け」の場合の難易度曲線はこうなります。
ゲーム序盤はセーフの穴が多いため難易度が低く、ゲームが進むにつれ負けを引く確率が上がり、難しくなっていきます。
これをふまえて、件のルール変更でどうなったのか、並べて見てみましょう。
なんということでしょう!
ルール1「飛び出させたら勝ち」からルール2「飛び出させたら負け」にルールを反転させたことで、難易度曲線もみごとに反転してしまいました!まさに劇的!
「黒ひげ危機一発」のルール変更の意味は、とどのつまり、
難易度カーブが適正になるよう修正した
ことにほかならない様子が見てとれます。
まとめ
「黒ひげ危機一発」のゲームルール変更は、じつは難易度調整だったのです。
ゲームを制作するうえで、難易度曲線を調整することは多々あると思いますが、ルールを変更することで難易度が適正に調整される、というすさまじいアクロバットとはすごいですね!こういうこともあるんですね〜。
ゲームのルールを変更したり難易度を調整したりする場合、相互にゲームプレイに影響を及ぼす可能性を十分に承知しておくことが大事だな〜。と、かいぽんはそう思いました。
ルール変更によりヒット商品になった理由を述べるなら、そのほかにも、「難易度上昇に従いスリルも上昇していく」だとか、「ひとりだけの勝者が出るぐらいだったらみんな横並びで負けをひとりだけ作るほうがいい」どすぐろい足の引っ張り合い日本的ムラ社会の構造的精神性うんぬんが日本市場にマッチした……というような推論もなりたちますよね。いろいろ考えさせられますね(^▽^)
おわりに
さて今回のお話しはいかがでしたでしょうか。ちょっとした玩具のゲームであっても、その面白さの源泉を探ってみることでビデオゲームづくりの参考になったりすることがあるかと思います。たのしいですね!
それではまた。ばいちゃ〜。
今回の参考ゲーム:黒ひげ危機一発 (2011年 NEWパッケージ)
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