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note08 「スイミング・プール」にF2P(フリー・トゥ・プレイ)の真髄をみた!

※この記事は2013年公開のブログ記事に一部加筆訂正をしたものです。

金沢21世紀美術館について

金沢に「金沢21世紀美術館」という現代美術館がある。

多くの公立美術館が経営で苦しむなか、この21世紀美術館は2004年のオープン以来毎年のように200万人以上の入館者数を集めており、地方公共団体が運営する美術館のひとつの成功モデルとして有名となっている。

美術館の建屋自体がひとつの現代アートといったかまえで、円形の建屋の周囲全面がガラス張りで未来感溢れたつくりとなっており、内外部からの見通しよく、またその敷地も塀壁ない開放的な芝生の空間となって周囲の街並みのなかに佇んでいる。

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金沢21世紀美術館
建屋内より

この美術館で特筆すべきは無料開放ゾーンの充実ぶりである。美術館内のかなりの部分、数多くのアート作品が無料ゾーン内に展示されており、その開放的な敷地の雰囲気とも相まって市民のだれもが気軽に立ち寄り、アートに触れることができるよう配慮されている。

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金沢21世紀美術館
外観

全体としてこの21世紀美術館は、現代美術アートというよりはいっこのアミューズメントパーク的な趣きがあり、美術に興味のない方や子供たちにもなかなかに楽しめるつくりになっている。みなさまにおかれましても金沢を訪れた際には、ぜひ立ち寄られたい。

スイミング・プール

さて、ここからが今日の本題だ。その21世紀美術館の恒久展示品のひとつにレアンドロ・エルリッヒ作「スイミング・プール」という作品がある。当美術館でもっとも人気のあると言っていい評判のアート展示である。

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レアンドロ・エルリッヒ 「スイミング・プール」

一見するとへんてつのない小さなプールであるが、よくみると中に人?人が??
ええ~?どうなってんの??

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というアートなのであります。

無料ゾーンと課金ゾーンと

いまひとつ解説をすると、このプールの上側(写真の撮影位置)は無料ゾーンに含まれていて、タダで見ることが出来ます。

(※2021年加筆:現在はおいたする客ゲホンゲホン大人気すぎて残念ながら有料ゾーンになっちまいました)

しかしながらプールの下側に行くには、企画展または特別展の有料チケットを買わないと立ち入れません。見るだけなら無料だけど、プールの中に行くには有料だよ~。てな仕組みになってます。

これはまさにゲームでいうところのF2P(フリー・トゥ・プレイ)ではなかろうか?
と思いませんか?すごいよね。美術館で。

この展示をよく見てみると、プールの上にいる無料プレイヤーと、プール内にいる課金プレイヤーとが、水面越しにお互い手を振り合ってコミュニケーションとったりして楽しんでいます。

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プールの中から見るとこんなかんじ

無料プレイヤーと課金プレイヤーの両方がいることではじめて成立する、そんなインスタレーションになっているのです。こういう展示物は21世紀美術館でもこのプールだけです! 

すなわち期せずして、課金プレイヤーがいなければ成り立たない展示物、なわけです。

※くどいですが現在では人流抑制のためどちらも有料ゾーンとなっています:2021年加筆訂正

F2P(フリー・トゥ・プレイ)の理想形

ここで注意していただきたいのは、これは一般によくいわれる、「お金を払ってるプレイヤーがいるからこそ商業的に運営がなりたち、ために無料プレイヤーも楽しめる」、という文脈とはまったく異なっているという点です。

というのも、無料プレイヤー側からしてみれば、課金プレイヤーが水の底に沈んでいるのを見てアッヒャッヒャwwwとかいって楽しむ作品であり、もし課金プレイヤーがいなければ(水底に誰もいない状態を想像してみてください)、単なる何の変哲もないプールにしかみえません。「これじゃ出来損ないだ。アートにならないよ」(山岡士郎風)ということになってしまいます。

そして水底にたむろしてる課金プレイヤーを見て、「自分もそこへ行ってみたい」というモチベーションが無料プレイヤーにも生まれるわけですが(これはわりと普通の導線ですね)、さてお金を出して課金プレイヤーとなって水底に行ったとしても、こんどは上を見上げて無料プレイヤーと戯れなければ今一歩楽しくないわけです。

このような意味で、無料プレイヤーと課金プレイヤーが互いに互いを見世物とする構図が生まれ、両者がともに存在しているからこそ、両者ともが楽しめる、という寸法になっているのです。

さらに重要なのは、決して課金プレイヤーが無料プレイヤーを食い物にしているわけではない点です。


そこにこそ、僕はF2P(フリー・トゥ・プレイ)の理想形を感じました。


重ねて強調しますが、特に課金プレイヤーが無料プレイヤーにとっての見世物コンテンツになる、という点は、実に平和的?でたいへん素晴らしい仕組みではないでしょうか。

この構造を実際のゲーム設計として組み込むことは実現の難しい課題といえますが、すくなくともF2Pの未来になにかしらのありようをみた思いであります。

おわりに

今回のお話しはいかがでしたでしょーか。普段とは違う硬い書き出しで始まってどうなることかと思いましたが、それはさておき、美術館ひとつとっても、ゲームデザインのヒントになることがけっこうあるものですね~。 

さて、かように金沢21世紀美術館は素晴らしい施設で、「スイミング・プール」以外にも、数々のたのしげな展示品があります。金沢を訪れた折にはマジぜひ行ってみられるといいかと思います。場所も金沢城や兼六園のすぐ隣だから行きやすいしね! ぼくも金沢に帰省した際にはしょっちゅう行ってるよ!

金沢21世紀美術館公式サイト
ぐるたびの施設紹介ページ(必見)

休館日も多いので、訪問時には公式サイトで確認してからがよいです。

あ、あとね。この「スイミング・プール」、雨がふっちゃうと上側は立ち入り禁止となります(滑るかららしい)。訪れる際には天候にもご注意ください。他の展示物は雨でも大丈夫ですが、屋外展示もあるので晴れるにこしたことはありません。

それではみなさんダスビダーニャ!

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