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しょうじこずえ「MIKE」

モチーフの眼がこちら側を直視している絵はあまり動かない(売れない)と、作家さんにアドバイスすることがあります。飾った時に、いつも凝視されているようで気になるから、という話をよく聞きます。しかし、しょうじこずえさんに関してはそのアノマリーの適用外でしょう。眼が命ともいえる方だからです。彼女の近作「MIKE」(ミケ)についてご紹介いたします。

しょうじこずえさんについて

しょうじさんは1988年、宮城県山元町生まれ。東北生活文化大学生活美術学科在学中に学科内コンクールで最優秀賞を受賞して注目を集めるようになった気鋭のアーティストです。卒業後には「MONSTER EXHIBITION 2017」でも優秀賞を受賞しています。この企画では優秀賞は2人だけ選ばれるのが通例のようですが、ちなみにこの年しょうじさんと同時受賞したのは榎本マリコさんですので、とても絶妙な並びが実現していた回でした。

しょうじさんの詳細なプロフィールは、こちら。

とにかく展示活動の活発な方です。しょうじさんのSNSを探してご覧になってください。年に何回、個展を開いたりグループ展に参加しているんだろう、と不思議に思うほど多いです。常に手を動かし何ごとにも情熱をもってあたっているパッショニストといったところです。

「MIKE」の制作技法

彼女の真価がもっとも分かりやすいのは「貼り絵」「布絵」の作品。今回の一枚「MIKE」もこの手法による作品です。

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しょうじこずえ「MIKE」(2020年)木パネルに布、貼り絵、刺繍
22.7×15.8cm。

描いた下絵の上に、さまざまな色の布の端切れを重ねて貼り合わせ、その上に刺繍を施したりキルト綿を貼ったりして絵を描くもので、最後に木パネルに貼り合わせて一枚の作品とします。

他にペン画や鉛筆画のドローイング、チェンソーとノミを使って木材を彫像し着彩する立体も多く作っていますが、布絵の解題のような位置づけがドローイングで、そのカットアップ感覚を3Dで試みているのが木彫着彩作品かなと私は感じています。

おもに自然や生き物たちとその生命力をテーマにすることが多い、しょうじさん。見方が難解な怪物のような表現になることもありますが、「MIKE」はご友人の飼う三毛猫がモチーフだということで、ごく分かりやすい描画ですよね。布絵の特徴がここに集約されている良作です。

心を打つ画家の情熱

「MIKE」を遠目に見てみると、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの絵に似たものを感じないでしょうか? 布素材や糸が作り出す絵肌の立体感が絵具の厚塗りを、素材の断片ひと房ずつがブラシストロークを連想させるのかも知れません。

あとは補色の多用でしょうか。布端切れの色数に限界があるのを面白さとして活かし、赤と緑、青とオレンジの隣り合わせなどを全くものともしない色づかいが生まれ、それが結果として印象派の流儀へも通底するのだと思います。

次に、近くに寄って見てみましょう。ストロークに見えていた部分が布端切れやキルト綿の無数のパーツであり、それを縫ったり貼ったりして構成されていることに感動していただけると思います。猫の胸元のふわふわした白い毛並みも、何種類もの素材の色・質感を使って構成しています。

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鑑賞にたえる「眼力」

眼の部分は「ゲゲゲの鬼太郎」の「目玉親父」のよう。単体でもアートになりそうなインパクトで、補色の威力が全開です。しかも左右非対称なのがしょうじさんの眼の描写の特徴で、それも、やむにやまれぬ感情を絵にぶつけているような印象への導入になっていると思います。

しょうじさんは感受性が人一倍強い子ども時代から、人間(生き物)の眼の情報量の多さに気づいていたそうです。眼で「命の温度」が分かるといい、眼に力が宿る作品は作品全体も生きてくる。いつの間にか眼に力を入れるようになったのだそうです。

自然に囲まれた環境で生まれ育った彼女は、日々自然や生き物たちから感じる命の力強さ、そのエネルギーを受け止め、咀しゃくして、それを実に細かく手数をかけることで表現しているんですね。そのような作家さんは無数にいらっしゃるでしょうが、その”呼吸”の心肺機能の並み外れた強さが、絵の情熱ビームに直結していると言えそうです。東日本大震災で「生かされた」と思った経験もさらに、その呼吸能力を大きくしました。

猫は重要なモチーフ

「MIKE」のポイントのもうひとつは、モチーフが猫であること。しょうじさんにとっては16年間ともに家族として過ごした愛猫「クロ」の存在が大きく、クロ、または猫をモチーフにした作品が多いのです。

首の向き、両前脚をぴたりと揃えた座り方のかわいらしさ、そしてふんわりとした軽やかな重力感を思わせる足もとの優美さまで、猫のことをよくご存知でいらっしゃる、という描き方が、私のように猫好きな方にはしっかり伝わるでしょう。

最後に

「MIKE」の価格などは以下からご覧ください。しょうじさんの作品全般に言えることですが、価格形成初期ということもあり、制作に何日もかかる1点がまだまだ相当なお手頃価格になっています。買うことで支援、というアプローチもすんなり選びやすい段階です。

次の個展は、2020年11月に仙台で予定されているとのこと。彼女の手から日夜生み出される様々な生命たちが、たくさんの方たちとの運命的な出会いを待っています。

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