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galleryMain「これまでの十年、これからの十年」

galleryMain(ギャラリーメイン)はオープンしてから10年が経ちました。中澤が運営していたギャラリー運営に、美術家 / 批評家である山崎と、美術家 / デザイナーの竹下を加えて、これからの10年を作る仕掛けを用意しています。はじめてのnote記事では、

1、galleryMainについて
2、展望について
3、Plot(プロット) Art Schoolについて 

の3つを中澤と山崎に竹下がインタビューしました。


Q:ギャラリーメインについて教えてください。

中澤「galleryMainは写真展を中心に、若手の作家からベテランの作家まで幅広く展覧会を開催しています。展覧会だけではなく写真教室を開催したり、写真フェスティバル、京都グラフィーの運営にも参加するなど、京都を拠点に写真に関わる様々なことをしています。展覧会写真展だけでなく、絵画や現代アートの展覧会も開催します。いろいろな人が交流できるような場所として2010年から10年活動してきました。」

Q:ギャラリーメインの最大の強みはなんですか?

中澤「そうですね、まずは写真展。自分自身も作品を発表するので、写真展をやりやすいような空間作りを最初の段階から設計したところですね。古い倉庫を改装した広々とした空間で写真展をすることができます。写真展以外の展覧会も開催するので、ジャンルレスにいろいろな人が関われるような間口をあけていることです。最近は展覧会だけでなく、製作の相談、ディレクション、製作のサポート、外部のギャラリーや美術館と企画を共同したり、出版社と展覧会やイベントを企画したりなど、場所にとどまらないような企画や展覧会をしていますね。」

Q:作家目線で作り込んでいるのは魅力的ですね。それ以外に強みはありますか?

中澤「外部のチームや団体と企画やイベントなどを共にするのは面白いと感じています。企画を共同したり、外部提携することで作品の届きかたが変わったり、いままでgalleryMainに来なかった来場者が来たりなど、関わる人が変わって新しい出会いがあったりします。」

Q:始めたきっかけは?

中澤「もとは、仲間の写真家四人で自分たちの作品を発表する場所を作ろうというとこから始めました。もちろん自分たちの作品だけではなく、外部の作家の作品展を開催し、刺激しあえる場所を目指してスタートしたのが2010年です。10年の間に、いろんなことが変わったと思います。大きく分けると、3期か4期ぐらいに分けられると思います。

立ち上げの1年ぐらいは自分たちメンバーの写真展と、仲のいい写真家の写真展をやってました。夜は事務所スペースに暗幕を貼ってレンタル暗室に模様替えして貸し暗室にしたり、愛と努力でカバーしていました。そういう、まず自分たちの活動を知ってもらうということをやってたのが第一期ですね。

そうこうしているうちに、知り合い経由で、別のギャラリーを運営しないか?という話が舞い込んできました。四条寺町という街中にある、写真プリントショップ「プリントQ」の2階にギャラリースペースがあり、そこのディレクターを兼任することになったんです。gallery 9 kyoto(ギャラリー9)です。galleryMainとgallery 9 kyotoのダブル運営をしていくことになります。それが第2期です。

gallery 9 kyotoはプリントQが経営するギャラリーで、僕は雇われディレクターという形でした。四条寺町という繁華街にあったことや、会社の経営方針や僕の考えもあって、学生の街京都だからこそ、学生をもっと取り込んだ形でギャラリーを運営していこうという話になりました。

当時は(今もかもしれませんが)、京都学生写真連盟という、大学間の写真部の交流が行われていました。多分、たまに合同展をしたり、情報交換をしていた程度だったと思います。当時の大学生の写真部の写真展というのは、昭和の名残をひきずった写真が多く、退屈なものばかりに感じていました。例えですけれど、作品のタイトルが「鴨川にて」で鴨川沿いに等間隔に並ぶカップルの後ろ姿を撮ってみたり、部会の先輩の投票で学部展に出展できるかどうかが決まったり、お決まりの3枚組写真での表現縛りがあったりなど、昭和の慣習が悪い形で引き継がれていた部分があったと感じていました。若者だよ!平成だよ!と思い、もっと自由な発想で写真をしようという呼びかけのもと、FLAT(関西学生写真チーム)を作りました。

メンバーは様々な大学に呼びかけ写真部や写真を撮っている学生を集めました。入れ替わり立ち替わりで総勢50名くらいは参加していたように思います。そのチームで出会ったの面白い若者の中に竹下くんや松岡くん(現在のPlotのメンバー)がいました。
FLATは合同展を開催したり、外部展覧会をしたりなどと、だいたい3年くらいは活動していたと思います。松岡くんは当初から変態じみていたし、竹下くんは当時から一歩引いた目線を持っていたりと、なにかやりそうな奴らだなと思ってました(笑)」

山崎「それがまあ第二期。」

中澤「gallery 9 kyotoには他にも別のディレクターがいたり、外部ディレクターや協力者がいたので、写真展以外の展覧会も多かったし、新しい繋がりが生まれ始めました。その頃に、パリでのフォトフェアに初参加、KYOTOGRAPHIEとの出会い、写真教室Tractスタート、学生のアシスタントさんとの出会いなどなど、どんどん世界が広がっていくのを感じました。」

山崎「第三期は?」

中澤「第3期はなんと言ってもKYOTOGRAPHIE。そして、gallery 9 kyotoが潰れ、galleryMainが引っ越しをしたということかな。あと写真教室Tractがブレイクしました。

KYOTOGRAPHIEはいまでこと、世界的に認知のある日本最大のフォトフェスティバルに成長したと思いますが、立ち上げの時はそんなに知名度はなかったと思います。知り合いのフォトグラファーの展覧会でKYOTOGRAPHIEのサテライトのKG+というものに参加しましたが、当時は?な感じでした。それがこんなに大きなフェスティバルに成長するとは思いもよりませんでした。KYOTOGRAPHIEによって、京都のアートシーンは大きく動いたと思います。その数年後からKG+の運営にも関わらせてもらってますが、毎年力が入っています。

そして、gallery 9 kyotoの終了。母体のプリント会社の経営が時代に淘汰されて、あわせてgallery 9 kyotoが閉廊。大きな展示スペースを失ったこともあって、ギャラリーメインは当時は手狭になっていたこともあり、思い切って移転をします。その時は本当にやばかった、、、お金が、、、契約金とか、、、笑
あと写真教室Tractが全盛期を迎えていました。一番多い時は半期で150名の受講生、年間で300名近い受講生がいました。こちらは写真愛好家から若手作家を育成するという目的で、低価格で講座をしていました。こちらは現在コロナで休止中ですが、タイミングを見て再開していく予定です。」

山崎「僕の理解だと……1期は自分たちを知らせること。2期はギャリーが増えて認知度が高まる。3期は自分たちの認知が広まるのではなく、文化側の関心が高まって、取り巻く環境がギャラリーを包み込む形で変わってきた。その結果、3期は中澤さんといろいろなところの連携がふえていき、仕事が複数化してきたと。」

中澤「そして4期が新生galleryMainスタートといった感じです。」

山崎「4期。」

中澤「galleryMainが引っ越ししてもう6年がたつんですが、大きなスペースに引っ越したことで開催する展覧会の質が変わっていきました。同時に外部との連携も増えていき、2期3期で繋がった人脈や蒔いた種が4期で結実していくようでした。手前味噌のビジネスですが、なんとかやっていけるようになったという感じです。ほんとに大雑把に分けるとそんな4期と言った感じ。そしてコロナを経て、第5期 Plotヘ、といった感じの今です。」

Q:ここからは未来の話に移って行こうと思います。今後のギャラリーのビジョンいついて教えてもらえますか?

中澤「元も子もないかもしれないけれど、今の時代にギャラリーにできることって何だろう?ってコロナ以降にすごく考えていて.....例えば、直接ギャラリーに来れなかったり、オンラインでコンテンツを配信しましょうというような流れ.... 極端な話、場としてのギャラリーなんてもういらない?なんて考えたりもしました」

山崎「ん?」

中澤「ギャラリーで隔週とか2週に1回とか展覧会を開催していくそのコストとエネルギーっていうのは、何か違うことに向けた方がいいんじゃないかっていうのがあって。しかもコロナ以降お客さん減ってる。その分オンラインを充実させたというのもあるけど……。一旦、これだけネットでいろいろな情報や展示を拾える中で、写真展はオンラインに置き換えられるような気もするし。そういうインターネットを中心としたイメージとか画像とかのインフラの環境、人々のリテラリシーが変化してきた中で今まで通りやっていくより、なんか少し変えた方がいいかなっていう気持ちかな。その可能性として、固定の場所としてのギャラリーを今まで通り運営するようなことではなくて、展覧会単位とか企画単位とかイベント単位で現れる神出鬼没なギャラリーみたいな。」

山崎「それに対して僕は……。やはり第一に、中澤さんの過去10年間の背後で並走しながら、『写真と美術の乖離』っていう文化的問題の時間が流れてきたと思うんですよね。」

中澤「それはある。」

山崎「僕はどちらかというと、その問題をこの過去10年間に見ていてた。つまり、僕は過去10年間なにをやっていたかというと、写真と美術の乖離を見ていました。一方で、中澤さんはギャラリーを10年間運営していた。で、その『写真と美術の乖離』というのを再接続する具体的な方法のひとつを、僕はgalleryMainに見たわけです。それはgalleryMainで10年に渡りつみあげてきた、場所作りの哲学みたいなもの。その場所が運営されることによって、思想も信条も全く異なる人たちがあつまって、美術家も写真家もなぜか一緒にいるっていう場所をgalleryMainは作り上げた。それが『写真と美術の乖離』を解決するための、ひとつの土台になるとおもっています。

それはいいかえれば、友が敵になり、敵が友になるその一瞬の境界線を体感し、共有することで、ひととひとを繋ぐ哲学です。それは場所の運営と切り離せない。この表現のための場所は、来訪者を専門家として迎える以前に、同じだけひとりの人間として迎え入れる。それによって、互いに相容れない者同士が、なぜか理由もなく同じ空間に一緒にいることってことが起こる。そして、その場所からだけ、生まれてくる新たな予期せぬ表現がある。これをgalleryMainは実践してきたはずです。なにより、中澤さんというひとりの人間がそれを同じだけ実践してきたのではないでしょうか。」

Q:まだ中澤お手製のコーヒーは出ますか?

中澤「えっ。それはもちろんです。そういう場所を作ろうとしている。コーヒーカウンター。青空オフィスにしたい。春は鴨川を事務所にしたい。」


Q:Plotとは何か教えてください、何をするのか

山崎「写真史の流れを僕たちが勉強した時に、絶対そこでは扱われない写真表現っていうのがあるんですよね。たとえば、現代美術の中で写真を使って作品を作っているひとの表現。それは写真史の中では扱われないんですよ。それはなぜかって僕はこの10年間考えてきた。もちろん、その理由を難しく考えたこともあります。ただ、実践と思考の狭間で一周した挙句、その正体は写真界の体質みたいなものだと思うようになりました。すごいナイーヴな結論ですけど……笑。僕はその体質を変えなければならないと思っている。それを可能にするためのひとつの方法が、galleryMainという場所を運営する哲学の中にはあると思う。写真のひとたちは、あまりにも他の表現の蓄積に疎い。そこを反省しなければ、いつまでも過去の表現を反復することになる。そこに美術という表現の核心はないでしょう。

このスクールは写真の人に向けて作られてます。だけど、カリキュラムを見ても、そのようには見えない作りになってます。なぜなのか。この疑問こそがスクールから写真のひとたちへの問題提起になっている。そして、その問題提起は「美術」の問題でもある。たとえばそれは、これまでフォワード(前衛部隊)として語られてきたアヴァンギャルドの流れに、ディフェンス性の系譜を見極める繊細で複雑な問題です。だからこそ、写真の人たちに向けて、単に美術の歴史を紹介するだけじゃなくて「美術」の問題っていうのを、表現を通して考えることのできるカリキュラムになってます。

もちろん受講生の中には美術関係の人がいてもいい。インスタレーション作家がいてもいい、絵画をやっている人がいてもいい。それでも十分複雑な内容の、濃密な授業を作っています。僕たちのスクールは公的な学校ではなくて、内容で勝負するしかないです。その内容っていうのは例えばどこの書籍でも扱っていないような美術の問題を深く掘り下げていく。ちょっとしたイントラダクションはサイト(https://plot.photo/)に書いてあるので読んでほしい……!ともに、表現の問題について深く考える。それが、受講生の制作にフィードバックされるような環境を私たちのスクールは用意する。美術や理論なんて苦手だなっていう人も、ぜひ来てほしい。丁寧に教えていくから、そういったことが苦手な人でも学べるようなフォローは最大限します。」

Q:最終目標は

中澤「Plotでは、全12回の講座のカリキュラムを終えて、最終的には成果発表展という形で終了というプログラムだけど、それは通過点でしか無くて、講座を修了することで作品を作る上での基礎知識や基本的思考や手法を得てほしい。そしてそれ以降に、それぞれの作家が作品を作っていく上での土台を構築・再構築してほしい。それが本当の目的です。作り手だけで無く、批評の講座や、コレクター入門講座、とかもやりたいなぁ。」

山崎「僕もそう思います。僕もこの授業で受講生に投げる美術の問題というのは、4か月のカリキュラムでは解決できないほどの大きな問題です。その大きな問題に、みんなでともに、それぞれ自由なやり方で接していけるようにしたい。その問題をどういう風に受講生が自分で咀嚼して、自分で取り上げるかが、大きなひとつの課題みたいな講義になっています。なぜ大きな問題に、自由に接していいかというと、外部講師の作家もみんなそれぞれやり方が違うし、言ってることも違う。その違いをみて、感じて欲しい。もちろん僕も違うし。大きな課題に、それぞれ自由に取り組んでいくための環境を作りたい。」

中澤「Plotは本気で作品を作って活動していく写真家や現代アートのアーティストを鍛える講座をまずは展開します。写真も現代アートも同じアートで表現だと思います。3〜5年をかけて定着させていきたいですね。まずは作家が作品を作っていくこと。それに付随してを取り巻く環境(ギャラリーや批評やコレクターなどなど)が良質になっていくことが大きな意味での目標です。Plotは、これからgalleryMainが始める大きな流れを作る最初の一手になります。うまくいくといいですね!」

山崎「みんなが写真の問題のことを、写真が抱えている大きな欠陥というのを自覚できるように仕掛けて行きたいです。」



中澤 有基 
写真家 / galleryMain代表
galleryMainを主宰するなどギャラリストとして活動しながら写真作品を発表。外部での写真企画やディレクションなども行う。2015年よりKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭サテライトイベントKG+プログラムディレクターも務める。
http://www.nakazawayuki.jp

山崎 裕貴
美術家 / 批評家 / Plot主任講師
神学の歴史や哲学、情報技術から前衛芸術などの幅広い考察に基づいて制作や執筆、講義活動を行う。主な展覧会に“ヘテロゲニウス・マルチコア” 〔Heterogenius Multi-core〕(2021/galleryMain)など。
Contemporary art gallery One Four 所属。
https://www.galleryonefour.com

聞き手|竹下 想
美術家 / デザイナー
スタートアップでデザイナーとしての勤務経験を生かし、ブランディングやサービス設計をベースにした伴走型のデザインが得意。
http://sotakeshita.com

(書き手: narasaki haru)

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