want, hope, wishの語法:(+O) to doか that節か?

質問

質問させていただきたいのは、動詞 want, hope, wishの語法についてです。
これら3つには、‘V +to do’が用いられるところは共通していますが、‘V + O to do’の形は want のみに見られ、‘V + (that) S' + V'’ は、that 節中の法には差違はあれど、これについては hope, wishのみに見られる形だと理解しております。
英英辞典(Longman Dictionary of Contemporary English Online)でそれぞれの定義を調べたところ、
want: “to have a desire for something”
hope : “to want something to happen or be true and to believe that it is possible or likely” (‘V to do’ , ‘V (that) S' + V'’ 共通の項)
wish: ‘V to do’ の項では、“if you wish to do something or you wish to have it done for you, you want to do it or want to have it done”、‘V (that) S' + V'’の項では、“to want something to be true although you know it is either impossible or unlikely”
となっていました(全て辞書のコピーを貼り付けております)。
これらの定義を見るに、3つに共通するところは、何かを望み、要求する気持ちがダイレクトに対象に作用しているというところで、これが ‘V to do’ に表れており、hope, wishには、want にはない、何やら「こうあればいいな」という「想いを述べる」意識があり、これが ‘V + (that) S' + V'’に表れているように思えました。この違いが、語法に違いを生んでいるのかなと考えたのですが、これら3つの動詞の語法の差違はどこから生まれているのでしょうか。どうしても予測の域を出ません。

ガリレオ流・回答

今回のご質問は、『英語学を英語授業に活かす』の第10章「英語の補部形式と事態の統合について」(岡田, 2018)にて紹介されている、Givón (1993)の補文構造のスケール (complementation scale)という考え方が参考になります。

ご質問の want, hope, wishの場合、主節にこれらの動詞が現れ、to不定詞句や that節に「〜したい・してほしい」の「〜」部分にあたるもう一つの動詞が現れるわけですが、この2つが近い位置に置かれるほど、意味概念的にも2つの出来事が近い関係にあると考えられます(近接性の原理: proximity principle)。

ご質問内容および説明に関わる例文だけピックアップして並べてみます:

(1) John made Mary do the dishes. [原形不定詞]
(2) John wants Mary to do the dishes. [to不定詞]
(3) John hopes that Mary will do the dishes. [that節+時制を持つV]
(4) John wishes that Mary did the dishes. [that節+仮定法]

原形不定詞 vs. to不定詞

ご質問の中にはありませんが、まず使役動詞 make, let, haveから考えてみましょう。これらは含意動詞 (implicative verbs)と呼ばれ、以下の関係性が成り立ちます:

(5) John {made/let/had} Mary do the dishes.
→ Mary did the dishes.

ここで、Johnの働きかけ動作と Maryの動作は(ほぼ)同時に行われていることになるので、時間情報は主節の使役動詞に与えられていれば、補部の動詞は「原形のままで不都合はない」ということになります。

それに対し、wantのように to不定詞をとる動詞の多くでは、(6)のような含意関係は成り立ちません:

(6) John wanted Mary to do the dishes.
→× Mary did the dishes.

また重要なこととして、主節の want「望む」と補部の do the dishes「皿洗いをする」は(実現したとしても)時間的なギャップが存在し、補部の動作の方が後となる。したがって、元々「目的地」を導く前置詞を由来とする toを介在させることにより、to不定詞句が表す行為を「目的地」と定め、その成就を望むのが ‘want (+O) to do’ということになります。

‘V + to do’ → ◎ want, hope, wish
‘V + O to do’ → ◎ wantのみ;× hope, wish
となる理由

次に、‘V + O to do’の形が want のみに見られる理由を検討していきましょう。実は ‘V + to do’と‘V + O to do’は同一の文構造を持っており、前者の ‘to do’の前には、音形を持たない代名詞 (PRO)が存在していると考えられています:

(7)
a. I want {[PRO] to dance}.「私は踊りたい」
b. I want {[her] to dance}.「私は彼女に踊ってほしい」

(7a)の PROは主節の主語 Iと一致しています。逆に言えば to不定詞の意味上の主語が主節の情報から導けるからこそ、目に見えない/聞こえてこない要素であって差し支えないとも言えるでしょう。

これを踏まえると、(7a)は「私は『私が踊る』ことを望む」・(7b)は「私は『彼女が踊る』ことを望む」というように統一的に捉えることが可能になります。したがって、‘want + O to do’の O要素は、wantという行為の働きかけの対象であると同時に、to doの意味上の主語という役割も果たしており、その意味で thatによって主節と従属節が明確に分断される表現形式よりも近接性の高いものと判断できます。

要求度合いと構文的な近接性

その上で、wantの要求度合いを考えてみると、これは ‘want + 名詞句 (=O)’が参考になります:

(8)
a. I really want a drink. [LDOCE]
b. I've always wanted a house by the beach. [ロングマン英和]

(8)の2例での really/alwaysとの共起からも窺い知れるように、wantは強めの要求のニュアンスを伴います。英英辞典て調べていただいた定義の “to have a desire for something”からも読み取れますね。

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