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足を止めるなペースを上げろ 2節 アトレティコvsビジャレアル(H) 2022.8.21

2節はビジャレアル戦。互いに開幕戦はアウェーゲームを3-0で勝っている同士。
先季の戦いは2戦ともに2-2のドローだった。直近1月の対戦はこちら

開幕戦のビジャレアルは予想通りトップの質に苦しみつつ、愚直にCBの背後を狙ったニコラス・ジャクソンが先制点をあげるなどした。ジェレミー・ピノの大外単独突破はやはり面白い。アトレティコの新しい守備組織が耐え切れるかは見もの。この試合のポイントとしたい箇所になる。

開幕戦からこの試合までの間にビジャレアルはエストゥピニャン、パコ・アルカセル、ディアとお別れ。そして相思相愛のロ・チェルソと再度契約した。水曜にはECLのプレーオフ1stレグを戦い、ホームでクロアチアのハイドゥク・スプリトに4-2で勝っている。けっこうみんな出場していたが疲労はどれほどか。

ところでロ・チェルソのタスクなどを書いた先季のCLリバプール戦1stレグのレビューがここにあったりする。


●スタメン

・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヴィツェル / ヘイニウド
モリーナ / コケ / ジョレンテ / ルマル / カラスコ
フェリックス / モラタ

開幕戦からはサウル→カラスコだけ変更。
トップチームの登録選手は全員ベンチ入りしている(はず)なのでようやく全員揃った。

・ビジャレアル
ルジ
フォイス / アルビオル / パウ・トーレス / ペドラサ
カプエ / パレホ / ロ・チェルソ
ピノ / ジェラール・モレノ / ニコラス・ジャクソン

開幕戦から見ると変更はコクラン→ロ・チェルソだけ。開幕戦ゴールのニコラス・ジャクソンは連続起用に応えられるか。


名前がシビタス・メトロポリターノに変わったホームスタジアムで最初の試合


●前半
前半のビジャレアルの戦い方は今季のアトレティコが嫌がるもののオンパレード、という感じ。各局面をケーススタディしていこう。

・ビジャレアルのビルドアップ
アトレティコの前線守備が、主に2トップの態度を中心に先季から変わった、というお話は開幕戦でもした。

具体的には2トップ+中盤3枚の5人でアンカー(センターサークル付近のCH)の前向きを作る事を封じる。この試合ではターゲットはパレホ

こうなる
ビジャレアルの2CBから、ボールを奪う事は基本的に期待出来ない。たぶん今のラリーガで一番技術の高い組み合わせと言っていい。取れない。そして2人とも自分で前進(ドリブルで)する事がかなり上手い。パウ・トーレスははちゃめちゃ上手い。そして彼は縦パスが尋常ではなく上手い。世界トップクラスに上手いかもしれない。

おれの印象だが、「その割にアトレティコの2トップは随分ボールを奪おうとしていたな」という印象である。もっと引いても良かったのではないか。どうせ取れない。追いかけ回して結局外される、という形も多かった。
チームの調子が良い、攻撃的に戦いたい、という気持ちが、主に前線の選手の気持ちに多く出ていた印象を受けた。ボール欲しいなって。それは別にいいんだけど。気持ちの面では。でも今のアトレティコの5-3-2って、そういう仕組みか?と不思議な気持ちで見ていた。非常にチグハグだ。プレシーズンから今日まで、上々の仕上がりで来ていた事が、本来の目的とかけ離れた守備をさせていたように映った。負けたと知ってからこの試合を見たからそう思うだけかもしれないけど。でもシメオネがやりたい5-3-2はこうじゃない、とは思った。

話が長くなった。ビジャレアルの前進の話に戻る。
ビジャレアルのビルドアップの最大の特徴は”遅い事”である。のんびりしている。局面の解決の考え方が遅い。
何人で、どれだけの時間がかかっても良い、局面を打開して、ボールが前に進めば成功。という保持をする。パウ・トーレスなんて立ち止まってボールを持っていた。

こういった保持をするチームで得点に繋がるプレーを生むのは”パスを受けて一枚剥がして前進出来る選手”だ。その選手にボールが入った時のみ、グッとスピードを上げる。そんなプレーが出来る選手。もうわかると思うがそれはジオバンニ・ロ・チェルソだ。

ビジャレアルはゆっくり進んで、ロ・チェルソがグッとペースをあげてペナルティエリアに迫る。ジェラール・モレノも同様の仕事が出来る。
そのために、ゆっくりしている間に相手DFの枚数を調整する。スピードアップするためには広いエリアがあった方が良いからだ。

ビジャレアルは2CBとGKの3枚でアトレティコの2トップを簡単に外しながらボールが左右を行き来する。隙間で顔を出すパレホをアトレティコの中盤(主にコケorルマル)が気にする。その向こう側でカプエがフリーで前を向く、という形を連発する。あるいはフォイスもフリー。パウ・トーレスはここまで正確なボールを飛ばせる。対面すべきWBのカラスコはジェレミー・ピノに捕まって前に出られない

思うようにボールを奪えないアトレティコは、さらに前へ前へ、という気持ちを持って取り組んだ。非常にチグハグだ、と言ったが、別に悪い事ではない。前向きにプレーする事は良い事だ。ボールが取れるなら。しかし取れない。

アトレティコはさらにカプエを捕まえようともう一枚敵陣へ出てくる。

怒涛の深追いの図。
隙間でボールを引き出したいロ・チェルソ、ジェラール・モレノのプレーゾーンが生まれた。

この場面ではカプエに外され、ロ・チェルソの持ち上がりからPA付近でピノのシュートまで持って行かれた。アトレティコは先季から深追いしすぎてスペースを空ける試合が時々ある。

相手最終ラインにボールを持たれている時のライン間の話は、シーズンのプレビュー記事でも少し触れた。ユベントス戦では一切問題なかった、と書いた箇所だ。この試合では大きな問題になった。

アトレティコも無策ではなかった。CHが2枚飛び出すのではなく左WBのカラスコが前へ、という意識を持って敵陣プレスを継続しようと試みた。試行錯誤は良い事だ。機能性は一旦置いておいて、ここは良かったと思う。ところでヴィツェルがいる状態で最終ラインが4枚になるのはシメオネ的にありなんだろうか
ただし、ビジャレアルは”別にライン間に縦パスを刺せなくても良い”。刺せるなら刺すが、刺せないと試合にならないわけではない。のんびりしている。

縦パスが刺さらなかったらゆっくりのんびり、正確なサイドチェンジを何度も使いながら進んでくる。両ワイドには主にジェレミー・ピノとペドラサが立ち、常に1対1の機会を窺っている。なかなか憎い。トップのニコラス・ジャクソンは開幕戦同様、右サイドからのクロスの対してファーサイドへ飛び込む動きを必ず行う。指示された事を忠実に行なっている選手は好感が持てる。言われた事をちゃんとやれるジョッキーは騎乗依頼がたくさん来るのと一緒(まじで)


・ビジャレアルの撤退
一方のビジャレアルの非保持。ビジャレアルは前線プレスは割と適当。アトレティコよりよっぽど適当。たぶん「取れないからいいよ」って話になっている。放置。放置される事によって、ビルドアップ要員としては実質ヴィツェルはいる意味がなかった。

ビジャレアルの最終ラインは、2トップのプレスに晒されながら2枚+GKで前進してくる。
アトレティコは別に圧力をかけられているわけでもないのに3枚でビルドアップしている。
という、そういう問題じゃないんだが何だか切なくなる展開。

ビジャレアルは、大外のモリーナ&カラスコのところも潰しに行く意思はなく、ご自由に、という様子でボールを持たせてくれる。

両SH(ピノ&ロ・チェルソ)はアトレティコのWBを見ながら大外の守備を担当して、自ら進んで最終ラインに吸収される。あれ、冒頭に紹介したリバプール戦では、”SHをいかに押し込まれないかが生命線だ”っておれ言ってたよね、という状態。あの戦いから、ビジャレアルはさらに先に進んでいるのか、はたまたリバプール戦はそう見えただけで、ビジャレアルは6バックになってしまう状況を嫌がっていないのだろうか。ここは非常に興味深かった。先季もっとビジャレアルの試合を見るべきだった。

ビジャレアルがこの形を許容出来る理由は、先ほども書いた。「ビジャレアルはのんびりしているから」だ。ロングカウンターを打つつもりはない。試合をペースを上げない。撤退を恐れない。ラリーガで例えるとマドリーのそれに近い。じっくり撤退し、ボールを奪ったらゆっくり陣地を回復していく。なるほど、アトレティコはやりにくい。

アトレティコは先季、ラストサードでのコンビネーションが伴わず、シーズンの最後まで確固たる得点パターンを作れなかった。今なお構築中である。開幕戦の3ゴール然り、現状アトレティコの得意なパターンはトランジション。ジョアン・フェリックスの質とモラタのスピード、決定力でまず点を取る。その後の事はその後考えさせてほしい、というのが正直なところだ。まだ引いた相手を破壊するような練度はない。ご覧の通りモリーナとジョレンテは互いを一切理解していない。引いた相手を壊す手順は今でもなお、カラスコの対人突破とそこから生まれるバグによる。これを見越してのカラスコスタメン起用だったらシメオネがやばすぎるが、たぶん関係ないと言っておく。おれの経験上。
アトレティコが前半に作ったシュートシーンはいずれもカラスコが相手にドリブルを仕掛ける場面から生まれていた。それしかない。そして、それはフェリックスのクオリティを引き出さない形である事も、先季散々見た通り。

そしてビジャレアルの守り方で最大にややこしかったのは、フォイスの異常な対人性能。カラスコとフェリックスがどうやっても抜けなそうな対応はちょっとまずい。レベルが違う。アルビオル、パウ・トーレスと3枚で、"ここは抜かれない前提"を作れているのが非常に強い。だから撤退出来る。だからアトレティコのWBにボールを持たれるのは割とどうでもいい。
そして気づいてしまったがこれって開幕戦でやってたアトレティコのやりたい守備なのでは?というものを見せつけられているのも、なんとも歯痒いのである。

●前半終了
斯くして0-0。しかし狙いがピッチに現れていたのは明らかにアウェーのビジャレアル、という前半45分が終わった。のんびり保持して、ライン間でスピードアップ。守備はボールを取りに行かず、自陣に引き込む。両SHは最終ラインに吸収されて大外を担当。フォイス、アルビオル、パウ・トーレスの中央は破壊されない前提で待ち構える。

アトレティコはここまで準備してきた形を出そうと繰り返したが、モリーナとジョレンテの右サイドは狭いエリアを抜け出せるほどのタイミングのフィットはなく、カラスコ、フェリックス、モラタは上記の破壊出来ない最終ラインにがっちりと止められた。
プラス1を生む箇所を作り出せず、個人的には"どこで作り出そうとしているのか"が見えなかったのが残念。練度が低い。ルマルはこのシステムにハマった結果こじんまりとした。と糾弾しておく。

アトレティコはこういう相手と戦わないと先に進めない。早めに当たれて良かった相手である。後半の解決策を確認していく。


●後半
さて。後半にアトレティコが取り組んだ事はというと、"もっとボールプレッシャーを強めた"になる。

理由を推察する。候補は2つ。
①ボール保持率を改善したい
②ゲームのペースをあげたい

まず①。
シメオネが改善を求めた箇所に保持の回復があるのなら、ボールプレッシャーは強めるべきだ。ボールを奪わないと保持出来ない。そのために圧力を高めてボールロストを誘う。
そして②。
前方向への圧力を高める事で、ビジャレアルに最終ラインでのんびりボール保持する事をまずやめさせる。圧力がかかれば早めにボールを前に送らせる事が出来る。結果、ペースが速くなる。保持と非保持の2局面で戦ってもこの日のアトレティコには得点機が見込めない。なのでトランジションを発生させる。そのためには、ビジャレアルの選手の足下からボールを取り上げ、縦方向のボールの行き来を増やす。そして人も行き来する展開を生む。

狙いは両方、という事もありそうだが、トランジション多発環境でアトレティコの保持率が上がるイメージはあまり持てなかったので、どちらか片方だろう。現状シメオネがどれだけのボール保持率があれば試合を安定させられると考えているのかが不明なので、あと数試合監視していきたい。シメオネもわかっていないかもしれない。感覚値でのお話なのかも。個人的には②かなと思っている。

クリーンなビルドアップに何度取り組んだところで、硬い中央を崩すイメージはあまり湧かない。それなら狭い局面でタイミングを合わせる試行回数を増やし、単発でも良いのでシュートチャンスの数で相手を上回りたい。という考えであったと考える。シュート上手いから、このメンバー。

さてそんなこんなで、圧力を強めた。

ビジャレアルの保持に対して両WB(モリーナ&カラスコ)の矢印が前半よりも前を向いた。代償としてアトレティコが負うリスクはジェレミー・ピノのプレーエリアの許容だ。不安はあるかもしれないが、個人的にはヘイニウドvsピノのスペースバトルを見たい気持ちもある。

カラスコが対面するフォイスとの距離を詰める事で簡単に前進させず、ここにフェリックスがスライディングですっ飛んでくる、という守備が2つほどあった(イエローもらった)。高い位置で引っ掛ける、簡単に保持させない、という狙いはある程度達成していたと思う。

そんな中、やっぱり①なのかも、と思うシーン。

ゴールキック。前半はやらなかったゴールキックをやる。開幕戦では得点を生むきっかけにもなりつつ、多大なリスクを払う少々不恰好なGKからのリスタートを、後半はやった。ちなみにサヴィッチがモリーナに渡したところで普通に引っかかってちゃんとロストした。保持率の上昇は無理なんじゃないかな、この試合では。

アトレティコは62分に2枚替え。
ルマル、ジョレンテ

グリーズマン、デ・パウル
ボールを持ちたいなら後半開始からやっても良かった交代。

グリーズマンが入った事でプレーエリアに変化があったのは、フェリックス。

落ちてくる
これまではFWの仕事に集中していたが、落ちてきてグリーズマンを前に送り出す。もちろん逆も。デ・パウルが入った事で近くでプレーしたい意図もあったかと。

70分にまた2枚替え。
モラタ、フェリックス

クーニャ、コレア
同時にビジャレアルは
ロ・チェルソ、カプエに替えて

アレックス・バエラ、コクラン

アトレティコは早速裏一本でコレア→クーニャで決定機。今季も決まらない。この時間帯はなんとなく押し込む状況も作れた。アタッカーがベンチにいっぱいいるのは良い事。


・得点は偶然
しかし73分に先制点はビジャレアルに入る。CKからの流れでアバウトになったボールをモリーナが処理を誤り、ピノに決められる。まあ仕方ない。アトレティコはヒメネス投入。

ここからアトレティコは一点を取り返そうと押し込みモード

ビジャレアルはコンパクトを保つ。先制点を決めたピノは足が攣って交代したが、4バックはあくまでもPA幅を管理。大外の対応はSHが降りてくる形を徹底。チュクウェゼの走力。人数が足りなくなりそうな中盤中央も、途中出場のコクランが2.5人分くらいの走力で埋めた。よく準備された良いチームだ。
シメオネは、今季も後方枚数を妥協するつもりはなさそうだ。つまり3枚でリスクヘッジを行う形は、曲げない。この人数でも取り切れるクオリティの選手が前線に揃っていると思うので、現状何も言わない。実際79分にはクーニャ、そしてカラスコのシュートがほぼゴールラインを超えかかったがルジの好セーブで止められた。あれが入っていればね。


●試合結果
負けた。ホームでの2点差負けは20-21シーズン、2021年2月21日の24節レバンテ戦(0-2)以来。

後半の狙いが①保持率回復だったか②ペースアップだったかは別の機会にまた考察していきたいが、結果的にペースは上がった。保持率は数字だけ見ると前半48.6%、後半51.7%とあまり変わらないが、押し込む時間を作れていたのは明らかに後半だった。先制点は偶発的だったし、2点目はパワープレーをひっくり返された結果だし、シメオネ的に後半の取り組みは別に全部否定するようなものではなかっただろう。それよりもプラス1を作る箇所を設定する事すら出来なかった前半に問題を感じると指摘したい。

後半はペースアップの効果から、敵陣の大外を使える機会は数回作れていた。

既に書いた通り、ビジャレアルは大外の守備をSHが行う。SBは大外まで飛び出さない。ペースが速くなれば、SHが物理的に大外のカバーに間に合わないケースが出てきた。思えば先季CLのリバプール戦でやられたのもそんな形だったような。

アトレティコは、気になったのは2失点目の場面でジョグで戻ってる選手がいた事かな。まあ精神的な話だし、別にあれがなくても試合は負けていたけれど、それでいいのかい?アトレティコのユニフォーム着てるんだぜ。最後まで走った選手は誰だい?疲れていた?それが理由になるクラブなのか。おれはそんなアトレティコは知らないぞ。

ここからはバレンシア、ソシエダ。セルタを挟んでマドリーダービーを迎える。その間にCLも2試合ある。厳しいカレンダーを乗り切るためのスカッド、仕組みを目指しているはず。W杯までノンストップ。次節は気持ちの良い試合を望みたい


8/21
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 0-2 ビジャレアル
得点者
【ビジャレアル】’73 ジェレミー・ピノ ’90+7 ジェラール・モレノ


●ピックアップ選手
モリーナ
攻撃はコンビネーションが合わずチグハグ。先制点を献上するミスをし、ロスタイムには一発退場。
何も言うまいが、乗せられた相手は開幕戦で2点取って勝ち気になっているレンタル帰りの若造だ。ミスを取り返そうとするもイライラするも自由。だけど勝負に負けたのはモリーナである。二度と同じ事は許されない。アトレティコ・マドリーへようこそ。

ヘイニウド
ジェラール・モレノの独走カウンターを止めた超速カムバック。集中を保って90分ハイクオリティを担保したが、攻撃時手持ち無沙汰な姿が目立つ。探していこう、君のタスクを。

クーニャ
2つの決定機。いつまでも"惜しかった"を待てるシーズンではない。

デ・パウル
後半途中の投入だったが好調をキープ。両ワイドまでパスを飛ばせる自信が中央で前を向く事を躊躇させない。間違いなく今季のチームにハマっている。

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