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“good luck yellow submarine.” CL準決勝1stLeg リバプールvsビジャレアル 2022.4.27

チャンピオンズリーグ準決勝。ビジャレアルvsリバプールをレビューする。

ビジャレアルは16シーズンぶり、2度目の準決勝進出。人口5万人の小さな町、奇跡のクラブの大いなる挑戦を振り返っていく。まずはリバプールホームの1stレグから。


●スタメン
リバプールの3トップは右からサラー、マネ、ルイス・ディアスの並び。IHは右がヘンダーソン、左はチアゴ。
マネが真ん中の形は個人的にあまり見た事がない。(最近よくやってるらしい)
ビジャレアルは4-4-2。ジェラール・モレノが負傷欠場の2トップはダンジュマとチュクウェゼ。中盤は右からロチェルソ、カプエ、パレホ、コクランの並びにした。両SBはこの日もフォイス、エストゥピニャンの対人能力コンビ。リバプールの両翼相手にどこまで我慢出来るかが試合のカギとなる。

スタメン

いざ1stレグ


●前半
まずは最初の45分。

リバプールの構築。

リバプール

アレクサンダー=アーノルド(以下TAA)はアンカー横にいる。後方2-3。
リバプールの右サイドはこの3人、TAAとヘンダーソンとサラーの組み合わせが一番良い。誰が大外を取るのか、誰が間に立つのかの循環が非常に良く、常に脅威になる。トライアングルのお手本。サラーのスピードだのTAAのボールの質だのはもちろんそうなんだが、ヘンダーソンの位置取りが非常に上手く、どの位置でどの角度からボールを受けても失わないのが彼の良さだ。突破は別の人がやってくれる。これと超速プレスバックをハイレベルにやれるヘンダーソンはこのチームにベストなIHだ。
左サイドはルイス・ディアスの質と、そのさらに外側をロバートソンが抜けてくる形。この形が前半の趨勢を決めた。

ビジャレアルは4-4のブロックを作り、前2枚は限定を担当。2人の守備対応のイメージとしてはファン・ダイク、ファビーニョからのクリーンなロングボールを出させない、という感じ。この4-4のブロックでバイエルンに勝った実績がある。ここに自信を持って試合に入った。


当然、ボールとペースを握ったのはホームのリバプール。ダイナミックな波状攻撃がビジャレアルを苦しめていく。

ヘンダーソン

基本の球出しは右から。サラーが大外でボールを待ちながらヘンダーソンが絡んでくる。エストゥピニャンはサラーの対応に集中したいが、それをさせない方法をリバプールは知っているなという印象。ここがバイエルン戦とは違った。


21:30 の場面。ヘンダーソンはサラーの向こうまで移動

外側

左側からボールが進むと、ビジャレアルの両SHは深く押し込まれる。エストゥピニャンはサラーのマークを担当するが、この時にヘンダーソンが大外まで移動してフリーになろうとする事で、ビジャレアルのSHは更に低い位置を取らされる。

逆側。ロバートソンは右のTAAと違い、ビルドアップのタスクはない。内に外に侵入してくるのが特徴のロバートソンたが、この日の彼がやろうとしていた事はビジャレアルのキーマンとなるロチェルソを押し込む事。

ロバートソン

ロバートソンが大外の高い位置を取る事でロチェルソを連れて行く。
リバプールの右サイドは大外レーンでトライアングル。すでにこの時点でこのトライアングルに対して数的不利。しかもニア側CB(パウ・トーレス)はマネに捕まっていてサポート不可。アルビオルを後方で余らせるために、大外のロバートソンはロチェルソが見るしかない状況を作られている。

ビジャレアルはこれでポジトラの選択肢を削がれた。今季のビジャレアルのメンバー構成は、ジェラール・モレノのいるいないに関わらず、前と後ろをリンクする選手がいないのがネックだ。その役割を、冬に加入したロチェルソが一人でこなしている、というのが現状。そしてその能力はバイエルン戦でも、彼が中盤でボールを受けて一人でドリブルで持ち出し、相手陣内へ入る。というプレーで十分に質を証明。突破に必要不可欠な存在だった。ディマリアみたいなプレー。

ビジャレアルは、ロチェルソにこの辺にいてほしい

ロチェルソ1

この辺
しかし、ロチェルソがロバートソンに引っ張られて大外の守備を担当させられていると、ビジャレアルはボールを奪っても選択肢は2トップの背後か、CH2人に当てるか、に限られる。

ロチェルソ2

2トップの背後は、相手CBコンビが凶悪すぎてかなり厳しい。本当はロチェルソがボールを引き取ってドリブルで相手CBの正面へ運び、2トップのどっちかをフリーにする、みたいなプレーがしたいんだが。
ではCH2人へ、というところをリバプールが狙い所に設定して再奪回を連発した。ファビーニョ、チアゴ、ヘンダーソンの中盤3枚、そしてCFのマネがパレホを狙ったプレスバックを連発しボールを奪取、連続攻撃に繋げた。

ビジャレアルとしては、非保持場面でバイエルン戦大活躍だった右SBのフォイスがルイス・ディアスに対して完全に劣勢だった事は大きな誤算だった。ルイス・ディアスの持ち出しを放置出来なくなり、ロチェルソがポジトラに色気を出すなんて夢のまた夢、という状況を作られては、ハーフコートから抜け出すのは厳しくなる。

そして上記の通り、この人数バランスでは、そもそも同数でも止められるのか怪しいリバプール右サイドのトライアングルを止められなくなっていく。リバプールはビジャレアルの選手を閉じ込め、両SBが高いポジションを取る事でワンサイドゲームに。CKを取ればプレミアリーグ最強のセットプレーが待っており、PA内に閉じこもればチアゴの糸を引くようなミドルシュートが狙っている、という地獄のような45分を過ごした。


●前半終了
ともあれ、この45分を0-0で折り返す事が出来た。ここで試合が決まってもおかしくない程に手も足も出なかったが、とにかく耐えた。試合は後半へ移る。


●後半
双方選手交代はなし。
47分に早速サラーの裏抜けに堪らず手が出てエストゥピニャンにイエロー。
我慢しきれないビジャレアルは、そのまま53分に先制点を献上。チアゴの意味のわからんターンから訳のわからんパス。ヘンダーソンがダイナミックに大外を回って、クロスボールがエストゥピニャンに当たってゴールに吸い込まれた。ボールの質、PA内の人数、スピード感。どれを取ってもちょっと止めるのは無理ですという場面。仕方ない。カプエがカンテだったらいけたかもしれない。
55分に追加点。リバプールは右サイドのトライアングルで保持。

2点目

TAAから縦ライン間のサラーの足下に入った際、このトライアングルのど真ん中に立っていたマネが高速裏抜け。爪先でのマネらしいフィニッシュ。これも、止める術がない。

ビジャレアルはコクラン→ペドラサを交代。
全くボールを握らせてもらえないまま、64分にはTAA→ロバートソン。オフサイドだったが得意の両SBで仕留めてくる。
ビジャレアルはラインバックも遅れるようになり、サンドバックに。こうなるとチアゴの球出しを止めに行く事も出来なくなり、ビハインドになったにも関わらずさらに閉じ込められていった。憎い選手だ。
ジェラール・モレノはいない、ジェレミー・ピノもいない。プレス回避しようにもアルベルト・モレノもいない。普段のラリーガの試合なら、ここでトリゲロスやモイ・ゴメスの保持性能で押し込む、という狙いを持てるが、相手はリバプールだ。そうもいかない。

結局攻撃の糸口をこの日の戦いの中では見出す事は出来ないまま、0-2で90分を終えた。


●試合結果
・この強度で戦える選手は
ビジャレアルは後半、ディアやパコ・アルカセルなどFWを使った事は示唆的だったように思う。具体的には"ダンジュマとチュクウェゼの組み合わせでは無理"という事が判明した。
ダンジュマはそもそもロングボールの受け手になる能力はない。ポストプレーとか無理。ライン間のワンタッチプレーすら怪しい。出来るのはとにかく裏抜け。本来は1対1の仕掛けも強みだが、ファン・ダイクとコナテが相手ではさすがに無理という事が確定した。裏抜けしか無理。
チュクウェゼはこのレベルはキツかった。そもそもバイエルン戦もウパメカノに吹っ飛ばされてたし、なかなかCLクラスのパワー系相手にドリブルでどうこう、というプレーは望めない。
そういうプレーをパコとディアが出来るんですかと言われたらもちろん出来ないので、試すも何もなかったのはそうなんだが。結局ジェラール・モレノの復帰は必須だ。点を取りたいなら、理想を言えばジェレミー・ピノも必要。保持してリバプールを押し込むような展開はホームでもなかなか期待出来ない事を考えても、この2人のクオリティに賭けたい。

あとは両SBだ。バイエルン戦はここの対人で劣らなかった事が試合の結果を変えたと言ってもいい。左サイドのエストゥピニャンは攻撃でも守備でも1対1の環境ならどうにかなる選手。しかしこの日はサラーだけでも大変なのに、リバプールの目紛しく入れ替わる右サイドの攻撃に四苦八苦。攻撃でもTAAを振り切るには至らず。まあそんな事出来る選手いないんだけど。途中から出てきたペドラサはこのクラスでは何も出来ず。
右サイドのフォイスは、特に体をぶつける守備対応でバイエルンと互角以上に戦ったが、この日は万全のコンディションではなかったと信じたくなるほど、ルイス・ディアスに振り回された。オープンスペースを使われていたとはいえこんなにもやられるとは。エメリにもショッキングだったのでは。ちなみに終盤出てきたオーリエは話にならなかった。2ndレグもフォイスがやるしかない。

・リバプールの戦い
今季のリバプールのバランスは異次元だ。どのポジションも強烈。超強い。
CBのファン・ダイク、コナテのコンビはビジャレアルからすると痛恨だ。バイエルン戦ではウパメカノに苦労したが、ウパメカノが2人いるようなもの。困っちゃいますね。
中盤3枚はファビーニョのカウンタープレスのスピード。この日は保持で能力を発揮する試合にはならなかったが、中盤の底に不可欠な選手。ヘンダーソンは上述通り。抜群の可動域でチームを変形ロボのように動かした。チアゴはチアゴ。言葉であらわすのは難しい。キャリアの絶頂期にいる。
3トップはフィルミーノがいないとどうなるのかと思ったが、マネは左WGでも真ん中でも同じ感覚でPA内へ侵入し、プレスバックもフィルミーノ同様にやる。これで左に突破で味を出すルイス・ディアスを置けるのは脅威だ。ジョタとオリギがベンチにいるとなるともうよくわからん。
両SBのランニングとキックで簡単にピッチの基準点を前方向にズラしてしまうピッチコントロールは他のチームには到底真似出来ない。ウイングが外を切ってるかどうかなんて些末な問題だ。このチームの凄みはそんな局所にあるものではない。

クロップは試合前、「ユベントス、バイエルンと違って我々はビジャレアルを甘く見ない」という旨の発言をしたが、言葉通り。一切油断しなかった。2-0以降はもっと攻撃に出て試合を終わらせに行っても良かったように思うが、最後までビジャレアルのカウンターを警戒する意識を捨てず。この試合の中でビジャレアルに逆襲の一手があったとはとても思えないが、最後まで用心深く。試合は残り90分だ。


・逆襲の一手は
ビジャレアルは2ndレグ、ホームで2点を追いかける。ポイントは”攻撃の駒を何人置くか”だ。ジェラール・モレノがいる前提で、ロチェルソは確定。あとはダンジュマなのか、ジェレミー・ピノなのか。その両方なのか。だ。パレホの隣はカプエでいいのか。も個人的に気になる。
イエローサブマリンはホーム、エスタディオ・デ・ラ・セラミカでハッピーエンドにたどり着く事は出来るか。


4/27
アンフィールド
リバプール 2-0 ビジャレアル
得点者
【リバプール】'53 OG  '55 マネ

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