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迷わない文化と共に 【EURO2024 グループB2節】スペインvsイタリア 2024.6.20

初戦に勝利したスペインとイタリア、グループステージ注目の一戦。




●スタメン

・スペイン
ウナイ・シモン
カルバハル / ル・ノルマン / ラポルト / ククレジャ
ロドリ / ペドリ / ファビアン・ルイス
ヤマル / ニコ・ウィリアムズ / モラタ

CBをナチョからラポルトに変えた以外は初戦と同じメンバー。

・イタリア
ドンナルンマ
ディ・ロレンツォ / バストーニ / カラフィオーリ / ディマルコ
ジョルジーニョ / バレッラ / フラッテージ / ペッレグリーニ
キエーザ / スカマッカ

初戦アルバニア戦と同じ11人。



●前半

開始2分で早速ニコの縦突破からペドリのヘディングで決定機。ドンナルンマが止めた。
10分にはイタリアがプレスでハメようとしたところをモラタへのロングボール一本で擬似カウンター。最後はモラタ→ニコのクロスで決定機になった。


・スペインの守備組織

序盤から圧倒的にスペインがピッチを支配した。ボールを支配というよりもピッチを支配した。それはクロアチア戦同様に守備が良かった事に依る。

スペインはペドリがモラタと共に最前線で守備をするが、ヤマルがカラフィオーリ、ニコ・ウィリアムズがディ・ロレンツォのところまで出てきて簡単には配球させない事をベース設定とした。イタリアは3-2-5配置でボールを持つので、同数で当たられれば当然大外が逃げ道になる。

大外へ

普段はそもそもこれをやられたくないから相手チームのラインが下がっていく。アルバニアは6バックのような配置で押し込まれていた。しかしスペインは引かない。この対人に勝つ前提で大外にボールを出させる事を狙って守っている。キエーザはククレジャが、ディマルコはカルバハルが完璧に捕まえて前を向くどころかトラップすら許さない強烈なプレスを披露した。これが出来てこその4バックですねぇ。ね、アトレティの皆さん。これですよね。

これでイタリアの前進は止まる。それならばライン間で相手CBを連れて降りてくる動きが得意なフラッテージの足下を狙ったが早速ラポルトにガツンとやられて意気消沈した。フラッテージがラポルトを引き連れてその背後をスカマッカが突く定番の形を出せたのも一回だけ。

さて、イタリアはキエーザがククレジャにシャットアウトされたのは想定外だった様子だが、左のディマルコはそもそもドリブルでどうにかするよりも周囲とのコンビネーションで抜け道を探す選手である。ペッレグリーニとバレッラがディマルコと一緒にカラフィオーリからの配球の受け手となると形が期待されたがそういう機会は一度としてなかった。ペドリのプレスに晒されたカラフィオーリのクオリティが問題なのか、バレッラのプレー選択が問題なのかはこの45分だけでは判然としないがなかなか拍子抜けした。そしてペッレグリーニはここまでボールを持てない試合展開だと全く良さを出せず、それどころか守備ブロックの緩さばかり目立つ難しい役回りとなった。そんなイタリアの守備局面。

・ハマらないイタリアの守備

スペインはイタリアのトランジションをロドリとククレジャを中心に鋭い出足で止め続けて敵陣でプレーした。ククレジャはエグい。
ちなみに肝心のビルドアップではウナイ・シモンの大外への配球は相変わらずフワフワしておりタッチラインを割るケースが散見された。普段そこまで悪いイメージはないが。前に蹴るのは上手いけどサイドに蹴るのは苦手かも。

スペインは序盤から両翼が相手SBを上回り、特にニコ・ウィリアムズがディ・ロレンツォを振り回す衝撃のパフォーマンスを披露。大外を駆け上がる異常モジャモジャ体力男の対応にキエーザが連れていかれるのも結構屈辱だったと思われる。ファビアン・ルイスは足下でボールを失うはずもなく、右からの構築では中央で待って得意のミドルシュートを晒してゴールに襲いかかった。

その右サイド。ペッレグリーニはカルバハルの対応が義務付けられていたのか、それくらいしか出来ないのか。

ロドリ周辺からヤマルへのパスルートがガラ空きなのは不健康である。同時にイタリアは左CHのバレッラが前に出ていく構造上ペドリの対応に常にCBカラフィオーリが駆り出されており、ペドリのライン間タスクを一切警戒できなかったのはなかなか見る事のできない対応である。ペドリを消す事ばかり考えているスペイン各クラブからすると驚きの前半だっただろう。皮肉です。

このサイドのバルサ感が最大限に発揮されたのは24分のプレー。

ペドリがいなくなってハーフスペースが空いているのを確認した16歳が内側へドライブ。3,4人振り回してモラタに決定機を用意している。人が多いところにペネトレイトしてこそ特徴が出るヤマルのドリブルは往年のアレン・アイバーソンを見ているよう。



●前半終了

ドンナルンマの好セーブもあり0-0で折り返したが、イタリアはアルバニア戦と打って変わって配置の矛盾を突きつけられ続けた。特にボール保持において、この大会で一番ボールを持てるチームと思った程だったが同数プレスが来るとあっさり保持を手離した。もうちょっと拘るのかと思っていたが。ボールを持たないのならジョルジーニョ&バレッラの併用はあまり意味がわからず、頭の上をボールが通過するならペッレグリーニは不要である。大外のクオリティで太刀打ちできない3-2-5も正直メリットがない。なかなか厳しい現実を突きつけられた45分。

スペインは普段着の質を再確認。ロドリを中心に左右のコンビネーションを使った配球。ククレジャ起用で無理が効くネガトラと足下へのボールを必ず潰すCBコンビ。大外の対人はSBが必ず勝つ。どこまでもスペイン的且つこのスタメンの意味を高らかに語る試合をした。両翼とモラタのコンビネーションにペドリが関われば無得点はあり得ないだろうという説得力を見せながらファビアン・ルイスとロドリがミドルシュートをチラつかせた。



●後半

イタリアはハーフタイムでカンビアーゾとクリスタンテを投入。交代はジョルジーニョとフラッテージ。

こんな感じに

この交代でイタリアはキエーザがククレジャのいないサイドに動く。同時にカンビアーゾがディ・ロレンツォのサポートに行けるのと、ペッレグリーニがサイドの守備をしなくて良くなる、ように見えたがクリスタンテが前に出ていくのでペッレグリーニは結局後ろの方にいる、など。ちなみにこの試合だけ見るとカンビアーゾは効用がよくわからん。

・インナーラップ

ただ、サイドの守備はオーダー通りに変化が加えられ、ニコ・ウィリアムズとヤマルに対して2人で見張れるようになった。その結果としてスペインの両SBはインナーラップを狙い始める。こういう狙いの早さは流石スペインである。52分にククレジャ

54分にはカルバハル

どちらも内側のサポートでサイド突破を活性化させ、その結果59分にニコが縦突破を選択して速いクロスがモラタ、ドンナルンマに当たってカラフィオーリのオウンゴールに繋がった。しつこく攻め立てたスペインがようやく先制する。

という事で、引いて守ってもリターンがない上に失点してしまったイタリアは前に出たい。しかし前に出てもペドリを管理できていない環境でロドリ、ファビアン・ルイスに打開されてモラタ、そしてヤマルがフリーでミドルシュートを打つ機会を得る。こうなるとイタリアは厳しい。同数でぶつかってもスペインのビルド隊が慌てるはずも蹴り始めるはずもなく、イタリアはにっちもさっちも行かなくなった。70分にトランジションからニコのミドルシュートがクロスバーに直撃。決まっていたら終わってた。

イタリアは64分にスカマッカとキエーザを下げてレテギとザッカーニ。ペースを掌握したスペインはペドリとヤマルを下げる余裕がある。さらにモラタとニコも下げる理想のローテーション。特段リスクを生む事もなくアヨセ・ペレスが2つ決定機を作り、盤石のクローズ。



●試合結果

注目の強豪国対決だったがスペインが内容で圧倒。ドンナルンマが止め続けなければ何点入っていたか。
イタリアは初戦で見せたボール保持押し込みを一切見せられず、後方3枚からの配球という狙いが姿を表す事なく敗れた。大外の質も出ず、バレッラのボールキープやフラッテージの運動量など話題に上がる事もない試合となった。最終ラインの背後を狙う共通認識はチームに存在したようにも見えるが、それならば人選にも矛盾があり、スパレッティはこの試合の先を見てベストメンバーでスペイン相手に何が出来て何が出来ないのかを確認していたと思う、思いたい。
ビルドアップの考え方は、プレスに来られたら後方の枚数を増やすような事はやらず、セカンドボール回収にしてもダメだったらそこまでの試合になったのは残念である。初戦の良さは相手チームがイタリアをリスペクトして撤退しないと再現されないというのなら、おれの目も節穴という事になる。次戦のリバウンドに期待したい。

スペインの方も初戦の戦い方を踏襲した。ヤマルとニコ・ウィリアムズのクオリティを生命線に、ペドリの立ち位置が常にイタリアを悩ませていた。ファビアン・ルイスのタスクをイタリアが阻止出来ず、ククレジャのセカンドボール回収がチームの前向きな気分を高めていった。やはりククレジャ、大会のキーマンになりそう。
前半では仕留めきれなかったが、後半にイタリアが両サイドを2人で守るようになってからSBのインナーラップを活用しペースを落とさなかった。ゴール前を強襲する形を繰り返し、59分に得点。リードすればイタリアは前に出てくる。そうなればビルドアップを活かし始めるというストーリーは理想的。個人的にだが、「ではイタリアはリードを追いかける時間にどのようにプレスを掛けていくのか」は特に練られていなかった感がある。この辺もまだまだこれからなのか、こんなもんなのか。

スペイン代表はそもそも全員が"こういう4-3-3"で自然と育ってきており、局面の優先順位と環境理解に迷いがない。スペインらしさというのはこういう局所に出てくると実感する。例えば大外駆け上がりとインナーラップを、片方しか出来ないSBなどおそらくスペイン産にはおらず、当然両方出来る。ちなみにロールモデルはダニエウ・アウベスなのかなとか思ったり。そこにアクセントを加えるのがククレジャの対人能力だったりするわけである。あらためてマルコス・ジョレンテは純粋なSBではないと実感する。まあいいか。
WGにしても対面するSBの足を止めながらやり直しを選択するパターンを必ず持っており、そのやり直しをロドリとファビアン・ルイスがやる形は当然有効な手段となる。その繰り返しを確実にやれる選手が揃っている。迷いがないという点において、スペインはやはりベストなチームであろう。そこに、今のイタリアとの差があったように見る。出来れば決勝トーナメントで再戦を見たい。


6/20
アレーナ・アウフシャルケ
スペイン 1-0 イタリア
得点者
【スペイン】'55 OG(カラフィオーリ)


●ピックアップ選手

ペドリ(スペイン)
ライン間で自由を得て試合を動かした。非保持含めてスプリントが良く彼らしさが出た。実は走れてナンボの選手である。

ニコ・ウィリアムズ(スペイン)
ディ・ロレンツォを手玉に取る衝撃のパフォーマンスを披露し決勝点を演出。現環境のスペイン代表では最高のWG。

ロバン・ル・ノルマン(スペイン)
ハイボールを跳ね返す機会も多かった試合で、喧嘩も含めて得意な展開だった。この内容でボールを支配するために存在している。

ファビアン・ルイス(スペイン)
いわゆる"ペドリじゃない方"なわけだが、オールラウンドな能力を全力で発揮する。あまりにもコンディションが良すぎる。

ラミン・ヤマル(スペイン)
対面する相手をピン留めしながら独力で突破していくスキルは化け物級。際どいシュートも放ち、自由を謳歌した。宿題頑張れ。

ジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア)
止め続けた。あまり真剣にプレーを見た事がなかったがミドルシュートに対して抜群の安定感がある。

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