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積み重ねる3ポイントの先にしか 3節 アトレティコvsバレンシア(A) 2022.8.29

3節はメスタージャでバレンシア戦。
前節ビジャレアルにしっかり負けたアトレティコは改善点を示してほしいところ。

ガットゥーゾ監督が就任したバレンシアは開幕から
ジローナ(H) 1-0
アトレティック(A) 0-1
で1勝1敗。
ギジャモンがアンカーポジションの4-3-3が基本。両翼に新加入のカスティジェホ、サムエウ・リーノを置く。先季から個人的なお気に入りだったユヌス・ムサが一段階パワーアップしたプレーを見せており、期待値が高い。身体も大きくなっている。ディアカビも好調。

前回対戦はこちら

前半で2点先制されながら後半、ファイヤーフォーメーションでひっくり返した試合。最後はエルモソだった。個人的にそれより印象に残っているのは11月のメスタージャでの試合。

後半ロスタイムにウーゴ・ドゥーロに2発決められてのドロー。おれの中でアトレティコの試合を見る目線が大きく変化したきっかけになる試合であった。
そのウーゴ・ドゥーロは開幕から2試合トップで起用されていたが、前節ちょっと時間のかかりそうな腿逝きで途中交代している。このポジションは実質カバーニ待ちとなる。アトレティコはメスタージャで先季のリベンジへ


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
ヒメネス / ヴィツェル / ヘイニウド
コケ / コンドグビア / デ・パウル / ジョレンテ / サウル
フェリックス / モラタ

サヴィッチ負傷でヒメネスが今季初スタメン。そして出場停止のモリーナがいないのでジョレンテが右。左はサウルになった。中盤にはコンドグビアとデ・パウルをチョイス。

・バレンシア
ママルダシュヴィリ
コレイア / キュマルト / ディアカビ / ラト
ギジャモン / ムサ / ソレール
カスティジェホ / リーノ / マルコス・アンドレ

開幕戦退場のキュマルトが戻った。
左SBはここ2試合ヘスス・バジェホだったがこの日はトニ・ラト。トップはマルコス・アンドレ。ここで存在感を発揮したいところ。

スタンドにはカバーニの姿が。
ガットゥーゾとシメオネが並ぶの、やばい


●前半
アトレティコの非保持は非常に実験的だったが、結果的にバチボコに押し込まれた前半を振り返る。

まずはバレンシアの保持、アトレティコの非保持。アトレティコはこの日、前線からのボールプレスをここ2試合、そしてプレシーズンとは違う形に変えた。具体的には前方5人がマーク担当を確定させるマンツーマンでプレス。

高い位置で圧力をかけていく狙いがあったのかもしれないが、見ての通りまったくハマらず。
要因に、ギジャモンを思った以上に捕まえきれなかった事をあげる。自由にボールを触られて、コケの走行距離が悪戯に長くなるだけだった。そして、ユヌス・ムサである。

ギジャモンの並列まで降りてきて顔出し。ここでボールを引き取ると、一気に一枚剥がすパワーがある。アトレティコは左IHのコケがギジャモンを、左WBのサウルがコレイアをマークしているため、このムサのポジションが基本的にシステムの溝になっており、バレンシアとしては生命線、アトレティコとしては泣き所であり続けた。過去2試合見ていればムサのところでこうなるのはわかっていたと思うが。

この形はアトレティコ側の配置に大きな欠点を作る。左WBサウルが相手SBを捕まえに前に出ているとどうなるかというと、右WBジョレンテが前に出られない。

後方に4枚揃えるためにジョレンテは自重。そもそもリーノに捕まっている。デ・パウルが必死に走るしかないエリアが生まれてしまっている。悪い副産物として、ボール回収時にジョレンテのポジションが著しく低い。
速い攻撃でこそ魅力のあるジョレンテをせっかく大外に置いているのに彼を活かす場面はなく、21分に一度際どいクロスをあげた以外、前半のジョレンテは消え続けていた。
デ・パウルが走らされまくり、ジョレンテはWGのリーノをマークして後方待機している形は、選手の個性を見た時に健康的ではなかった。むしろデ・パウルがこの走り回りに耐えられるか確認していた説もある

そんな形でアトレティコを押し込む事に成功し、主導権を握ったのはバレンシア。ここまでの2試合では切れ込んで左足シュートを繰り返して全く得点の匂いのしなかったカスティジェホが、外をコレイア、内をムサにサポートしてもらう事で縦横無尽にボールを動かす。

左WGのリーノのドリブル突破はさすがにジョレンテが対面する事で無力化出来ているが、バレンシアに非常に"意味のあるボール保持"をされている。マルコス・アンドレもなんだか点を取りそうな雰囲気だけはあった。

23分には、前が空いてグンと進んだムサのとんでもないロングシュートをオブラクが触る事さえ出来ずネットを揺らされる。直前のディアカビのファールを取り、ゴール取り消しとなったが今季のベストゴール候補のスーパーシュートだった。
逆に39分にはモラタが抜け出したところをコレイアが手をかけて倒し、何故か迷わずレッドカードが出た(当然取り消し)。なんだか慌ただしい。

アトレティコは得点の糸口がほぼ掴めず。ゴールに迫ったのは上記の21分のジョレンテのクロス以外では32分に前プレが引っかかってフェリックスがシュートを打ったシーンと、時々CB間の管理が緩くなるバレンシアの最終ラインを突いてモラタが何度かシュートチャンス。前プレが引っかかった、と言っても前5枚で追いかけ回して45分でシュートチャンス一回では採算が取れない
ロスタイムにもカウンターからデ・パウル→フェリックスの大きな展開で最後はモラタがGKと1対1を迎えるが、我々のよく知っている外し方をした。ちょっと安心した。


●前半終了
スコアは0-0で折り返し。ジャッジは置いといて、ポイントはいくつかあり、

①アトレティコの準備したプレスはバレンシアには通用しない(相性がとても悪い)事
②押し込まれるとカスティジェホ周辺から破壊されそうな事
③4-3-3の相手に対して、今のシステムではまったく前進出来ない事

などが確認出来た。
特に③のビルドアップは致命的で、バレンシアは高い位置でボールを奪おうとしているわけでもないし、急いで横スライドしてスペースを消して守っているわけでもない。アトレティコの選手がボールをもらいたいところに、ただいる。もはや狙ってるというよりアトレティコ側の狙いが悪いんだろうなという部分。アトレティコは特に、コケとコンドグビアの出来が良くない。チーム全体でボールの循環方法を変えていかないといつまで経っても変化が起こせない。という前半。

この日も選手交代含め解決のソリューションを探りながら、さて後半に臨む。


●後半
後半開始からアトレティコはカラスコを入れる。ボールの循環を変えるなら大外。サウルと入れ替えた。

変わったところをそれぞれ。非保持から。

・後半の非保持 許容と撤退と
ジョレンテの意識が一列前へ。それに伴い、コケがやや後方体重になる。

左SBのラトにはジョレンテが縦スライドしてデ・パウルを中央に留める。それによってラトに背後を取られてデ・パウルが走らされる事は無くなった。やや先季の形に近いかな。
これで、アンカーが捕まらず、ギジャモンを簡単に経由されるようにはなった。


この場面ではラトまで運んでプレス回避成功。シメオネがそれを意図していたかはわからないが、おれは個人的にギジャモンは放置してもたいして火傷する事はなさそうと感じていたので、この形は賛成。ジョレンテの縦スライドは、デ・パウルを中央に置く事とプラスして、そもそも後方を薄くしてロングボール使われても怖くねえな、という考えもあったと思われる。
ただし、ここまで2試合の取り組みとあまりにも違う形のプレスを行った理由は今後の検証事項。前半のプレスは一体何がしたかったのかというクエスチョンは残った。マンツー気味に前5枚で捕まえに行くのなら、FWのスタメンはクーニャとコレアがいいんじゃないかな、などなど、また気付きがある事象ではあった。


・先制点
先に言ってしまうと先制点は結局ギジャモンのボールロストから生まれた。これは偶然か、必然か。

アトレティコのスローインの処理でルマルがギジャモンを引っ掛ける
途中出場のルマルが出足良くギジャモンに後方から詰めたところ、びっくりするくらい無警戒にギジャモンがロスト。同じく途中出場のグリーズマンのシュートが相手DFに当たってコースが変わり、ラッキーな得点に。


・後半の保持 外回りとポジトラの改善
続いて保持。
カラスコの箇所で時間が作れるので、バレンシアの前線プレスを外せない状態を特に改善する事なく、なんとなく保持を回復させていった。力技。

バレンシアにボールを握られる時間が長いこの日の試合において、カラスコを投入し、しかも最終ラインに吸い込まれずにやや高いポジションを取り続ける事が生んでいたメリットは、フェリックスのポジトラのスタートポジションを変えた事。

カラスコが大外をすっ飛んでいくため、フェリックスはど真ん中、センターサークル付近にポジションする。前半もこの位置でCBディアカビのイエローを誘発したが、後半もCBキュマルトにイエローを出させた。この位置でフェリックスがターン出来ればカラスコとモラタだけでシュートまでいけるので、相手はたまったものじゃないなと。保持出来ない、人数かけて攻める事も出来ない、という試合の解決策には最適なカラスコ起用だったと思う。

非保持のところで書いた通り先制点に繋がったのは、ルマルとグリーズマンの途中投入だった。ここでシメオネが狙った改善ポイントは明確。

後半からアトレティコがプレスの形を変更した事に伴い、カスティジェホが降りてきてボールを引き取る形が多かったので、ここを邪魔する運動量を補完出来るルマル
カラスコ経由のカウンターで仕留めるなら右のIHにはゴール前に顔を出せるグリーズマン
という選択肢。あまりにも交代直後にこの2人が結果を出したが、この試合の3ポイントを狙う上で説得力のある起用だったなと。上手くいきすぎではあるが、明確な意思を持って送り出した2人だった。


・バレンシアの選択肢は
一方のバレンシアは、先制点を献上したタイミングでギジャモン→ニコ・ゴンザレスを交代。
得点を取りに行くためにアクセルを踏む意味で、攻撃シフトの意味合いがある交代だったのだろうが、タイミング的にギジャモンはめちゃめちゃ懲罰交代に見えてしまってちょっと気の毒だった。
アトレティコの先制後はさらにバレンシアが押し込み、オープンな展開どんと来いな時間が続いたが、PA幅でプレーするカスティジェホ、マルコス・アンドレ、ソレールから一切ゴールの気配がなかったのが切ないところ。74分に早速そこにテコ入れしようとマキシ・ゴメス、フラン・ペレスを投入したが、まあ似たようなもので。ただカスティジェホがいなくなった事でムサが高い位置で縦パスを引き出す場面があり、どう見ても効果的に見えたので今後に向けて一考の価値ありなのではなかろうか。

終盤にはラトを削ってFW投入。しかしアトレティコの逃げ切り体制はバッチリ。昨年と同じ轍は踏めないアトレティコが危なげなく逃げ切り、今季こそは1点を守って試合終了の笛を聞いた。


●試合結果
勝った。様々な注釈が付く試合である事は百も承知。その上でこの試合は、まず3ポイントを抱きしめたい。

前半終了時に書いたポイント3つをおさらいする。

①アトレティコの準備したプレスはバレンシアには通用しない(相性がとても悪い)事
②押し込まれるとカスティジェホ周辺から破壊されそうな事
③4-3-3の相手に対して、今のシステムではまったく前進出来ない事

①と③は、後半開始からのカラスコ投入が答えになる。敵陣でのプレスの形を変え、それ自体が効果的だったかと言われると微妙なところだが、ギジャモンは放置してもいいなという守り方に変えた事で展開に変化は発生させた。そしてカラスコの投入により、クリーンなビルドアップを一旦諦め腕力で敵陣に進む、フェリックスがファールor被ロングカウンターの2択をセンターサークル付近で問い、相手CBからイエローカードをもらうなど狙った形を出していた。
②についてはバレンシア側のクオリティにもなかなか問題があり。と言ってもここまでの2試合に比べればカスティジェホ周辺は有機的にボールが動いていたのだが。あとはPA内の質。カバーニに期待しよう。アトレティコとしてはヘイニウドとヒメネスがほぼ無敗の対人対応で要所を閉め、ムサの強烈ロングシュートはあったものの、あれだけ押し込まれながらもPA内を攻略される場面はほぼなかった。この辺はらしい守り方が出来ていたと評価したい。前半の問題はポジトラだったね、という結論でここは終わっておく。


何度も何度も言うが去年11月に警笛を鳴らしたのはアトレティコがアトレティコでなくなる不安。果たしてあれから、アトレティコは"らしさ"を取り戻したと言えるのだろうか。まだまだ道半ばのはずだ。

シメオネが今季作っているチームは、まず誰が出ても遂行出来る非保持システムである事は間違いない。同時に、得点は前線の豊富なタレントの組み合わせで、必殺のパターンを探す。探している。バチッとハマる組み合わせを。そんな日々。

だが、先季から言っているが"アトレティコ"を構成する要素は戦術や配置やメンツの上にある。そのアイデンティティを失って欲しくないし、失ってしまったら何をやっても駄目だろう。マドリーじゃないから。バルサじゃないから。だから、1点のリードは絶対に守り切るべきだ。絶対に追いつけないと、世界に伝えるべきだ。

この試合、個人的に一番気持ち良く見ていたのは、先制した時点で11人が逃げ切りをイメージしていた事だ。列強クラブのファン諸君からしたらダサい事かもしれないが、これにシンパシーを感じるのは、アトレティ特有の心地良さではないか。
はっきり言ってこんな内容の試合で2点目が取れるわけがない。今日は駄目だ。何しても駄目。1点取れたんだから、さあクローズだ。と、選手達が切り替えていた事が非常にアトレティコらしくあり、そして今季は、少なくともW杯までは"それが大事"だ。内容は二の次。まずはこの日程を消化しなければならない。この試合で出た課題、懸念点は後で考えたらいい。勝たない事には始まらない。なんで勝てたかわからない、そういう勝利を必死に拾わなければ。マドリーは待ってくれない。バルサは取りこぼさない。アトレティコはそうやってラリーガを生きていくのだ。積み重ねる3ポイントの先にしか、我々のアイデンティティは存在しない。

この日は1-0。バレンシアに勝った。それだけだ。何も残らない?そうじゃない。残ったのは喉から手が出るほど欲しい3ポイント。先季はこのメスタージャで、目の前で取り逃した3ポイント。そして1-0を死守したという事実だ。アイデンティティとは、その上にのみ、生まれる。


8/29
エスタディオ・デ・メスタージャ
バレンシア 0-1 アトレティコ
得点者
【アトレティコ】'66 グリーズマン


●ピックアップ選手
カラスコ
後半頭から投入されてゲームチェンジャーとして役割を果たした。前がかりになるバレンシアの背後の管理が相当甘く、好き放題ボールを引き出した。

グリーズマン
開幕戦ゴールに続きこの日は決勝点をゲット。押せ押せの時間帯にしっかり顔を出して一撃で仕留めた。

ルマル
機動力が欲しいところに投入され、必要役割を果たした。あとは継続。クオリティには何の不安もなかった。

デ・パウル
ようやくスタメンで使われたが、彼に向いた試合展開にならずに苦労。チグハグは続く

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