アイデンティティは戦術にトレードオフされない 13節 アトレティコvsバレンシア(A)

リバプール相手に傷心の敗戦を喫したアトレティコ。ここは中3日でアウェーのバレンシア戦。

プリメーラでは勝ち切れないアトレティコ。前節のベティス戦は5-2-3がハマっての快勝。代表ウィーク前のここ、勝って行きたい。

バレンシアは開幕から好調だったがトーンダウンし、約1ヶ月半勝利無しだったが前節、ビジャレアルにようやく2-0勝利。4-5-1の撤退がハマっていた。CBガブリエル・パウリスタが負傷したのが心配。

また、不調のビジャレアルには勝てたものの、マドリー、セビージャ、バルサ、ベティスの上位勢に全部負けているところが今季のポイントになりそう


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヒメネス / エルモソ
トリッピア / コケ / デ・パウル / カラスコ
コレア / グリーズマン / スアレス


ベティス戦と同じ11人をチョイス。意地でもフェリックスを使うと思ったので意外だった。ベティス戦の改善点であるデ・パウルのタスク量と継続性はポイントにしたい。


・バレンシア
シレッセン
フルキエ / ディアカビ / アルデレーテ / ガヤ
ギジャモン / ヴァス / ラチッチ / ソレール / エウデル・コスタ
ゲデス

ガブリエル・パウリスタが怪我。ディアカビが先発する。コレイアが前節復帰していたがまだ万全じゃないのか、ボルダラス監督はフルキエの方が好みなのか(私はコレイアが好みです)
ドリブルが効いているエウデル・コスタを継続起用する。ソレールはようやくスタメン復帰。ラチッチスタメンなので、4-1-4-1のような4-5-1のような配置になりそう

スタメン

※8分でトリッピアが肩を負傷し、ヴルサリコに替わる


●前半
アトレティコの狙いはほぼベティス戦のトレースになる。

ビルド

ベティス戦。


バレンシアの対応がベティスと違ったので、変更点。

デ・パウルタスク

コケとデ・パウルに前を向かせてライン間へのパスを狙う、という設計だが、コケにヴァス、デ・パウルにラチッチがマンツーで対応する。ですよね。そのための4-1-4-1なのだと思われる。ライン間はギジャモンが番すると。

予想できる対応だったので、これで通用しないとなると話にならないんだが、アトレティコは、主にデ・パウルが自分のマークを連れて躊躇なく大外に逃げる

代わりに目の前が空くサヴィッチが自分で運んだり、ライン間への球出しを担当した。ベティス戦に比べてサヴィッチとエルモソのパスが相手に引っかかるケースが多いように感じたかもしれないが、狙いどころが一つ先なので仕方ない。そしてリスキーではないのでそんなに気にする事ないかも。

上手く行かなかった場合のもう一つの考え方は、CHがマンツーしてこないエリアまでボールを進める事。
具体的にはWBの大外に進んで、相手DFラインをPAまで押してしまえば、CHがマンツーから解放される。

マンツー解除


あまり有効ではなかった原因としては、この先のコンビネーションのパターンがまだ不明な事と、前半早々にトリッピアが肩を負傷してヴルサリコと交代し、そのヴルサリコが大外の受け手として機能できなかった事が挙げられる。
大外に逃げ道を作れないとCHでノッキングした時詰むので、ここは考えもの。


・先制
先制点はデ・パウルがラチッチを連れて逃げたところから生まれた。縦パスに対して、おそらくギジャモンに与えられた守備タスクは"グリーズマンかコレアが顔を出すから捕まえて前を向かせるな"だったはず。アトレティコは序盤から、"2人入れ違いに顔を出す"形を狙っていたように見えた。あとはタイミングが合えば、というところで35分にその場面が来た。

先制1


デ・パウルがラチッチを連れて大外へ。サヴィッチの前にスペースがありクリーンな縦パスが入れられる。

先制2


ここにコレアが顔出し。ギジャモンはコレアを捕まえに行くが、コレアの背後に遅れて入ってきたグリーズマンがこの縦パスを受ける。これで綺麗に前が向けた。この出し入れを中央で狙えたのは大きいし、この試合は序盤から頻繁にスアレスが中央のレーンから左へ流れていた。得点の場面でもコレアがグリーズマンから中央レーンでボールを引き出した際にディアカビと最終ラインの駆け引きができている、良いポジショニングだった。たぶんだが、ベティス戦からグリーズマンがスアレスにいてほしい場所、空けてほしい場所を依頼しているような気がする。動き的になんとなく。


●前半終了
アトレティコの1点リードで前半終了。
アトレティコはベティス戦に続き、狙いを形にして先制点をゲット。申し分ない内容。
バレンシアは、今季ライン間がどことなく緩い印象があったがこの日はアトレティコの新システムに対応してCHマンツーを準備。想像していたよりアトレティコに上手く解決されてしまった感じはあるが、さすがボルダラス監督の準備力。ただこのシステムを継続しようとすると得点パターンをどう作るか。後半の変更点がポイントになる


●後半
後半開始から、アトレティコボールは持てているが縦パスが刺さらず、思うように攻められない時間帯。50分、バレンシアに左サイドをガヤ、ラチッチの2人で解決される。最後はゲデスのシュートがサヴィッチに当たって同点。

・嫌な流れを変えたのは
良い前半から突然の同点。流れを変えたのはグリーズマンだった。ボールを受けたソレールに背後から寄せてクリーンに取り切り、前進。スアレスが上手い事相手を連れてコースを空け、そのままグリーズマンが左足を振ってゴラッソ。お見事。
直後、キックオフのボールを掻っ攫ってグリーズマンがファールをもらい、そのセットプレーでヴルサリコがゲット。この辺はバレンシアの悪いところ詰め合わせという感じで一気に2点差をつけた。


・試合は動く
時間は65分。バレンシアはラチッチとヴァスのIH2枚をout
マルコス・アンドレ、ユヌス・ムサのアタッカー2枚を投入し、前がかりになる

後半


おそらく配置はこうだったと思うが。
ムサには"右でも左でもボールサイドに寄れ"という指示だったと思われる。

ムサ

間で顔を出すゲデスを追い越してムサがPA侵入を狙う。こういうバグを起こせるダイナミックなランニングは有効。
バレンシアはボールが好循環するようになり、ここまでほとんど仕掛けの機会がなかったエウデル・コスタも、PA付近でボールを持てるように。僕は実はこの選手めちゃくちゃ好きです

アトレティコは変わらずこコケとデ・パウルからライン間を狙う。70分にはグリーズマンのポストを使ったコレアに決定機。

・アトレティコのクローズ
73分にコンドグビアin
交代はコレア。ここは後述。
アトレティコはここで5-3-2、5-4-1で撤退するかと思ったが、なんとなく5-2-3のまま、という雰囲気のまま。コケが前に出る。

介護


グリーズマンは押されている右サイドで守備に奔走。
コケは、コンドグビアの横を介護するために後方をかなり意識し、フルキエがフリーで持つのを気にしてなぜかカラスコが寄せるアンバランスな守備配置に。グリーズマンが左に回れば良くないか、という。80分頃からギジャモンがこのコケの背後、カラスコの前、コンドグビアの横の位置をかなり意識していた様子

87分にようやくアトレティコはエレーラ、フェリックスin

完成形


こんな感じになる


・最悪なポジティブトランジション
91分。左側からコインドレディが放り込もうとしたボールが手前で引っかかり、コンドグビアが単独ポジトラ。
しかしフェリックスへの裏パスのタイミングを逸し、センターサークルでロスト。ひっくり返されてウーゴ・ドゥーロの一撃を喰らう。
最低なプレーである。2点リードで中央独走のポジトラ。4点目はいらないし、相手は疲れて攻め残りしている。”ボールを失わなければ何をしても良い”場面で、ただボールを失い、逆襲を喰らった。ギジャモンを殴って退場してもいいからロストだけはしてほしくなかった。擁護の余地のないプレー。これで一点差。


最後は96分、ゲデスのFKに再びウーゴ・ドゥーロ。
マドリー戦、セビージャ戦に続く大物食いを見せた。


●試合結果
■誤ったクロージングの手順
60分で2点リード、までは良かった。そこから試合の締め方を珍しく間違えた。珍しく、と言わせてくれ。

最初の交代は73分のコンドグビアの投入。この交代がわからなかった。outはコレアである。コケを前に出して、CH2枚を"デ・パウルとコンドグビア"にしたのだ。
まずクロージングでデ・パウルを引っ張ったのが疑問。ベティス戦では70分付近でガス欠しており、この日は80分台になっても足は止まらなかったがベティス戦に比べてスプリント回数が少ない、距離が短いなどの変化があったのだろうか?この検証のために残した?のか?
それにしてもデ・パウルを中盤に残して、スピードとアジリティのないコンドグビアと組ませれば当然カバーエリアは狭くなる。せめてコケ含む3CHだろう。というか3CHにするための交代だと思っていた。5-2-3を保った理由も不明だ。
さらに交代がコレアだった理由はなんだろう。普段はクローズの場面で一番前に置いたり、中盤4枚の右に置いたりと重宝するコレアを先に替えたのは何故か。実際、グリーズマンが必死に右サイドの守備をこなした。同点ゴールのフリーキックに繋がるファールはグリーズマンのものだが、責められないと思う。というかファールに見えなかったのだが、どうだろう。
ここ最近の試合の中では明らかに一番走っていたスアレスをまず下げるのが既定路線かと思ったが、何故か残した。2点リードの残り15分でスアレスに何を期待したのか?
そしてコンドグビア。失点シーンは一度置いておいても、中盤2枚で撤退するには明らかに向かない。守備のスライドはもちろん、ボール奪取後の最初のパスを受けても前を向けず、エルモソに戻すだけのパターンが多く、再奪回したいバレンシアにチャンスを与えているようだった。たまに前向こうとしてもスピード感がなく捕まっていた。twitterでも言ったが、彼の正しい使い方がおれには一切わからないが、少なくともこの試合では効果的ではなかった。
精一杯ポジティブに考えるなら、デ・パウルの90分の強度を確認する事と、5-2-3で相手のスクランブルに耐えられるかのチェックだった、という考え方か。シメオネがやるとは思えないが。



■失ったのは勝ち点か
なんにせよ、アトレティコは2点リードで90分に突入しながら守りきれず、同点に追いつかれた。ここからは私感だが。

アトレティが一番嫌うのは、リードしている75分以降の失点じゃないだろうか。おれ自身もそうだし、SNS等でやり取りをするアトレティにも共通している認識に感じる。違ったらごめんなさい
その理由は、"我々はバルサでもレアルマドリーでもないから"だ。そもそもアトレティコを応援する理由は大なり小なり、ここに帰結する。アトレティのアイデンティティの問題だ。
アトレティコは常時3点取れるチームではないし、世界的スーパースターが突拍子もない得点をもたらしてくれるチームでもない(※この日のグリーズマンはそれだったが)
アトレティはそれを理解している。だが、2強になくてアトレティコにはある物、にも強烈な自覚がある。それは"リードを守る事"であり、"勝ち試合をクローズする事"だ。常時3点取れないんだから、リードは守らなければならない。エース(昔ならグリーズマン)が奪った虎の子の1点を、何としても死守して、終了のホイッスルを聞く。

アトレティコは守備的なチーム
シメオネは守備戦術に優れた監督

周りから見ればきっとそうだろう。あっていると思う。
だが、我々アトレティが自覚するアトレティコとは"リードを守る戦いから逃げないチーム"だ。それが、アトレティのアイデンティティだろう。

我々はバルサとマドリーのように点は取れない。だが、我々はこの1点を守り抜ける

それがアトレティのメンタリティであり、アトレティコ最大の魅力のはずだ。だからこそ、この日のように追いつかれるのは嫌だ。受け入れられない。セルヒオ・ラモスのヘッドを今でも受け入れられないのは、それがアイデンティティの喪失だからだ。チェルシーにボロ負けするよりも、リバプールに手も足も出ないよりも心に来るのだ。

このような試合は二度と繰り返してはならない。そうでなければ、タイトルを取ろうと、2強との差が縮まろうと、アトレティコがアトレティコである限り絶対に失ってはならないはずのアイデンティティを失う。
3CBのビルドアップ、WBを使った5レーンの活用、CHからライン間への速い縦パス、大いに結構だ。だが、アイデンティティは戦術にトレードオフされない。されてはならない。チーム最大の武器を、我々が応援する理由を奪われたような最悪の気分だ。

何度でも言おう。この日のような試合を二度と繰り返してはならない。これは勝ち点の喪失ではなくアイデンティティの喪失なんだ。


11/7
メスタージャ
バレンシア 3-3 アトレティコ
得点者
【バレンシア】’50 OG(サヴィッチ) '90+2 '90+6 ウーゴ・ドゥーロ
【アトレティコ】’35 スアレス ’58 グリーズマン ’60 ヴルサリコ


●ピックアッププレー
91分の場面。
セットプレーの流れでバレンシアが放り込み。ニアのコンドグビアに引っかかり、速攻

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よく戻ったマルコス・アンドレがギジャモンと挟み込んで奪取。ムサ経由でガヤ→ウーゴ・ドゥーロでゲット

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以上。


●ピックアップ選手

デ・パウル
ビルドアップでは常に味方がデ・パウルを探すようになった。前進を促進させる働きも守備の対人対応も見事。継続性もベティス戦から改善された。

スアレス
ここ最近ではあまり見ないレベルでスピードがありロングスプリントもできた。対面した相手も"最近のスアレスならドリブルは怖くないな"と思っていたのではないか。
ボールを引き出す際に中央レーンを離れて左インナーレーンへの移動を頻繁に行ったが、グリーズマンと何か狙っていた感じがした。

グリーズマン
ボール奪取からの独走、100点満点のミドルシュートと全盛期を彷彿とさせるゴールで一時はヒーローに。背中を向けた相手に巻き付いて取り切ってしまう守備も懐かしく、彼らしかった

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