転機はベティス戦。新システムへの移行 12節 アトレティコvsベティス(H) 2021.10.31

4位ベティスをホームに迎える上位対決。
ここのところ勝ち切れないアトレティコ。ライバル達も勝ち切れずにいる中、足踏みが続く
直後にアウェーのリバプール戦が控える楽じゃない日程の中、攻撃陣が好調で3ポイントを重ねているベティスをホームに迎える。

ベディスはここまで6勝3分2敗。
負けたマドリー、ビジャレアル戦以外は無得点がなく、順調に勝ち点を積む。上位に通用しない説もあるが点が入るので効率的に見える。

前節もバレンシアに4-1。そのFWでよく点が入るね、と思っているチームだが突破が上手でスピードのある選手が多く、先手を取ってしまえば後は得意のボール保持で試合をコントロールできる。
テクニカルな選手の多い中盤にウィリアム・カルバーリョを置く事で色んなバランスを一気に落ち着かせている印象。彼の活躍はとても重要である。ミドルシュートも怖い


●スタメン
・アトレティコ

オブラク
サヴィッチ / ヒメネス / エルモソ
トリッピア / コケ / デ・パウル / カラスコ
グリーズマン / コレア / スアレス


サヴィッチが10/3のバルサ戦以来の復帰。思えば彼が離脱してから1試合も勝てなかったね・・・
コレアはさらに久々、9/28ミラン戦以来のスタメン。
配置には注目だが、3トップを継続する様子
中盤はジョレンテ、ルマル、コンドグビアは戻って来られず。前節退場したシメオネもベンチにいない


・ベティス
ブラボ
モントーヤ / ペッセッラ / エドガル / アレックス・モレノ
カルバーリョ / グアルダード / カナレス / ロドリ / ファンミ
ウィリアン・ジョゼ


フェキルがベンチから。ターンオーバー?ギド・ロドリゲスではなくグアルダードがスタメン。
このチームはCBの序列がいまいちわからん。まあベテランが多いから色々とマネジメントしてるのかな。この日はペッセッラとエドガルのコンビ。
トップはウィリアン・ジョゼ。4-4-1–1継続なのか、狙いは注視して行きたい。


スタメン



●前半
・アトレティコ側

この日のアトレティコは後方から効果的にビルドアップした。

ビルド


3CB+2CHで第一ラインを突破する。ベティスはエルモソを使わせたくないのか、前3枚でプレス。この3枚を5人で剥がす事がアトレティコのビルドアップのテーマ。
アトレティコの3CBは普段、"困ったらWBに渡せばいいや"というパスルートがかなり多い。エルモソ→カラスコのパスはこのチームで一番多いんじゃないか。数えてないけど
この日は3CBはとにかく"CHの足下に渡す"という事を徹底。
・CBからCHへ
・CHからライン間のコレア・グリーズマンへ

という順番を徹底的に繰り返した。
ベティスの守備は、右SHロドリが無理やり前に出てエルモソを抑えている印象。そんな事よりカラスコ空いてますけど、という感じだが、どうなんだろうか。


で、前を向いたCHのコケorデ・パウルからコレア・グリーズマンの足下に速いボールをつける。このパスが雑でも多少ズレても何とかしてくれる安心感があり、縦パスを躊躇せずにすむのは、単にコレア・グリーズマンの技術の高さが成せる技である。これは間違いなくこのチームの強みだ。
この縦パスが入る時、WBはライン間と並列にサポートしてトライアングルを形成する

ライン間


ライン間で複数の選択肢を持てる配置


・コレアとグリーズマン
この日、凄く良いなと思ったのが、コレアとグリーズマンが良い意味で"スアレスを無視して"ポジションしていた事。
コレアとグリーズマンは、自分達が2トップだとでも言うかのようにめちゃくちゃに近い位置でプレーした。

コレアとグリ

上の図のようにトライアングルに近づいてくる逆側のトップ。(この場合グリーズマン)
スアレスはCBの背後を狙う動きと、これまたコレア・グリーズマンを無視してCHからの縦パスを受けてダイレクトで繋げる動きの2つだけを繰り返した。3トップがレーン固定されて凝り固まってしまうと、この柔軟さは出ない。ここは非常に良い点。たぶんグリーズマンが意識的にやっていた


・ロングボールを選ぶタイミング
ちなみにヒメネス、サヴィッチ辺りから複数良いロングボールも出ていた。ロングボールを選ぶタイミングは単純。

ロング


相手CHがマンツー気味にコケ、デ・パウルを消しに来た時。効果的な使い方



・ネガトラ
このシステムでもう一つ良かった点が、ボールを失った際のリアクション。
前節レバンテ戦を思い出してほしい。

保持

この試合と同じく、保持時3-4-3で配置してはいるものの、エレーラとコケのコンビはどうしても攻守ともにセンターサークルでプレーする機会が多かった。

これには複数の要因がある。まず左右のトップ(グリーズマンとフェリックスだった)がライン間でボールを受けられず、ブロックの外でボールを触っていた事。彼ら自身が非保持で自分達の背後を使われる事を一番に警戒していた事、など色々あった。

一方この日のコケ、デ・パウルのコンビはまず、攻撃時前向きにプレーし、コレア・グリーズマンに近づいてサポートしていた事が、そのまま有機的にネガトラの好配置にも繋がっていた。
構造上ボールを失うのは主にライン間でコレア・グリーズマンにボールが入った瞬間である。

ロスト

当たり前だがその時、CHのコケとデ・パウルはボールに向かって前進している。サポートのために。
だから仮に上手く収まらずロストしたとて、そのまま奪い返す役割を担えばいい。ここが非常にシンプルだった。4局面が効率良く回っている、というやつだ

ついでに言うと、この試合はベティスのポジドラも良くなかった。とりあえずロドリがだいたい浮いているのでそこに渡す、というか逃げると言うか。ほぼこの一択でスピードを上げられなかった

ネガトラ


コケとデ・パウルのファーストプレスがかわされると一気にひっくり返るリスク(開始1分コケがカルバーリョに振り切られていきなりCBの前を晒す場面があった)があるのと、そもそも90分間2人は続けられるのか?イエローをもらって圧力が下がったら?などなど疑問点はあるが、"良いものは良い"。この45分間での分析はここに留める。


・ベティス側
ベティスのビルドアップ。

ベティス


2CBの間にグアルダードが落ちてくる形が基本形。右に落ちる事もある。カルバーリョの隣までカナレスが頻繁に降りてくる。そもそもが降りてくる構造なのか、円滑に前に進めないから仕方なくずっと降りていたのかは不明
両SBは大外を取って、ボールが出てくれば前を向ける配置だがあまりここを経由しない。中央を狙う。
前線はかなり柔軟にポジションチェンジしながら。ファンミがほぼ最前線のような立ち位置で裏を狙って、逆にジョゼは足下でもらおうと降りてくる。ロドリも足下志向が強く、カナレスからボールをもらおうと近づいてくる事が多い。外に動き直しながらボールを要求する事が多いので、右サイドだと魅力が半減かな、この試合は。


マズかった場面。
カルバーリョが真ん中に落ちていた。ロドリが良い落ち方をしてボールを引き出す。

守備

カラスコが微妙な位置に留まり、エルモソは目の前に現れたカナレスに引っ張られておりモントーヤに裏を取られた。

ベティスは全員上手いので、マークがズレれば一気に抜け出してしまうのだろうが、アトレティコ相手にはそうはいかず。抜け出すポイントを見つけられずに横パスが増えた。また、柔軟に動きながらも使うのは中央、という事でボールロストで一気にひっくり返される危険と隣り合わせのボール保持だった。
カウンターでコケ、デ・パウル、コレア、グリーズマンに前向きにボールを持たれたら奪い返すのは難しく、そんなこんなでカラスコにPAで1対1を作られて失点、という前半。

アトレティコの守り方はというと、特に先制してからは5-4-1で構えて必要な人数が定位置から飛び出していく、という構造。これだとカナレスが立ち位置を変えたりと苦心してもたいして効果もなく、ベティスの前半のプランは崩れ去った


●前半終了
1-0でアトレティコリードで折り返し。
ベンチにシメオネがいないんだが、新しい取り組み、新しいシステム、という感じのワクワク感のある前半。久しぶりね、この感じ

CHのファーストプレスを外されると一気に被カウンターのリスクがあったり、CHの運動量が限界突破しそう&イエローもらったらどうしよう、という感じもあったり。確認ポイントはまだまだ多数ありそうだが、都合の良い事にベティスは後半、前半と同じ事はしてこないでしょうね、という様子なので検証としては助かるところ。別パターンを見せてもらいたい



●後半
開始からベティスは2人交代。両SHを入れ替えた。攻撃パターンも守備パターンも丸ごと変更しないとズルズルいきそうだったところで早速2人変えた決断力と、それだけのタレントがいる事は魅力的。"それだけのタレント"と言えるのかはわかんないけど

・ベティスの変更点
何はともあれビルドアップルートを変える。外経由。

後半


ベティス的にはグアルダードのサリーの意味を出すためにも外回りは当然と言えば当然か
アトレティコ的にはデ・パウルがボールにアプローチする距離が長くなる、という目に見えたマイナス要素が出てくる。どこまで持つか。


・追加点
という中でCKからペッセッラのオウンゴールで追加点が入った。怪しくなってきたところでの追加点は助かった。一方でどうやって主導権を取り戻すか、の部分は未検証に終わった。

あとは、グリーズマンとコレアの位置を低くしてSBを使わせずに楽々逃げ切り。3点目となった80分のフェリックスの独走はグリーズマンの守備対応から。90分間強度を落とさなかったのは素晴らしい


●試合結果
新システムが機能してベティス相手に3-0と、この上ない結果を得た試合。
軽いまとめと課題ポイントを羅列しておこう。


■ちょっとだけベティスの話
その前にちょっとだけベティスの話。マドリー戦、ビジャレアル戦に続きこれが今季3敗目。上位チームとの組み合い方はこのチームの課題なのかもしれない。
結局フェキルが出てこなかった事がとにかく疑問。ELのためのターンオーバーなのだとしたらちょっと軽蔑してしまう。アトレティコに勝てば暫定首位、という試合はそんなに軽いものか?


■新システムの話
・中盤のタスク過多
機能したはしたんだがCH、コケとデ・パウルの仕事が多すぎた。
デ・パウルは後半、追いかけ回す距離が長くなりヘトヘトに。もう少しボール保持する時間を増やせると違うのだろうが、実際には後半はベティスにボールを持たれる時間が前半以上に増えていた。
CHでボール奪取できるのが理想でありながら、上手くいかずに押し込まれると選択肢がカウンターになってくる。そしてカウンターを打つにはCHがデュエルしてグリーズマン・コレアにボールを預ける必要があり、トリッピアとカラスコの走る距離も長くなっていく、というCHとWBの4人の運動量に全振りする時間が長くなっていった。
前半のように、"奪う位置が良く、コンパクトになれているからCHとコレア・グリーズマンの距離が近い"のが、"流れが悪く、CHの努力と根性によってCHとコレア・グリーズマンの距離が近い"になってくると厳しい。ブラックすぎる。
パスコースを提供するためにエルモソが内に外に走りまくっている事も何度かあった。よくやっていたと思う。
セットプレーで2点目を取れた事は結果オーライだったが、90分のプランとしてはまだ未完成だ。"60分までに2点差をつけないとガス欠の危険がある"ではリスクが高い


・当たりがありそうだったセットプレー
そのセットプレー。今季、点にならず困っているセットプレーでいくつも可能性があったのはポジティブでしょう。ヒメネスがとにかく頭で触れた。枠に飛べばいいんだけどね、君は。
ショートコーナーや放り込みのFKでエルモソやサヴィッチも決定機を作ってワクワクするセットプレーが帰ってきたね、という感じ。何が変わったのかはよくわかりません。覇気とかが出てたんじゃないかね。殺気とか。真面目な話するとグリーズマンの球質はめちゃくちゃ良かったです


・前半のビルドアップの勝利
3CBの行動を制限(特にエルモソ)したいように見えたベティス。
その割にエルモソに対面するのがSHから無理やり前進したロドリだったり付け焼き刃感はあったが。エルモソからの球出しと、サヴィッチ→コレアのようなパスルートはほぼ使わせない守備が出来ていたと思う。まあ必要なかったんだけど。
この日のアトレティコのビルドアップは3CB+2CHで、CHが前を向く、という構造。こうなると5人で3人を解決すれば良く、そんなに難易度は高くなかった。
前を向いてしまえば、コレアとグリーズマンに届けるボールは多少雑だろうが相手を背負っていようが挟まれていようがどうにかしてくれるので安心・安全。あとはターンしてもらってPAにアタックしてもらうなり、リターンパスをもらうなりご自由に、という感じ


・左側守備のバランスを保つには
この日はカラスコが前に出るのか最終ラインに残るのか、のバランスが絶妙に耐えていたと思う。思えば先季の良い試合は、"絶妙に耐えているな"という印象が多かった気がする。
今日は穴がないぞ、というよりも絶妙に耐えているぞ、という感じ。耐えられる理由は全試合同じではもちろんないだろうが、この試合の印象で言うと"このメンバーなら耐えられるんだろうな"と。人の問題。

3CBが右からサヴィッチ、ヒメネス、エルモソ
左側のCHがコケ
左FWがグリーズマン


という条件があったと思う。

・左CHがルマル
・左FWがフェリックス


で同じようにカラスコを高いポジションに保てたか?という検証ポイントが新たに出てきた。
あとはSBを使われるパターンをどうするか。

サイド

どうやって封鎖するか。ズルズルと下げられることは避けたいけどね


・クーニャの配置
この日は先にスアレス→フェリックスを交代し、フェリックスがトップに。そのフェリックスは実際裏抜けからダメ押しゴールを奪った。クーニャはその後、コレアと交代でピッチイン
※交代ボードでは
コレア→エレーラ
デ・パウル→クーニャ
だったが同時交代の時は案外適当なんだろうか?
そのままフェリックスを真ん中に残して、クーニャはコレアのやっていた右側で守備した。これはフェリックスの二列目守備を嫌ったのか、フェリックスのスピードを最前線に残す事を優先したのか?ポジション的にスアレスとクーニャはセットだと思っていたので意外だった。


・2トップか、3トップか
いよいよ今季は3-4-3(5-2-3)で戦う決意を固めたか?という試合。
これまでのシステムとどっちが良いの?という話になると思うところでおれの考えは、茶化したように聞こえたら恐縮だが"FWがいっぱいいるから3トップの方が良いんじゃない?"という感想。いっぱいいるんだから、3人同時に出せるシステムの方が良いに決まってる。課題を解決できるならね。


・試合を支配できた時間
上手く回った前半に対して、後半はどれだけ自分達のペースで試合が進んだか。試合巧者だったと言えば聞こえは良いが、後半はあくまでも受け身な時間も多かった。先手を取れなかったら?セットプレーからの2点目がなかったら?と敢えて厳しいクエスチョンは残しておく。期待の裏返しとして。


このように、課題がまだ沢山あるのも事実。でも先季も沢山の課題を見つけながら1シーズンかけて乗り越えて自分達のものにした形があった。今季も新しい取り組みがようやく始まる、と捉えていいのではないか。
転機はあの日のベティス戦だったね、と皆で語り合える日が来る事を期待する


10/31
ワンダ・メトロポリターノ
アトレティコ 3-0 ベティス
得点者
【アトレティコ】'26 カラスコ ’63 OG(ペッセッラ) ’80 フェリックス



●ピックアッププレー
2:10のビルドアップ。前半は良いビルドアップがいくつもあったがこの試合の狙いが判明したシーンだったので。

画像13


復習。
後方3-2ビルド。ベティスの追い方もまだ定まっていない時間帯だが、デ・パウルが前向き。
とにかくデ・パウルが前を向けると判断したら狭かろうが背後に敵がいようがパスを入れまくった。

画像14


コレアとグリーズマンはとにかくライン間の溝で待つ。この場面のようにどっちでも通せるシーンも少なくなかった。グリーズマンは内側を選び、スアレスが外に抜ける。グリーズマンはスアレスの足下に渡してリターンを受けようとした。ファーはコレアとトリッピアまでPA内へアタック

この場面をいくつも作った。前半のところで言った通り、このデ・パウルからの縦パスが収まらなくても再奪回を狙う仕組みがあり、積極性を後押しした。良い攻撃。


●ピックアップ選手
ヒメネス
彼が3CBの真ん中に入った事で安定した部分は大いにあったと考える。やはり総合能力が高い。CKのヘディングは、もう一息で得点に

デ・パウル
MOMでしょう。このスタイルで90分走り切るにはどうしたらいいのか、今後も注視していきたい。ビルドアップとドリブルでのボールゲイン、対人対応どこを取っても完璧だった

グリーズマン
左FWで躍動した。今季一番柔らかみのあるプレーでようやくトップフォーム、という感じ。正確無比なコントロールと正確な球出し。裏に飛び出すスピードも見せた。彼中心に回るのなら、もっとこのシステムを見ていたい

コレア
やはり彼がいるとチーム全体のコンビネーションが円滑になる不思議な存在。この試合でもライン間でのターンとカウンターでのランニング、そして広いエリアの守備対応とコレアタスクをきっちりこなした

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