見出し画像

浮遊感の世界(Billie Eilish - “your power” 歌詞和訳&レビュー)

昨年の第62回グラミー賞で、史上最年少となる18歳で主要4部門を含む5冠に輝いたビリー・アイリッシュ。現在は世界を牽引するシンガーとして活躍していて、いわゆる「大注目」の若手だ。(かく言う筆者も大ファンな訳だが。)

そんなビリー•アイリッシュが4月30日に、新曲”your power”を公開。


というわけで今回は、その対訳のみならず、そこから読み取れる曲の奥深さや魅力についてまでご紹介させて頂く。

[対訳]

Try not to abuse your power
あなたの力を汚く使わないで
I know we didn't choose to change
私たちが変わろうとしなかったのはわかってる
You might not wanna lose your power
力を失いたくないんでしょ
But havin' it's so strange
だけど、その力を持つのって変。


She said you were a hero
彼女曰くあなたはヒーローらしいね
You played the part
あなたはその役を務めたわけ
But you ruined her in a year
だけど、あなたは彼女を一年で台無しにした
Don't act like it was hard
辛かったみたいなふりしないで。

And you swear you didn't know (Didn't know)
知らないと誓ったね
No wonder why you didn't ask
聞かなかったのも当然ね
She was sleepin' in your clothes (In your clothes)
彼女はあなたの服を着て寝てた
But now she's got to get to class
でも彼女はもう授業に行かなきゃいけない


How dare you?
よくもできるね。
And how could you?
どうして出来たの?
Will you only feel bad when they find out?
見つかったらバツが悪いと感じるだけ?
If you could take it all back
もし、すべてを取り戻せるとしたら、
Would you?
どうする?

Try not to abuse your power
あなたの力を汚く使わないで
I know we didn't choose to change
私たちが変わろうとしなかったのはわかってる
You might not wanna lose your power
力を失いたくないんでしょ
But havin' it's so strange
だけど、その力を持つのって変。


I thought that I was special
私って特別だと思ってた
You made me feel
あなたがそう思わせたの
Like it was my fault, you were the devil
まるで、やったのは私だけど、悪魔だったのはあなた
Lost your appeal
もうあなたに魅力はない
Does it keep you in control? (In control)
とりつかれてるの?
For you to keep her in a cage?
あなたが彼女を檻に閉じ込めておくため?
And you swear you didn't know (Didn't know)
知らなかったと誓ったね
You said you thought she was your age
彼女は同い年だと思ってたなんて言ってたけど


How dare you?
よくもできるね。
And how could you?
どうして出来たの?
Will you only feel bad if it turns out
that they kill your contract?
約束を守ってもらえなかったら
バツが悪いと感じるってだけ?

Would you?
どうする?

Try not to abuse your power
あなたの力を汚く使わないで
I know we didn't choose to change
私たちが変わろうとしなかったのはわかってる
You might not wanna lose your power
力を失いたくないんでしょ
But power isn't pain
でも、力って傷つけるためのものじゃない。


Mmm
Ooh
La-la-la-la-la, hmm
La-la-la-la-la-la, la-la

ーーーーーー

明るい印象をも与えるイントロ。
ゆっくりとしたクラッシックテイストのギターに、どこか落ち着きを感じる。
そんなメロディーに重なる、ビリーの透き通ったボイス。
一番初めの”try”の高音がなんとも心地いい。

しかし、穏やかなイントロ部分から一変、ビリーが毒を吐き始める。
そんな曲調の穏やかさと歌詞の毒性のコントラストは、やがてサビの”How dare you?”で頂点に達する。

一方、画面では巨大アナコンダがビリーに巻きついて、まるで”devil”に取り憑かれたかのよう。
荒涼とした大地で1人口ずさむ様子もどこか物寂しい。


ではひとまず、歌詞に目を向けてみることにする。
タイトルにもある”your power”。
“you”はこれを失いたくない。しかし、どうやらなにかあったらしい。
「彼女」と「あなた」の関係をめぐったいざこざ話かのようにも思えるが、そこに「私」も入り込んでくる。恋愛関係の話にようにも聞こえなくはないが、”power”をより広義で考えてみるともっと奥深い意味がありそうなイメージ。

注目すべきは「私」の立場。
“I know we didn't choose to change”
この”we”とは、「私」と、誰を指すのか。「私」と「あなた」?
そしてそもそも、「私」と「あなた」はどういう関係なのか。
重要そうな問いだが、答えは、よくわからない。

すなわち、こうしてリスナーが曲の歌詞を読んでいても、事態の詳しいいきさつなどは一切分からない。
もうちょっと教えてくれてもいいだろ、というくらい、分からない。


しかし、それが逆に、この曲に「浮遊感」をもたらしているようにも思える。

この曲の「私」は、「あなた」との事態について抽象的な表現で、もしくは部分的に取り上げながら「あなた」に囁きかける。それゆえ、リスナーはそのモノローグを横で「盗み聞き」しているような印象を受ける。それがリスナーを圧迫させない、曲全体の「浮遊感」をもたらしていると思うのだ。事態について説明しすぎてしまっては、リスナーを曲の世界観に「無理矢理」引き込んでいるにすぎない。しかし、この曲は(というか、ビリーの曲はどれも、)歌詞は歌詞で浮遊感があり、世界観は音楽の方で伝えようとしている。

そんな歌詞の浮遊感は、サビの高音も相まって曲全体の浮遊感にも繋がってくるわけだ。


ところで、サビの周辺では、互いに似つかないようなフレーズが併存している。
それが、”How dare you?”と”Try not to abuse your power”。
前者は相手を突き放して、「よくもそんなことができるね」という表現。一方の後者は「あなたの力を汚く使わないで」というお願いのような表現。突き放したと思ったら、突き放してはいない。これもある種の、浮遊感——?

こういうわけで、一見毒ばかりに見えるビリーの囁きには、相手のことを完全には突き放さない、一種の優しさがあると言ってもいいのかもしれない。

これに関係しているかはわからないが、筆者はこの歌詞を見て気になっていたことがある。それが特に、下に記す部分で顕著だ。

“I thought that I was special
You made me feel
Like it was my fault, you were the devil
Lost your appeal
Does it keep you in control? (In control)”

なんとこの部分、文末が全て”l”(エル)なのである。
“l”の音は、口を脱力させて発音する。なので、発音した後もゆっくりと残響の感覚が残り、歌声に「やわらかさ」が出る。
実際、歌声の「やわらかさ」がこの”l”の部分で特に際立っているように思える。(気になった読者の方はぜひこの部分を聞き直してみてもらいたい。)

そしてこの歌声の「やわらかさ」も、浮遊感をもたらすのだ。


リスナーを独自の「浮遊感」で曲の世界へと引き込んでいくビリー・アイリッシュ。

このレビューを読み終えた今、読者のあなたもすっかりビリーのファンになってしまったに違いない。

へいすてぃ(論説委員・高校2年)

Photo by Sam Barber on Unsplash

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?