音楽の可能性(モーニング娘。「リゾナントブルー」レビュー)

これからモーニング娘。というアイドルグループの「リゾナントブルー」という曲について紹介していこうと思う。

「リゾナントブルー」は作詞・作曲:つんく♂、2008年4月16日にリリースされた曲だ。モーニング娘。は今やアイドル業界において定着している「卒業と加入」という制度を、一番最初に取り入れたと言われているグループで、「loveマシーン」や「恋愛レボリューション21」など数多くのヒット曲を出し、2000年ごろに一世を風靡したグループだが、この曲がリリースされたころのメンバーを知っている人は、世間一般に見て少数派だろう。それもそのはず、このころはメディアへの露出が全盛期に比べ大幅に減っていた。10年連続で出場していた紅白も、この曲がリリースされた2008年からは出場が途絶えている。
だが、彼女たちはこのピンチをチャンスととらえ、メディア関連の仕事が少なくなった分、練習に励むようになった。その結果、パフォーマンススキルが向上したこの時期は、ファンたちから後にプラチナ期(この名称の由来は、当時発売されたアルバム「プラチナ9disc」から来てるといわれている)と呼ばれ称賛されている。そのスキルの高さは、隠れハロプロファンとして有名なマツコ・デラックスも「プロっぽすぎた」と述べているほどだ。そんな時期にリリースされた曲ということを踏まえて、以下の文を読んでほしい。そして是非mvと照らし合わせてみてほしい。

まず、この曲の曲名を解釈していこう。
リゾナント(resonant)とは英語で「反響する」という意味であり、ブルー(blue)はここでは「悲痛」としてとらえられる。要するに「リゾナントブルー」とは「反響する悲痛」をテーマにした曲なのだ。歌割のほとんどは、歌唱力に定評のある高橋と田中の二人だけで構成されており、ほかのメンバーは「baby」や「wow,wow」など一単語を発するパートばかりである。このような歌割が極端に分けられている曲はモーニング娘。の中でも珍しい。メインボーカルの2人以外のメンバーは、初見だとバックダンサーかと思われてしまいそうな程ダンススキルが高い反面、カメラ映りが少ない。
しかし、メインボーカルの2人だけをフィーチャーしているのは、あるメッセージ性を秘めているからだと思う。このことは、ほかの要素からも示唆される。

例えば衣装では、メインを飾る高橋・田中、そして当時「月島きらり」として子供たちから人気のあった久住だけが白と黒の服を着ており、ほかの6人は黒服を着ていることから、主にこの3人をフィーチャーしていることがわかる。髪型では中央にいる4人(高橋、田中、新垣、亀井)が金髪であり、久住は宝塚の男役のような髪型であることからも、この5人に何らかの設定が存在することが伺える(ほかの4人は黒髪)。
「髪型くらい個人の自由だろ!」と思う人もいると思うが、モーニング娘。の所属するハロープロジェクトは、昔から演者のメイクや髪型は事務所が決めることで有名であり、わかりやすい例でいえば、「スマイレージ」というグループが「ショートカット」という曲で全員強制的にショートカットにさせられたこともあるほどだ。

話を戻すと、この曲の設定は歌詞や感情表現からも読み解ける。歌詞のaメロからは「軽い子によく見られる、顔のせいもなれたけど」という歌詞から、軽い子に見られて傷ついているが強がっていること、「冷めたことじゃないことだけ、アピールするのもばからしい」というところからは本当は冷めた子と思われたくないが、強がってしまう自分を肯定し、内心アピールできる子をうらやましく思っていることが伺える。すなわち、いつも化けの皮をかぶりながら生きている自分の情けなさに対する主人公の叫びととらえることができる。そしてこの曲は終始一貫してメインボーカルの二人(高橋。田中)が険しげな表情をしており、対照的にこの二人以外の金髪二人(新垣・亀井)とアニメ声優として活躍していた久住が笑っていることや、ほかにもbメロの「だけど、ねえねえだけど」のパートを歌う新垣と亀井はメインの2人と同様金髪であること、終始笑みを浮かべていることから、心の中の自分を表していることがわかる。この後に続く歌詞は、メインの2人の「うぉーえいや、うぉーえいや」という部分であることから、bメロは「だけど、本当はね」=〈本心のささやき〉、「うぉーえいや」=〈言葉にならない悲痛を叫んでいる〉という解釈をすると、設定が顕著に見えてくる。そして、久住の笑みは、アイドルではなくほかの職業で活躍している久住と、リーダーの高橋、エースの田中の主人公二人とを対比する笑みであり、スター的な存在を表すものだと思う(この解釈は前文で示した衣装や髪型からも読み取れる)。さらにサビの「その壁を突き破って」という歌詞からは、化けの皮をかぶる自分の殻を誰か突き破ってほしいという助けを求める主人公を表す歌詞だと思う。このように、歌詞からは主に主人公の苦痛が読み取れる。

この曲のダンスは、シンメトリー(左右対称)の構図が多く取り入れられており、「鏡」すなわち、「実像」である本当の自分と、「虚像」すなわち偽りの自分(猫をかぶっている自分)を表現するために採用されているのだと思われる。ほかにも、1,2番のサビ前のbメロの「一人の夜を数えている」、「もうすぐ朝ね、独りの朝」という歌詞の部分の仮面を外す振りでは、一人になったときに偽りの自分から解放されるという意味が込められているのではないか。そして2番のサビ前の「千手観音ダンス」やexileの「choo choo train」のようなダンスからは、人前で複数の自分を演じていることを表現していることがわかる。

この曲ではあまり目立たない黒髪の4人の「Ah」や「uhh……」のパートは、一見すると意味のない言葉を歌っているようにかのように思われるが、この語は主人公を取り巻く世間の声や、周囲からのガヤを表しているのだと思う。このような主人公と世間という関係性の描写は歌詞からも読み取れる。サビの歌詞部分は金髪の4人(高橋・田中・新垣・亀井)、すなわち主人公を演じている側が歌っており、[woo…」のfake部分は黒髪の5人(道重・久住・光井・ジュンジュン・リンリン)が歌っていることや、サビの歌詞の「真ん中で鳴り響く」という部分からは、主人公の嘆きが木霊し、「wow…」(木霊)すなわち、主人公の味方である人が悲しむといったこの世の構図を表している。(これはつい最近に起こった、三浦春馬氏の自殺におけるネット上での反応がわかりやすい一例であるといえるだろう。)

すなわち、この曲は周囲を取り巻く環境に対する主人公の嘆きや、主人公に共感することから生じる悲しみの連鎖を表しているのだと思う。この意味を歌詞上では、浮気する彼に対する嘆き、つまり「愛」を象徴として表現している。このように「愛」を象徴にしてある特定のメッセージを伝える歌詞構成は「only you」、「愛の軍団」などほかの曲にも使われている。

ここまでmvから解釈を進めてきたが、実はこの作品にはもう一つのmvがあり、こちらからも新たな解釈ができる。

もう一つのmvは、メンバーの日常のような風景が淡々と映し出されているもので、初めて見たときは何が何だかわからなかったが、mvを見て、解釈を深めた後だとあるメッセージが見えてくる。

このmvは舞台が夜であり、みんな大きな荷物を抱えていることから、レッスン帰りととらえることができる。高橋はトレーニング風景が映されており、これはリーダーとしての責任感からくる焦りを表現するものだと思われる。久住は取材を受けており、当時アニメ声優として活躍していた久住の人気の高さがうかがえる描写となっている。田中は、夜道を悩みを抱えているかのように一点を見つめながら一人で歩いている姿が映されており、これは当時、メンバーに心を打ち明けることができなかった田中のエースとしての苦悩を表現したものであると思われる。亀井と道重は遊園地で会話をしながらパフェを食べている。楽し気な映像だが、これは、加入当初から仲の良かった二人の関係性を示すものだと思う。ジュンジュン、リンリンは食事処で楽しそうに食事をしているが、これは中国から来た二人の友情を表しているものだろう。光井は静寂に包まれた駅のプラットフォームで、制服を着て一人で電車を待っている風景が映し出されているが、これは制服を着ていることから、当時中学生だった光井の友達付き合いでの苦悩を表すものだと思う。
このようにメンバーの様子が淡々と映し出された後に、ラスサビでは全員が何か言いたげな表情でカメラを見つめている。人気が落ちていた当時のメンバーにはいろんな苦悩があったと思うが、芸能人という立場上それを吐き出すことはできなかった。そんなメンバーに対するつんく♂からの、メンバーの苦悩への理解と激励の意を送るための歌ではないだろうか。
さらにこのmvのラストの部分で、取材を終えた久住に田中が少し微笑んでいることからは、「悲しみの連鎖が起こりうる世の中で強く生きろ」というメッセージも感じられる。

このような、つんく♂の音楽を使った表現の豊富さには驚かされる。そして負の連鎖が起こる可能性のある現代のネット社会を描いているかのようなこの曲が、2008年にリリースされていることにも驚かされた。
今回は、作曲・作詞家つんく♂に注目したため、ダンス力、歌唱力などスキル面についてはあまり触れていない。これは冒頭でも述べた通り、モーニング娘。及びハロープロジェクトのグループは、スキル面ではいうまでもなくアイドル業界ではトップクラスであるものの、練習期間が短いmvよりもライブのほうが完成度も高かったり、ライブでアレンジを加えるメンバーもいたりするので、mvをもとに評価するのは適格でないと判断したためである。

(高校2年生)

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