コンテイジョンから学ぶ感染症(『コンテイジョン』レビュー)

2020年、華やかなオリンピックイヤーを迎えるはずだった日本は、現在世界各国とともに重大な危機に直面している。1月初頭は新聞の隅で紹介される程度だった新型コロナウイルスは瞬く間に猛威を振るい、一部の人々は今までに経験したことのない感染症への恐怖からパニックを起こし、「マスク警察」や「他県狩り」といった社会問題を次々と起こしている。
そのような状況の中、9年前に上映された映画が大きな話題を呼んでいる。現在の状況を鏡に写したような新型ウイルス感染症の蔓延を描いた映画「コンテイジョン」だ。

contagionは「伝染」という意味であり、文字通りパンデミックが世界中に広がる様を科学的視点も交えながらさまざまな立場の人の目線から描いている。
映画は真っ暗闇の中、人々が咳き込む声やくしゃみの音から始まる。今の人々も咳やくしゃみに普段以上に敏感になっているため、このシーンは見るものに強烈なインパクトを植え付けるはずだ。それだけではない。暗闇の画面に色がさしたと思えば、人々の口や手にフォーカスし、追いかけている。ウイルスの感染経路を正確に映し出し、人々に底知れぬ恐怖と危機感を植え付ける手法は圧巻だ。
感染は香港を起点としてヨーロッパ圏や北米、日本にも瞬く間に拡大し、人々は未知の病に倒れていく。作中で描かれる新型ウイルスは致死率が20%代と恐ろしく高く、そこがCOVID-19との唯一ともいえる違いである。
その後も感染拡大の場面は続き、バスの中でサラリーマンが泡を吹いて急死したり、妻の突然の病死に理解が追いつかず、「妻に会えますか? さっきまで家にいたんです」と困惑した様子で医師に伝える男性など、生々しいシーンが連続する。その後、CDC(米国疾病予防管理センター)やWHOといった医療の専門家も対策に乗り出すが、研究が進む中職員も病に倒れていく。さらにはあるブロガーが「政府は対策を隠しているが、レンギョウが効く」と根拠も無く発信。そこから事態は暴動へと発展し、レンギョウや生活用品を求める人々によって市街地は徐々に破壊されていく……。

この映画の面白いところは、最初から最後までコロナウイルス感染症を予言しきっていることだ。いつ目の前で起こってもおかしくない近親者の急死、そこから自分に迫る死の恐怖、機能しない行政、インフルエンサーの闇、そして感染症が収束しても二度と元に戻らない社会。これらのことが実際に今後起きていくのではないかと考えると、妙にリアルで背筋が凍ってしまうようだ。

現在、日本ではツイッターというSNSが多くの人々の間で利用されている。フォローしている人の投稿や話題の投稿が流れてくる、いわば世間の窓であるタイムラインには、日夜多くの情報が渦巻いている。そこには正しい投稿も、「バズり」を狙った虚偽の投稿も存在している。
普段からこのようなSNSでは嘘を信じ込んで行動する人々が一定数存在しているが、COVID-19以降はそのような人々がより一層増えているように思える。人々の感情を逆撫でして煽る投稿や、デマツイートは冷静に読めば心の中で自然と流すことが出来るが、情報に弱く未知の感染症に怯えている人は、一見大きく見える情報に飛びついてしまうのかもしれない。自分にもそんなことがあったなと思うあなたは、休日の午後にでも「コンテイジョン」を見てみてほしい。コンテイジョンは9年の時を超えて、感染症の社会構造を私たちに届けてくれている。

(高校2年生)

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