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学級通信オンライン出張版

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世田谷学園の教員が生徒に向けて書いたエッセイ集。
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記事一覧

"from Vision to Reality" "from Respect for Each to Respect for All"

明日をみつめて 今をひたすらに 違いを認め合って 思いやりの心を この言葉は本学園がモットーとして掲げる言葉です。今、まさにこの教えを実践することが世界に対して求められているのではないでしょうか。  ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関連し、SNS上ではセンセーショナルな言葉や映像が溢れ、新聞やテレビから伝えられる情報に心を痛める日々が続いています。両軍の兵士のみならず、民間人にも多くの被害が出ていると伝えられています。また、一部報道では、最大で今後数百万人の難民が発生

新茶と玄関

 5月を迎え、日に日に新緑の鮮やかさが際立つようになってきました。  この時期になると楽しみになってくるのが「新茶」です。お茶の旬ともいえるこの時期の日本茶は栄養価も高く、香りはさわやかで奥深い味わいが特長です。最近はペットボトルの緑茶を飲む機会が多いですが、時には急須で入れたお茶を楽しむのもいいものです。  日本のお茶の歴史は奈良・平安時代、最澄・空海などの留学僧が、唐よりお茶の種子を持ち帰ったことに始まるとされています。平安初期の『日本後紀』には、「嵯峨天皇に大僧都永忠

「理系的発想」と二つの〈想像力〉

 世田谷学園は、「星新一賞」に何かと縁がある。  この「学友ANNEX」にも掲載している「脳内眼鏡」は、2019年に募集された第7回「星新一賞」のジュニア部門最終候補作だ。惜しくも受賞とはならなかったが、冴えたアイディアと卓越した文章力は、ぜひ多くの人に味わってもらいたい。  それ以前にも、第6回はジュニア部門グランプリと優秀賞を、第2回でもジュニア部門優秀賞を学園の生徒が受賞している。(まもなく募集が開始される第9回にも、多くの生徒が挑戦してくれることを期待している。)

Let’s Enjoy Watching Movies and Brush Up Your Listening Ability! (映画を楽しんでリスニング力を鍛えよう!)

 夏休み、冬休み、春休みになると、話題の映画が目白押しですね。  ところでみなさんは洋画を見るとき、実際にどんな英語が話されているかを気にして見ていますか? 字幕を追うのに精一杯でそれどころではないですか?  もちろん、映画の醍醐味はストーリーと映像を楽しむのが一番ですが、それでも役者さんが生の声で本当はどんなことを話しているのかわかったら、楽しさも倍増するものなんですよ。  だから、今度洋画を見るときは、一言でも二言でもいいので、どんなセリフを英語で言っているのか、わかるも

形あるもの、形なきもの

 そろそろクリスマス。中学生だと、まだクリスマスプレゼントをもらえるのだろうか? PS5、モンハン、walkman……欲しいものはいろいろあるだろう。でも、そのプレゼントは誰からもらうのだろうか。サンタクロースと答える人は、これを読んでいる人の中にいるのだろうか。  昨日の投稿でも触れられていたが、サンタクロースにまつわる有名な実話がある。アメリカのヴァージニアという8歳の女の子の話だ。  彼女はクリスマスプレゼントはサンタクロースが持ってきてくれるものだと固く信じていたの

クリスマスにまつわるいくつかのこと。

 冬休みは、クリスマスやお正月という、子供にとっては心が浮き立つようなイヴェントが並んでいるので、小学校中学年から中学1年くらいの時期はけっこう楽しみにしていた。夏休みに比べると短いけれど、宿題が少ないところも悪くない。  ところで、サンタクロースが存在するか? という疑問は、誰でも一度は通り過ぎる問題のひとつだろう。僕も幼いころ、「サンタクロースは、なんで自分の欲しいものがわかるのだろうか?」などど、それなりに頭を悩ませたりもしたものだ。けれど、あまり明確に「これが欲しい

Snow Drop

 「雪が降るかもしれない」と天気予報で聞くとワクワクしてしまう。  雪が降っている景色を見ると嬉しくなってしまう。  ほとんど雪が降らない土地で育った私には、雪は新鮮なもので、かつ、非日常的なものである。社会人になった今では、雪が降ると駅に向かうまでに靴やスーツが濡れてしまう、通勤電車に支障が出る、自宅前の道路の雪かきをしなければならない、など煩わしさがつい先に口をついてしまうこともあるが、それでもやはり雪が降ると気分がいい。雪景色はいつまでも飽きることなく見続けることがで

おい主人公

 今、この原稿は福井駅へ向かう特急列車の車内で書いている。新幹線ではなく、在来線の特急なので文字通り揺られながらパソコンを開いている。  何故、このコロナ禍において福井へ向かっているのかといえば、永平寺で行われる首座法戦式に随喜するためである。 (世田谷学園の中学3年生以上の生徒であれば、DVD「法戦」を観たことがあるだろう。)  首座とは、修行僧の第一座として修行生活をリードしていく人物であり、首座が住職に代わって仏道の肝心な部分を修行僧に説法する儀式が、首座法戦式である

オスだらけの現状を憂うホモ・サピエンスたちへ

 男子校である世田谷学園に入学した諸君は、学園での生活が始まって半年が過ぎ、男ばかりの新たな環境にもすっかり慣れたことと思う。まさか本学園に「男女の出会い」的なものを求めて入学した生徒はいないだろうが、しかし改めて「男子しかいねえ」という現実をまざまざと見せつけられると、諦めの境地にも達する思いであろう。  あの『ファインディング・ニモ』でおなじみのカクレクマノミという魚は、オスがメスに性転換することで有名である。集団の中にオスしかいない状況になると、最も体の大きいオスが、や

「六十・七十は鼻たれ小僧。男ざかりは百から百から。」

 私が好きな芸術家に、平櫛 田中(ひらくし でんちゅう)(1872 ~ 1979年 享年107歳)という彫刻家がいる。高村光雲、荻原碌山、朝倉文夫などと並んで、日本近代を代表する彫刻家の一人であり、写実的な表現が特徴である。  彼には様々なエピソードがあり、中でも長寿だった彼が「満百歳の誕生日を前に30年分の材料を買い込んだ」のは有名である。そのとき彼は「六十・七十は鼻たれ小僧。男ざかりは百から百から。わしもこれからこれから」と言ったのだそうだ。  そんな彼も23年分の木材

Seeing is believing.(百聞は一見に如かず。)

 2019年3月7日(アメリカ時間:日本時間では8日)に、伝説の覆面プロレスラー、ザ・デストロイヤーが亡くなった。  バラエティ番組にしばしば出演していた彼は、お茶の間の人気者でもあった。しかし日刊スポーツのネット記事によると、そんな日本で人気の高いデストロイヤーさんも、初来日する前は絶対に行きたくないと言っていたそうだ。  日本が真珠湾攻撃をしたことを許せず、日本人が大嫌い。それでも1試合だけという条件で渋々説得されて日本に来てみると、会う人会う人に歓迎され、一気に日本人

消滅危機言語からのⅿessage

 以前、「消滅の危機にある言語について考えるシンポジウム」のニュースを観た。アイヌの血を引く女性とノルウェーの少数民族サーミの女性の交流を通して、アイヌである彼女がこれからどのように行動し、何を世の中に発信していけばよいのかを考えるというテーマであった。ノルウェーは、歴史的に少数言語を抑圧していた時代もあるが、現在では少数言語保護に関しては、最前線を行くほど国をあげて力を入れている。  私はバッグパイプを演奏するのだが、数年前、アイルランドから来日していたThe Chief

縁の下の力持ち

 2016年12月、サッカーのクラブW杯の決勝が行われ、日本の鹿島アントラーズがスペインの強豪レアル・マドリードと試合をし、負けはしたものの世界中を驚かせる結果となった。  筆者は「やっぱりロナウドはすごいな」と思いつつも、ある解説者の「あのレアルの攻撃陣を相手に健闘した鹿島の守備陣を讃えたいですね」という発言に大変共感を覚えた。  サッカー素人の筆者は、どうしてもゴールシーンばかりに目が行くが、その一方でチームを支えている人の存在を忘れてはいけないということだ。  筆者

練習に出ているだけでは勝てるようにはならない

 中学1年の時、剣道部に入部した。竹刀を握ったことさえなかった私は、体操着姿で先輩の言う通り、必死に基本練習(足さばきと素振り)に打ち込んだ。  いつからか先輩の防具姿に憧れるようになり、早く防具をつけたいと思うようになった。更に必死に練習に取り組んだ。夏休みに入る前、防具を身にまとうことができ、とても嬉しかった。  その後も練習は続けていたが、試合では一切勝てない時期が続いた。  練習はしていたのだが……。  ある日、先輩から 「おまえは練習に出ているだけ。そんなんじゃ