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LOCAL PRODUCE BOOK (5) 「強みの見つけ方論」

前回の「誰に」に続いて、今回は【何を】についてお話したいと思います。


ここでは、情報における「強みの見つけ方」≒ 「伝えるべき情報のコアバリューを見つける方法」について紹介します。ターゲティング論で、情報を届ける相手を把握する方法をお伝えしましたが、その定めたターゲットに対して、的確な情報を伝えたいですよね。

野球のボールでキャッチボールをしてるのに、サッカーボールを投げ返したり、バスケットボールを投げ返したりして「それじゃない感」を感じさせないように、同じ野球のボールを、相手がキャッチしやすい胸元にズバッと投げ込みたいところです。場合によってふわっと投げるときも変化球を投げることもありますが、できれば大谷くんのように160kmぐらいで投げ込みたいです。

コピーやデザインなどの表現や具体的なHowは違う章で後述するとして、「何を」の章では、届ける「情報の核」というか、その時求められている最適かつ本質的な部分をどう見つけるかについてお伝えしたいと思います(先ほどの例だと、しっかりした野球のボールを持ってないといけません)。


客観視できない私たち

「誰に」がめちゃくちゃ大事だと書いた通り、「誰に」がしっかりと定まり、その対象が持つニーズを把握できていれば、おのずと伝えるべき情報「何を」は見えてきます。

ただし、それが意外に難しいのです。というのも、自分や自社、自社商品というのは身近すぎて客観視することが難しいものですね。地元民が地元の良いところが分かりづらいのと同様に、対象と距離が近すぎると、または長くそれについて考えすぎていると、「強み」を客観的かつ正確に把握することは非常に難しいです
僕でさえも、遠野9年目となると感覚が遠野人に近づいているため、何気ない遠野の魅力をつい忘れがちになってしまい、新たに移住してきた人や外部の方の新鮮な反応を見て、その都度思い出させてもらっていたりします。

広告代理店のように「代理」の存在が必要なのもそうした部分に由来していて、自社&自社商品について客観的に見れなくなっているメーカーやクライアントに対して、他の商品と比較するとここが強みですよ、消費者はこんなことを求めてるんですよ、世の中は今こういう流れなんですよ、という情報は、それが一般的な情報だとしても、渦中にいる人たちからすると目うろこで有益な情報・視点になることが多かったりします。

ということで、情報を誰かに伝えるための設計をする際も、そうした“対象物を客観的に見れなくなる問題”を踏まえた上で考えていく必要があります。

人は自分のことが一番わからない…
事例①:「to know」というプロジェクトのキャッチコピーを考える際も、プランナーの友人に入ってもらって客観的な視点を持ちながら言葉や打ち出し方を整理していった。客観視できず、すごく苦しんだ。
事例②:自社・富川屋のタグライン(キャッチコピー)を考える際も、コピーライターの友人に富川屋を客観的に見てもらってコピーを作ってもらった。"客観視のプロ"でないといけないプロデューサーであっても、そうなってしまうもの。


SWOT分析

さて、具体的な話に入りましょう。一般的にマーケティングの世界ではどうするの?ということですが、「SWOT分析」という方法があります。これは教科書的な本にも載っているので知ってる人も多いと思いますし、検索したらすぐ出てくるクラシカルな手法です(確か大学生の頃に初めて習ったような)。

あ、意外に普通な方法でやるんだと思った方もいるかもしれませんが、こうした長年使われてきたフレームは、地域の風習のように歴史を積み重ねてきた分の強度があります。大体みんな似たようなことで悩んできたんだなぁと分かりますし、実際、使いやすいのでバカにできません。

内部環境の強み・弱み、そして外部環境の機会・脅威を整理して、自分たちの強みを整理したり、戦い方を考える土台を作ったりする時に役立ちます。以下のように使います。

使い方①:富川屋の研修プログラムを例にするとこんな感じ。
使い方②:ちなみに整理して終わりではなく、情報のコア、これから展開するロジックの軸を見つけたいので、その際のポイントは、(脅威を意識しながら)「強み」と「機会」をぶつけることである。そうすると、他社・他者との差別化ポイント、伝えるべき情報のコアが見えてくる。あ、ここで戦えばいいのかも、と。
使い方③:大学生向けのワークでも使います。
こうした基礎的なフレームワークも、頼りになる武器。


「比較」して、らしさを見つける

時間があればこうしたフレームワークを使ってしっかりロジックを組み立てるのが良いですが、ローカルプロデュースでは、もうちょっと簡単な考え方で良いと思います。

コツは「比較」することです。


例えば、遠野のPRをする際、遠野は盛岡のような喫茶・民藝・クラシカルな雰囲気とも違うし、仙台のような都会・伊達藩的な華やかさとも違います。この二箇所と比較するだけでも、遠野らしさが見えてきます。

遠野って、他のまちを比べて何が違うの?


しかし、この時大切なのは、比較対象になる他のまちについても知ってないと比較できないということです。ここが、地元の人々だけで地域のPRをすることが難しい、またはできても「それじゃない感」が生まれる原因でもあります。

地域をPRする部門といえば、役場の観光課か観光協会ですが、そうした組織はだいたい地元出身者が就職する組織ですので、そうなると地域を客観視できないままPRのフロントラインに立たないといけないという、ジレンマがあります。「私の地域って何が強みなの…?」と実際難しさを感じると思います。結果的に、他の地域の真似事やゆるキャラ、萌えキャラ、謎のPRムービーが氾濫します。あなたの地域の良さは、そこではありません。
なので、地域をPRする際は、必ず外部の人間を入れたほうがいいです。主観と客観の視点を交換してはじめて、情報は正しくまっすぐに飛んでいくのです。

そうした「比較」をしながらプランニングをすることは日々すべての仕事でやっていて(もう無意識にやってますね)、例えば、2023年に書いた遠野市の新観光ビジョンも、比較した上での「遠野らしさ」を意識してコピーを書きました。

『遠野物語』をはじめ、「民話の里」という土俵でPRすることが遠野の正攻法な戦い方です。例えそれが地元の人たちからしたら当たり前だとしても、対外的にはその情報の伝え方で良いのです。



他にも、比較して見つけた「強み」「らしさ」を武器にPRしてV字回復した「遠野まちなかドキ・土器縄文館」の事例などがあります。書籍化した際には、細かくどんなプロデュースを行ったのかお伝えしたいと思います。



以上のようにして、伝えるべき情報の強み・コアを作ることができます。

多少、Howの話にも入ってしまいましたが、こうしてまず「誰か」に「何か」を伝えるための土台を作りましょう。情報発信もイベントも商品・サービス企画も、この二つをどれだけ精度高く考えられるかが大事です。


誰かに発注する側の人こそ、「誰に」「何を」のクオリティを高めてほしい

ちなみに、こうしたプランニングの基礎的な方法論は、企画やデザインを誰かに発注する側(必ずしも自分でやる必要のない方々)にこそ、率先して学んで欲しい内容だと考えています。

というのも、誰か外部の会社やパートナーに企画してもらったり、デザインを作ってもらうにしても、提案してもらった内容に対して正しい方向性へと修正、調整する指示しなくてはいけないので、そうしたジャッジする人こそ、この「誰に」「何を」をしっかりと精度高く掴んでいてほしいのです。

例えば、いま大学で教えている学生たちはデザインやマーケティングを専攻している学科ではなく、地域創生を学んでいる生徒たちです。彼らは自分でデザインやクリエイティブな企画を考え、それを生業にしていく人たちではないのかもしれないですが、一方で、いずれ県庁や市役所、役場に就職して、億単位の予算を握り、数万人の人々を牽引する"プロジェクト"をマネージメントする仕事に就く人です。

そんな彼らだからこそ、民間の立場から伝えておきたいことがあります。最終的にジャッジするのは予算を握る人であり、デザインを決めるのも、提案された新商品にGOを出すのも、方向性や具体策を指示するコンペの仕様書をつくるのも君たちだからね、と話しています。

デザインはできずとも、デザインをディレクションして、決定できる目は持ってないといけません。特定地域内での行政職の影響力は大きいものです。将来、精度の高いプランニングとプロデュースができる公務員になってくれると嬉しいです。


以上、「何を」でした!

つぎは具体的な手法・Howの部分「どのように?」を書きたいと思います。「どのように?」部分こそプロデューサーの腕の見せ所というか、実際のデザインや企画の部分なので、様々なスキルを伝えていきたいと思います。

それではここまでお読みいただきありがとうございました!

次回は「どのように?」

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