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LOCAL PRODUCE BOOK (14) 「事業化論_【その③】マネタイズ編」

さぁ、いよいよラストです。事業化パートの最後「マネタイズ」について書いてみたいと思います。

前回・前々回とプロジェクトや事業をプランニングする方法について書いてきましたが、その事業でどうやって利益を上げるのか、または稼ぐためにどのようなことを考えておけばいいかお伝えしたいと思います。

やってみたい事業の大枠を作れたとしても、そこから実際に事業計画を作ったり、お金を稼ぐための事業プランニングをするとなると難易度はグッと上がります。広告畑で育った自分も最初はその壁に思いっきりぶち当たりました。広告のプロだとしても、事業をつくるプロではありません。事業計画を作ったこともなければ、自社の商品やサービスに値付けをしたこともありませんでした。

ここから先は異界で、違う世界に飛び込むと考えた方がいいかもしれません。異界のフィールドワーク。それぐらい「マネタイズ」(という言葉も聞き慣れないと思いますが)の世界は頭の使い方を変えて、その世界に順応しなければなりません。



まず、前回のおさらいをしましょう。プロジェクトのプランニングをして、そこから実際にマネタイズのプランニングをします。売上をどう上げるか、収益をどう確保するのか。


そもそも短期的なプロジェクトと、中長期的な事業では、短距離走とマラソンぐらいに違います。使う筋肉も言語も違う。僕は広告畑で育ったせいか、打ち上げ花火のような、短い期間で大きなインパクトを残すタイプの仕事の方が得意です。一方で、長く組織が継続するように客観的に物事を判断し、冷静にコツコツ進めていくような経営者タイプではないと自覚しています。それが故に、実際に起業した時は、本当に長く続けられるのだろうか?誰か代わってくれないかな…?と不安でしかありませんでした(その不安は今もなくなりません)。

喜びも、悲しみも、大変さも、悔しさもすべて自分(たち)で体験する経営の世界。会社員時代は給料上がらないかな〜とか呑気なことを言っていた気がしますが、人件費を確保することがいかに大変か、人を雇うことがどんなに凄いことか、事業を始めてみるとよく理解できます。不安と隣り合わせですが、生きてる実感は強く持てる、そんなサバイブな日々です。


どのぐらい稼ぐプロジェクト・事業にしたいのか?

さて、前置きはこのくらいにして中身に入っていきましょう(なんだか、前置きがいつも長くなります)。

マネタイズはすごくシンプルな話で、まず、どのぐらい稼ぐプロジェクト/事業/生業にしたいのか?という議論から始まります。

年間いくら稼ぐ?または、複数のプロジェクトや仕事の合計でいくら稼いでいれば、生活できる?というところを試算してみましょう。


例えば、月に3万円を副業的に稼げれば良いということであれば、それに沿った計画になりますし、月に最低でも20万円は手元に残る金額として確保したいというのであれば、それに見合った事業計画にしておかなければなりません。まず、あなた自身、いくら必要でしょう?(組織内にいらっしゃる場合は、目標の売上金額はいくらに設定されていますか?)


なお、ここで注意する点としては、仮に年間300万円は自分の手元に残したい場合でも、事業には仕入れや外注費などの原価が発生しますので(自分の人件費も経費)、その1.5倍なのか2倍なのかの売上が必要になってきます(原価率によって変動します)。

仮に原価率が50%の商売だとすると、600万円の売上があって初めて手元に300万円が残る計算となりますね。こうした基本的なロジックも、いざ事業という世界に入り、事業計画を作ってみるまではなかなか気づかないことです。


かつて「会社員であれば、自分がもらっている給料の3倍の売上を稼ぐことを目標にしなさい」と教わったことがありました。

これも上記のロジックの通りで、社員に人件費を支払う場合、会社を維持する諸々の経費を引いた上で初めて払うことができるわけですので、もらっている給料の何倍(ここでは仮に3倍)かを稼いではじめて会社に貢献できているといえるでしょう。これは会社を経営する立場になると、とてもよく理解できます。


単価 × 数量 = 売上

さて、年間に稼ぐべき目標金額が見えてきたら、具体的な事業計画を作ってみましょう。

「事業計画」といっても様々なフォーマットや作り方があると思うので、それは別の専門書を読んでもらうとして、ここでは基本をお伝えします(というか基本しか僕は伝えられません)。

超当たり前の話ですが、売上は【単価 × 数量】で決まりますね。単価の低いものをたくさん売るか、または単価の高いものをコンスタントに売るか、またはそのどちらか。自分のイメージする商品やサービスを値付けして、年間どのぐらい購入されるか、利用されるか試算してみましょう。


以下は、年間300万円を確保するために年間600万円の売上をめざす事業計画の骨子(簡易版)です。

600万円の売上を仮にA〜Cのサービス(仕事 or 事業 or 商品 or サービス)で達成しようとすると、単価はいくらに設定しなければいけないのか、また数量はどのぐらい確保しないといけないのか。そうした目安の数字が立ち上がってきます。「事業計画書」のような立派なものを作る必要はなく、まずはこのぐらいでもスタートできます。
ちなみに、最初の頃は、数字を弾くと「あれ、以外に頑張って売上作らないと無理じゃね?」となるかもしれませんが、そうした気付きを得ること、思考を巡らせること、本気になるところから全て始まります。やるしかないっす。


頭では分かるけど…。「値付け」が特に難しい。

なお、上記のようなステップは頭では理解できると思いますが、いざ自分で商品を作ってみたり、サービスを開始してみたりする時の「値付け」は非常に難しいものです。

一体いくらだったら買ってくれるのだろう、サービスを利用してくれるだろう。安くしすぎて損したくないし、かといって高すぎると売れないし…。経験的に、高くしすぎたことによって全然商品が動かず、何度か値下げをして金額が落ち着いた例も少なくありません。自社で運営しているオンラインストア「TONOMADE」で販売している商品も、様子を見つつ何度か値下げを行って今の金額に落ち着いているものもあります(コロナ時に立ち上げたので尚更相場が分かりませんでした…)。値付けって難しいです。

※値下げせずに、高くても売れる販路を探す方法ももちろんあります!すべて値下げすればいいという話ではないのでご注意を。



ただ、これも最初から100点を出すことは非常に難しいので、可能ならば最初は試験的に販売したり、テストマーケティングを行ってみたりして、様子を見るのがいいでしょう。売れてくると欲も出て判断を間違ったりもしますし、当事者になると不安が湧いてくるので判断も簡単に間違います‥(これはマジです)。それらも含めて「商い」の奥深さなのでしょう。学び。


ローカルで事業を始めることが難しい理由とは?

ちなみに、ゼロからローカルで事業を始めることが難しい理由について、上記の事業計画にならって考えてみますと、ローカルでは、一般的に①都会に比べて単価が高いと売れにくい、②数量をたくさん出せるほど生産能力がない、販路が広がってないことが挙げられます。

つまり、高いものをコンスタントに売ることも難しいし、かといって、単価の安いものを数多くさばけるほど販路がなかったり、また人口規模が少ないという、どっちに進んでも大変じゃん!ということなのです。

とはいえ、実際に多くの方々が、このnoteに書いてあることを知らずとも、地域で事業をしているし、お金を稼いで暮らしていますよね。やりようはきっとある。というか、あるんです。ただし、近道はなく、とにかく時間がかかるということだと思います。

地道な活動がじわじわと認識され、品質を信頼され、安くはないある程度の金額でも買ってもらうためには時間はかかります。また、販路を開拓し、商品が幅広い人に行き渡るようにネットワークができるまでも時間がかかります。事業化論その①でも書きましたが、事業が軌道に乗るまで4〜5年はかかると書いたのはそうした理由からです。

なお、全員が全員当てはまる方向性ではないですが、地域独自のオリジナリティ(歴史や風土)を追求し、デザインなども含めてとことんブランディングして、地域内の商圏にとどまらず、東京など都心部で販売することを考えたり、さらに広い海外のマーケットを狙ったりする戦い方もあります。

実際、数年前から始まったインバウンドの文脈以降では、日本各地で海外マーケットを狙った戦い方をする企業や組織が多く存在しています。実際、僕も遠野ではそうしたところも視野に入れています

遠野では、数年前から郷土芸能「しし踊り」をブランディングした取り組みを行っていて、実際、Japan Timesなど多くの海外メディアや国内外のアーティストが注目してくれています。今年も海外からアーティストの受け入れを行う予定です。

2021年から毎年開催しているライブイベント「遠野巡灯籠木 / トオノメグリトロゲ」のワンシーン
Photo by Ryo Mitamura


地域のオリジナリティを追求すればするほどグローバルでも戦える強度が出る、という話については、3年前にnoteに書いたところかなり反響がありました。今でも読み続けられていますし、ある大学では毎年このnoteをもとに授業をしてくださっている先生もいます。


こうした戦い方ができると、先ほど挙げたローカルの難しさも以下のように突破できるのではないでしょうか。

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① 都会に比べて単価が高いと売れにくい

単価が高くても、オリジナリティがあり価値あるものであれば、売れる。むしろそれが辺境であればあるほど価値が高まる。

② 数量をたくさん出せるほど生産能力がない、販路が広がってない 

国内から海外へ、対象マーケットが広がる。
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※あくまで仮説なので、実証するまでチャレンジを続けたいと思います



さて最後は少し脱線したものの、こうした流れで考えていくと、起業や事業化が見えてきます。ただし、頭でっかちになってもいけないので、スモールスタートでまずは始めてみるのがいいでしょう。失敗しなければ分からないことも多いですし、進んでいるかぎりそれは失敗でもなんでもなく、通過儀礼のようなものだとも思います。成功者の成功だけを切り取って流れてくるSNSの記事は無視しましょう。みんなきっと水面下でバタバタしています。

スモールスタートしてテストを重ね、営業/宣伝していこう。積み重ねていこう。


なお、事業の初期燃料として資金を確保する方法には以下のようなものがあります。いずれも簡単な方法はなく、それぞれ調べてチャレンジしてみるといいと思います。


以上でマネタイズ編、そして事業化論を終えます!

どれぐらい体系化して語れたか分かりませんが、ローカルで何かを始める方々の参考になれば嬉しいです。また、地域おこし協力隊として地域に飛び込んでいる方々は3年はマジであっという間なので、起業や自立を考えている方は早め早めに行動して、もちろん失敗も繰り返しながら、なんとか自立してもらえるといいなと思います。

※隣の芝は青く見えます。みんな悩みながら活動しています


『LOCAL PRODUCE BOOK』 note版 おわり

ということで、、『LOCAL PRODUCE BOOK』も全14回書いてきましたが、以上で終わります。

このnoteを元に書籍化する際は、加筆・修正したり、事例を加えたりしながら整えていく形になるかと思いますので、完成を楽しみにお待ちいただけますと嬉しいです。2024年中には書籍化できるといいなぁ…。

なお、15年の経験・知識を思い切ってフルオープンで無料公開してみましたので、ぜひこの本が出た際は購入&宣伝いただけますと、とっても嬉しいです(笑)。

すでに地域に関わる企業の方々、地域おこし協力隊の方、協力隊を支援している方、中学・高校の先生方、JICAなど海外のローカルに入っていく方々(またそれを支援する方々)から教科書にしたい!という声もいただいています。ありがとうございます。

なんとなく大学生〜20代に向けて書いてきたつもりですが、あんまり年齢も関係ない本のような気もしていますので、幅広い人に学びのある本になるといいなぁと思います。

それでは、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。多くの方々がローカルプロデューサー的スキルを活かして、地域で楽しく活動や仕事ができますように。それではまた!

お問い合わせやご感想はこちらまで:
info@tomikawaya.com


株式会社富川屋
富川岳

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