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人生劇場 ゲスト:富田直樹さん

「人生劇場」
隠岐國学習センターで開催したオンライン企画。
どんな人にもそれぞれの人生があり、
大人が大人になるには様々なドラマがあります。
そのドラマに迫りつつ、ざっくばらんにお悩みを相談できる時間です。

今回は5月4日にゲストとしてお呼びした、富田直樹さんの人生劇場の様子を紹介します!

富田さんは、自分の子供を通わせたい学校が見つからず、学校を立ち上げようとした人です。しかしコロナの影響を受け、開校間近で断念されています。
ちなみに、めちゃくちゃ優しくていい声をされています。お聞かせできないのが悔しい……!

では、人生劇場の幕開けです!

「無ければ作ればいいんじゃないか、って」

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学校をはじめようと思ったきっかけの娘さんと富田さん


富田直樹といいます。37歳です。娘が二人いて、上の子が4歳で、下の子は8ヶ月です。
僕自身は母親がスペイン人で、父親が日本人。日本で生まれたんですけど、5歳でスペインに行って、そこから20歳まで向こうで育ちました。その間、小・中学校は向こうの日本人学校に行っていて。高校から現地の学校に入って、大学も入学して、その途中で1年間休んで、日本に住んでみたいなと思ったので、日本に来ました。最初1年だけの予定だったんですけど、今年で17年目になったって感じです。
普段は、企業のマーケティングとかコミュニケーションの戦略を作ったり、それを映像でアウトプットしたりする会社をやっています。立ち上げてちょうど5期目くらいです。僕は自分で映像も撮るし編集もするし、撮影監督とかもやっています。

上の子が生まれたのと同じタイミングで子供が生まれたメンバーが会社にいて。子供が生まれると学校、教育のことを改めて考えるようになって、だんだん子育ての話になっていくんですよね。そんな中で、「入れたい学校がないよね」っていう話になったんです。そこで、無ければ作ればいいんじゃないかっていうことで始まったのが、GIFTプロジェクトです。立ち上げて今3年半くらいで、この4月にやっとオープンをするところまで来たんですけど、こんなことになって。断念というか、中断をしました。

どんな学校だったらいいか、何が嫌だったかっていうところなんですけど、今の学校って基本的には、「言われたことを言われたとおりにやることで評価される」っていうのがベースにあると思うんです。僕はそれが凄く面白くないし、そうやって育ってくる子供たちっていうのはあんまり面白味がないんじゃないかなって感じていたわけです。
それで、そうじゃない形の学校を作れないかなってことを考えていて。イベントに顔を出したり、本を読んだり、学校を見たりしたんですね。アメリカのNY州にあるシラキュースっていう街に、ニュースクールっていう学校があるんです。『アメリカの教室に入ってみた』っていう本に、そのニュースクールのことが出てて。「あ、これだな」っていうのを凄く感じたんですよね。その本を書いた先生に相談して、その学校を見てきました。それがね、凄く良かったんですよ。

ニュースクールは4歳から13、4歳のための学校なんですけど、基本的に個別の学習なんですね。40%くらい個別の学習で、20%くらいペアワークなんです。同じ年齢で固まるときもあれば、年齢の離れた子に教えたりってこともあります。残りの40%くらいが集団の学びっていうもので、同じくらいの2、3学年くらいが固まって、サイエンスとか数学とか色んなクラスをやってるんです。
なんかそのバランスがいいなっていうのを感じて、うちの学校でもそういうことをやろうかなって思ってました。

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実際のニュースクールの様子

「子供たちにVoiceがあった」


─────自分のやりたいことを本当にやらせたいんだったら個人ワーク100%でも良いのかなと思ったりしてて。なんでそのバランスがいいんですか?

いい質問ですね。まさに同じような質問をニュースクールのファウンダーに聞いたんです。
ニュースクールを作った当時、当然普通の公立の学校もあったんですけど、ほぼ100%何をしていてもいいという学校がもうあったんですね。子供たちは、いつそこに行ってもいいし、1日中ゲームやクッキングをしててもいい。
でも、彼女が保護者として自分の子供を入れるのに一番心地いいバランスだと思ったのが、ニュースクールの前身だった学校なんです。そこでは何をやってもいいってわけではないけれども、子供たちに選ぶ権利があった。「子供たちにvoiceがあった」って彼女は言ってたんですけど。そのバランスが、保護者としてはすごく心地良かったって言ってたんです。

僕も保護者として見たときに、完全に自由にするのってやっぱり不安はあるんですよね。プラス、これから生きていく時に、身に着けてもらいたい力とかもあるんですよ。僕らはそれを『センス』って呼んでました。そういったものを子供たちに育んであげたいなっていうのはありました。なので、ある程度決めて、ある程度フリーっていうバランス。
心地よさってひとりひとり違うじゃないですか。それを一人一人が選べて、voice、つまり自分の意見を伝えられる、っていうのは大事だと思うんですよね。

あと、例えば8割自由にしたときに、その8割で一体何をするかっていうのも重要だと思うんです。そこをある程度広い視点を持った人がちゃんと見ていてくれる。ただ教えてくれるんじゃなくて、そういった人が見守っててくれるっていうことが、僕は学校の要件なんじゃないかと思います。

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フリータイムの時間、1人がヨガブロックで遊び始めたら、次々に子どもたちが部屋中の物を集めてきて、「アスレチック」が始まった時。遊んでは修正して、の繰り返しで瞬く間に楽しそうな空間になってました。
次のフリータイムの時に同じ物を再現しようとしている様子はそんなにエネルギーを感じなかったのが印象的でした。(富田さん)

─────学校って比較的voiceが出しづらくて、出せたとしても反映され辛い、っていうのが特徴ですよね。なぜなら全体が優先されるから、っていう。

そうですね。ただそういうのは同調性っていう気がします。協調性というより。
僕らもよく保護者の方から、「ギフトスクール素敵なんですけど、うちの子供が浮いちゃうのが怖いんですよね」って、協調性がなくなるのが怖いって言われるんですよ。でも、いやいや、違いますよと。
そもそも協調性って、意見が異なる人同士でどう折り合いをつけていくかっていう力だと思うんですよね。そういうのが無く、「和を乱すな、みんな一緒にしろ」って圧力でそうなっちゃうのは、同調圧力のほうなので、逆に協調性は育たないと思うんですよね。

─────ちょっとした疑問なんですけど、富田さんが学校で出会った先生たちも、富田さん自身にとってわくわくするような人だったのかなぁと。

1人、GIFTでイメージしているような「先生像」に近い方はいて、中学校のときの理科の先生なんですけど、東京の離島にずっといらした方で、授業中音楽を聞いて良かったりしました。当時僕らはビートルズにハマっていたんですよね。その音楽をかけて、大体授業の一番始めの10分、15分とか、うまくいった日はそのまま3、40分ぐらい、そういった音楽の話をして。そこから化学っぽい話になったりとか。
「はい、数学教えます」とかそういう感じではなくて、するっと入ってくるような。ちゃんと対等に話をしてくれてたんだろうなって。
僕が小学校4年生の頃に、バルセロナオリンピックがあったんですよ。1992年に。その頃は日本企業も海外に出てる所が結構多くて、うちのクラスも20人くらいいたんですね。それが普通だったんですけど、中3で卒業するころには、そのクラスは3人だけだったんです。だから、小5小6くらいからは、複数の学年で一緒に物事をやったりとかしてたなって思うんですよね。
特に日本のシステムって、学年を凄い気にするじゃないですか。そういうのが小さいころはちょっとあったんですよね。でもそれがちょっとずつ複数の学年になっていくと、先輩後輩とか上の子下の子と一緒に遊ぶようになったりしていって、そこでの関わりが増えていったっていうのが、今思うと大きいなって。

「壊す権利も、力も、チャンスも皆にあるんですよ」


今までの社会って、一定の人には生きにくかったと思いますし、今もそういうところはあると思うんです。で、自分が生きにくい社会なんだったら、自分が生きやすいようにそれを変えていく。そういった力がまさに子供たちに学んでほしい、身に着けて欲しい力なんですね。いわゆる21世紀的な力と呼ばれている、問題発見とか問題解決だったりとか、そういった力も当然必要になります。
まさにこのコロナとかの状況もそうなんですけれども、自分だけ良ければいいっていうのはもう通用しないんですよね。人間社会って。もしくは本当に人の居ないところに行くしかない。それはそれでひとつの選択肢だと思うんですけれども。
やっぱり社会の中で生きていく時には、自分じゃない人達と一緒に生きていかなければいけない。その人達と生きていくときに、今までのルールもあるんだけど、それを壊す権利も、力も、チャンスも皆さんにはあるんですよ。僕も含めて。その一つの形として、僕は学校を作りたかったっていうのがあるんです。

─────たまに、力を見出すとか鍛えるのに逆境が必要な場合があるなって思うんですけど、それはどうするんだろうって思いました。自分の好きなものを見つける時って、色んな人と比較するとか、押し付けられたからこそ違うとわかるとか、そういうこともあると思って。

そうなんです。自由を感じるには不自由を感じないとわからないみたいなことも、確かにあると思っています。ただそれが心身共に安心安全な状況であるかっていうのが凄い大事だなと思うんですね。学校は本当はそういう空間であるべきなんですよ。どんどん失敗はしても良いし、その答えを見出す道が見えなくて苦労するのは大事だと思うんですけど、失敗が怖くて苦労をしちゃいけないと思うんですよね。あとは刺激も必要ですよね。色んな人に小さいころから出会っていく、っていうのが大事だと思います。
1日のうちの8時間くらいを、たった数人の大人とだけ一緒に過ごすって、その大人の役割ってものすごい重要じゃないですか。大人ってこういうもんだって思っちゃう、思わなくても刷り込まれて行くと思うんですよね。
自分の娘が、学校という場所でどういう大人と一緒にいて欲しいかなと思ったときに、面白くないよりは、ワクワクするような人と一緒に過ごしてもらいたいなって思います。だからといってそれを各家庭に任せると差が出てくると思うので、学校というシステムの中で、色んな刺激を与えてくれる人と出会っていく、色んな経験をしていく、っていうのが必要だなと思います。

例えば、小さいころから自分で何かを変えた、自分の意見によって何かが変わったっていう経験をしないと、選挙に行っても変わんないでしょとか、声を上げないっていうことにつながってしまうんですよね。
僕が現地の高校に行ってた時、政権が変わって、国中で大きなムーブメントになったんです。その時に高校生たちがみんなデモに行ったりとか、ちゃんとプロテストするんですよね。
学校に小中高大って行くと、16年。その16年間を何が大事にされている空間で過ごすか、どういった価値観が共有されているところで過ごすかってことは、凄く染みついてくるし、いわゆる勉強とかよりも影響が大きい気がします。

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GIFTのスプリングスクールの様子

「戦略みたいなのは、昔からちょっと好きなんです」


適度に諦めるってすごい大事なんですよ。ガッツがあればなんとかできるとか、根性論がすごいじゃないですか。でもどうしようもできないことってやっぱりあって。ただ、今の自分と、ここから5年10年それを続けていった先の自分って違うと思うんですよね。一言一言の重みも、できることも違ってくると思うし。
僕らも「学校やりたいです」って言ってるだけだと、「いいね~」「頑張ってね~」って感じだったんですよね。でも実際に場所を借りて、カリキュラム作って、ってやると、ちょっとずつ説得力も出てきますし、「本気なんだね」って周りの人もそういう目で見るようになります。やりたいことのゴールと、時間的な計画、っていうかイメージをちゃんと持って、まずいけそうなところから攻めていくっていうのはすごく大事だなと思います。

─────そのクレバーさってどうやって身に着けたんですか? それこそ仕事していく中とか、自分のポジションを築いていくとか、その過程で学んでることも結構あるんだろうな。

わかんない……(笑) でもそういう戦略みたいなのは、昔からちょっと好きなんですよね。実際にプロジェクトをやっていくと、当然失敗するじゃないですか。やっぱりそれで身についていくと思うんですよね。だからプロジェクト型の学習っていうのは大事だと思うし、子供たちも失敗をどんどんしたほうが良いと思うんですよね。
それこそ、そこに8割を割くっていうのも有意義だと思います。僕らにも高等教育のイメージがなんとなくあって、そこでは企業と一緒にプロジェクトをやって学ぶみたいなことが出来たらいいなと思っているんです。
そういうのやったら凄い面白いと思うんですよね。だって、何かを売ろうって思ったときに、どうやったら高校生にウケるか、っていうのをひたすら考えてる人が沢山いるわけですよ。そこで高校生と一緒に考えることができたら、ものすごい財産というか武器になると思うんですよね。ある意味ずるがしこいけど、そういう視点を高校生大学生のうちから持つっていうのも大事なことかなと思います。実際にやっていくってことでしか、多分そういうことって覚えられないんじゃないかな。

「切り替えるとアイデアがどんどん出てくる」


この場所を閉じようって最終的に決めたとき、3年ぐらい積み重ねてきたものだったし、あぁやっと始まる、ってタイミングだったので、当然落ち込んだというかショックというか、悔しい気持ちだったんです。けど、今は次の形を考えていて。
マイクロスクールっていう小さい学校があるんですけど、次はもっとちっちゃくしてモバイルスクールっていうのをやろうかなって思ってるんですよね。そうやって切り替えるとアイデアがどんどん出てくる。今逆に凄いワクワクしてる感じなんですね。
学びは遊びだ、っていうことよく言うじゃないですか。僕にとって学校作りっていうのは、ほぼ遊びみたいな感じなんですよね。すごい楽しいし、ワクワクするし。そういう気持ちを持てるっていうのが大事だなって思っていて。
うちの娘の場合はあと15年とかしたら、1人で生きていくわけですよね。そのとき、朝起きるたびに「今日も楽しい1日になるかな」っていうワクワクした気持ちで1日を迎えられる、そういう人生を自分で作っていけるっていうのが大事だなと思ってます。

▼富田さんの会社

▼GIFTスクール

▼『アメリカの教室に入ってみた』(著:赤木和重)

▼隠岐國学習センター


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