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出町柳のパン屋について【終末京大生日記45】

 出町柳の「柳月堂」というパン屋が閉店した。私が京都を離れる直前の3月のことだ。

 柳月堂と私の付き合いは長い。2018年、私が大学に入学した初めの月から私は柳月堂の存在を知っていた。京都のパンの相場は大体、菓子パンなら一個200円程度で、さらに上京区、中京区、下京区などのパン屋となれば普通に300円とかはするだろう。

 私の実家の近所のパン屋などは菓子パンひとつ150円程度なので、大違いである。しかし、京都の高級なパン屋たちの中、柳月堂だけは異才を放っていた。なんと、出町柳駅から徒歩10秒という好立地なのにも関わらず、菓子パンひとつ150円の相場を守っているではないか。これは信じられないことである。出町柳駅の中のSIZUYAなどはパンは一つ200円は下らない。これを考慮すると想定される相場は少なくとも200円程度はあるはずなのに150円なのである!

 そんな事実もあり、私は大学生時代、学食が空いていない日曜日の昼は柳月堂のパンと相場は決まっていた。私は大抵、最も価格の安い110円のくるみぱん・レーズンパンと、サンドイッチ、チョコパンなどを組み合わせて飽きないようにチョイスをしていた。そして、鴨川デルタで食べるパンがこれまた格別なのである。

 大学院での研究など、日頃の憂鬱が吹き飛ぶくらいのものである。ただ、注意するべきはデルタ上空の数十羽のトンビである。私はかったばかりのメロンパンを背後から地面にはたき落とされ、あえなくメロンパンを捨てざるを得なかったことがあった。(どうせ襲うなら上手に取れよ・・)

 しかし、これを読んでいるあなたはラッキーである。私はトンビの行動を分析した結果、トンビに襲われずにピクニックを成功させる方法を発見した。それは「木の下で食事をすること」である。トンビというのは人が持っている食べ物を見つけると、急降下でその人の背後からそれを奪う。奪った後は急上昇で退避し、安全圏に行くのである。つまり、トンビの動きは上下が中心であり、頭上を木で塞いで仕舞えば襲ってこられない。

 私はこの方法で、鴨川デルタの商店街側の水汲みポンプのあたりの木の下でパンを食べることを日課としていた。


 話が逸れてしまったので戻そう。このような6年間の色々な思い出が詰まった柳月堂がなくなってしまったのである。私は非常に悲しかった。出町柳といえば、以前駅の中にTUTAYAがあり、私はそこでCDを借りたりしていたのだが、それもコロナ禍でなくなってしまった。こうやって私の好きなものが京都の街から消えていくのが悲しかった。そして、私もこの街からついに離れる時が来たのだという事実も悲しかった。

 次に私が京都へ行くときは京都の住人としてではなく、部外者としてだ。その時には私が好きだったものたちは残っているだろうか。そんな不安を抱えながら私は1人東京の下宿でこの文章を綴っている。


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