蒲田健の収録後記:姜尚中さん
「情」と「理」
姜尚中さんの最新刊「母の教え 10年後の悩む力」
論理的に構築され、理路整然としていてこそ社会の安定は担保される。しかしときに理屈では説明できない心の動きが人を動かすこともある。そしてそれが人を人たらしめているともいえる。
大ぐくりに二分すれば、ドライな「理」とウェットな「情」。時代が進むにつれドライな部分が優位になってくる。社会の構成要素としては「理」が圧倒的な割合を占めている。だがそれを滑らかにつなげ最終形態として人のもの・こと、たらしめるのは「情」である。
稲穂が実れば、化学的な意味でいえば栄養素としての炭水化物は初期条件としてそこに備わっている。鳥が生米をついばめば、それはそのまま豊かな養分として消化吸収される。ドライな状態で必要条件は満たしている。だがそれだけでは人にとって十分条件は満たしていない。それを、刈りとり、脱穀し、精米し、洗米し、適量の水と火で炊き上げて、というウェットな手続きを経て初めて、真の意味で人が頂くことのできる状態となる。
人を人たらしめる仕上げとしてのウェットな行程が「情」。高等教育は受けていなくとも本能的にそれに気づいていたお母様が、姜さんにそのことを教えてくれた。
情理。なるほど先に立つのは「情」である。
「悩みつつ 試行錯誤を 繰り返し
やがて腑に落ちる 母の教え」
P.S.深く落ち着いた語り口の中に、みずみずしい言葉の弾力がある姜さん。いつお会いしてもジェントルです。
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