蒲田健の収録後記:中島京子さん

温かいユーモアに包まれ、思わず涙があふれる

中島京子さんの最新刊「ゴースト」

本の帯には冒頭のコメントを上の句として、

「7つの短編が収められた幽霊連作集」と続く。

タイトルは「ゴースト」。しかし、世にも恐ろしき怪談集、ではない。

ゴースト=過去、と読み替えるとその本質が見やすくなるかもしれない。

かつて存在していた、もの・こと・ひと。それらは今を生きる存在が

知ろうとしなければ中々見えてこない。素材はいたるところにあるが、

時間と共にそれらは散逸してゆく方向になってしまうため、それらを

収集し組み合わせ直す必要がある。

そうして初めて立ち現れてくるものがある。その能動的な営みを経て我々は

過去を参照し過去から学ぶことができる。その立ち現れるものの象徴が

ゴーストなのだ。

神ならざる身として、森羅万象すべてを知り尽くすことはできない。

しかし、であるならば、全てを知りえないという自らの立場に謙虚に

向かい合い、それでも少しでも知ろうとする態度をとることによって

過去と現在のギャップはすこしずつ埋まり、やがては滑らかに

つながることが期待される。過去と決して不連続でないと知ることは、

現在をより深く味わいのあるものとしてとらえることの一助と

なるであろう。


「おのおのが 過ぎ去りしとき その上に

         積み重なりて 今ここにあり」


P.S.作品の中に「笑い」の成分を含ませることは常に自覚的に

意識しているというお話が印象的でした。だからこそ中島作品からは、

やさしさ、柔らかさがしみだしてくるような読後感が

得られるんでしょうね。



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