「日本を変えられるのは君たちしかいない」芸人、河本準一さんが発信し続ける理由とは?
「SDGs」に取り組む企業は年々増えています。意外に思うかもしれませんが、実は多くの人気タレントを抱える吉本興業もそのひとつ。「2030年を笑顔であふれる世界に!」を目標に掲げ、数多くのSDGsイベントを開催してきた吉本興業。その中心人物となっているのが、人気お笑いコンビ・次長課長の河本準一さんです。
今回は吉本興業の東京本部を訪れ、なぜ河本さんがSDGsの普及活動に取り組むのか、その理由をお聞きしました。
河本準一
1975年4月7日、名古屋生まれ岡山育ち。1995年、井上聡さんとお笑いコンビ「次長課長」を結成。吉本坂46のキャプテン。現在、吉本興業でのSDGsの普及活動に中心となって尽力。主に子どもたちへ向けて、お笑いや芝居を交えてSDGsの大切さをわかりやすく訴えている。最近では大分県で米作りに励むなど、個人でも活動の幅を広げている。
日本にも貧困はある。自身の生い立ちがSDGsにつながる
――「SDGs」を一言で表すなら、何でしょう?
気持ちよく地球に住むために必要な治療、ですね。
――その心は?
これは僕が、SDGsの大切さを小学生以下の子どもたちに説明するときに、いつも言っていることなんですよ。地球は今、突発性の病気を患っていて、特効薬は僕たち一人ひとりの行動。人間の病気は医者が治すものだけど、地球の病気は僕らでも治せる。一人ひとりが医者になれるんです。
――すごくわかりやすい例えですね。
でも、子どもの頃って校長先生の話を「面倒くさいなぁ」と思って聞いてたでしょ? だから、「ヒーローになれるんだよ」「小学生でもすぐ医者になれるんだよ」って言い回しを工夫することで、興味を引こうと思いました。おかげさまでリアクションも上々です。
――芸人とSDGs、あまり関係がないようにみえますが、河本さんがSDGsを自分事にできたのはなぜでしょう?
生い立ちですね。子どもの頃はやっぱり貧乏でしたから。吉本興業に入ってからも貧乏時代はありましたし、その頃から貧困はなくしたいと思っていました。芸人なので貧乏をネタにして、ユーモアを交えながら語ってきましたけど、子どもの頃はネタになんてできませんからね。
――それはそうですよね……。
貧乏はイジメにも繋がります。典型的な例が「毎日服が一緒」とか、「家に遊びに行ってもお菓子が出てこない」とか。子どもの場合は貧乏な友達に対しても、純粋に感じたまま「なんで?」って聞くけど、当事者にとってはトラウマですよ。
――実際に河本さんが体験されてきたことですか?
そうですね。なんでうちはお金がないんだろうって、いつも考えていました。なんでお菓子がないんだろう? なんで母が夜遅くまで働かなければいけないんだろう? 親が離婚をしたから? って。僕も周りの友達も、いつも首から鍵をぶら下げて、みんなで公園の水をたらふく飲んで飢えをしのぎました。ただ、昔は給食費が払えなくても先生が待ってくれることもあった。でも今は給食費が払えなければ、食べさせてもらえないでしょ?
――たしかに、そういうニュースも目にします。
今も日本に貧困は残っていますよ。貧困は自分で隠そうとするから目立ちにくいだけで。外国から見れば日本は裕福ですし、実際、SDGsの前身の『MDGs』も日本のような先進国ではなく、発展途上国の救済を目的としたプログラムでした。僕も最初は、SDGsもアフリカとかのためのものなんだろうと思っていたけど、よく考えれば日本でも未だに貧困はあるし、無関係じゃないことに気づいたんです。
“国産”であることの尊さ。日本の農業を「持続可能」に
――河本さんは今、米をつくるプロジェクトにも取り組まれていますが、これはなぜですか?
40歳くらいから「やることをやらずに後悔するのはイヤだな」って考えるようになったからです。食べ物も日本は輸入に頼り過ぎていますよね。水も土も気候もいいのに、食べ物を国産にしないのはもったいない。でも農業って、新規参入もしにくくて、若者が手を出しにくい現状もあります。これは明治時代から続く古いシステムを変えなきゃいけないんですけどね。
――たしかに、たとえ農業やってみようと思っても実際には難しそうですよね。
地方に土地を買って移住しようとする若者もいないでしょ? コロナをキッカケに、東京に住まなくても働けるよう企業も広めてくれればいいんですけどね。たとえば大分県に住んで、朝9時に起きてリモートワークで仕事ができて、土日は畑で農業ができる。そうなれば理想的ですよ。10年後、日本の農業はどうなっているのか。農家のみなさんは不安で仕方がないはずです。
――これまでと違う働き方やシステムが必要、ということですか?
今、大学生と農家がタッグを組んで、AI技術を使った田植えなんかも始まっています。決まった時間になるとトラクターが動いて、稲を植える。人工衛星やドローンで肥料をあげるという開発も続いています。リモートの田植えでも、人が植えるのと50センチの誤差もないんですよ。この誤差は5Gの導入でもっと縮められるそうです。ただ、これだと日本全国で同じ味の米しか作れないという欠点もある。だけど跡継ぎもいなくて国産を守れなくなるよりはマシだという考えもあるし、そのバランスが大切ですよね。
――河本さんは米と一緒に、デニムの販売もされているようですが。
それもSDGsの活動のひとつです。僕の地元・岡山はデニムの街なんですけど、ジーパンを作る行程で型抜きした後に、布の余りが出るんですよね。その余った布で作業着を作ったらどうかって考えたんです。切れ端でも生地の質は一級品ですから。
デニムの切れ端からできたマスク。河本さんが取材時に実際着用していた。
――だから生地をつなぎ合わせたパッチワーク仕様なんですね。
そうなんです。おしゃれさもあるので、実際若い世代の方たちも反応してくれます。デニムは頑丈で破れにくいから、アメリカでは農作業着としても使われているんです。「おしゃれな作業着を着て、米いじれたらかっこいいじゃん!」って思って地方で農業をやる若者が増えて、その周辺におしゃれなカフェができていけば、その地域の持続可能な未来が見えてきますよね。僕は芸人ですから、発信力を使って、そうした未来を実現するための第一歩をフォローしたいと考えています。
日本を変えられるのは、いまの10代20代しかいない。
――SDGsについて、河本さん自身のゴールと目標は?
何より、SDGsの達成期限である2030年まで発信を辞めないことですね。僕が発信し続けることで、芸能界の友達も拡散してくれます。結果、若い子たちにも届く。少しずつでもSDGsに興味を持つ子が増える。今後は自分のYouTubeチャンネルでも、SDGsについて発信したいです。
――そうして多くの人がSDGsに興味を持って、自分事にできるといいですね。
そうですね。例えば、サーフィンが好きなら海のごみが気になる瞬間があるはずです。海に出たビニール袋は大きな魚が食べて、めぐりめぐって結局人間の口に入ることになります。その魚を子どもたちも食べているわけだし、親御さんたちはそれでいいの? って話です。たった一個のごみでも、世界中の人間が捨てればとんでもない量ですよ。
――たしかに。この状況を変えるために、私たちにもすぐ実行できることは何かありますか?
大学生の方もよくコンビニに行かれると思いますし、レジ袋を使わないのは、やっぱり手っ取り早いと思います。7月からビニール袋も有料化されて、1枚3円になるでしょう? チリツモですけど、毎月20回コンビニやスーパーに行けば、ビニール袋に60円使うことになります。だったら、マイバッグにしてその60円を寄付しましょうよ。身近なところから始めるのが一番いいですから。
――では最後に、大学生に向けてメッセージをお願いします。
これから社会に出る学生さんたちに覚えておいてもらいたいのは、「暮らしやすい環境を作るのは自分たち自身であって、SDGsはそのカンフル剤になる」ということ。日本は宝の山です。ぜひ国産の価値や大切さにも気づいてほしい。持続可能な日本にして、この国のよさを世界に発信しましょう。今が最大で最後のチャンスです。日本を劇的に変えられるのは、君たちしかいない。どうか国産を愛してほしいです。
文:猿川佑
写真:今井裕治
編集:学生の窓口編集部
マイナビ学生の窓口では、大学生に向けた「SDGs」をテーマにした特集を行っています。
最近、何かと話題の「SDGs(エスディージーズ)」。
SDGsは、Sustainable Development Goalsの略で、「持続可能な開発目標」という意味。「地球上の誰一人として取り残さない」という壮大な理念のもと、17の目標があります。
世界的なミッションで自分とは無関係!? と思っている人も多いのでは?
でも実は、すごく身近なものなのです。
この特集では、SDGsを知らない大学生のために、大学生と一緒に考えながら、ゆっくりじわじわソーシャルグッドな世界をひも解いていきます。
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