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思い出深い出張先[#旅と美術館]

メンバーシップ「オトナの美術研究会」の企画「月イチお題note」。
3月のお題は「#旅と美術館」

さて、どんなことを書こうかな。

おそらく皆さん、素敵な旅の思い出とそこで見つけた忘れられない美術館の話なんかを書くでしょうから、私は学芸員という仕事にからめて書いてみようと思います。

というわけで、仕事の「出張」を広い意味での「旅」としましょうか。

■学芸員はわりと出張するのです。

この仕事をしていると、出張で遠方の美術館に行く機会がわりとあります。

  • 作品調査のための出張

  • 作品集荷・返却のための出張

  • 展示立ち会いのための出張

出張理由としては、だいたいこの3つのどれかです。

・作品調査のための出張

自分の研究のためにどうしても実物を見たい作品が、よその美術館や博物館に収蔵されている場合、先方にお願いして調査をすることがあります。

また、自分の美術館で展覧会のために借用を検討している作品がある場合、実際に借用するかどうかの最終判断をするため、そして展示する上で不安のない保存状態か確認するために、事前に調査をお願いすることもあります。

調査出張は、いつもワクワクします。

・作品集荷・返却のための出張

いざ、展覧会のために遠方の美術館から作品を借用することになった場合も、出張が必要となります。

美術品や文化財を「それじゃ宅急便で送ってくださーい」というわけにはいかないので、借用する側の学芸員が美術品輸送業者(ヤマトや日通)とともにその美術館まで行きます。

そこで、貸す側、借りる側、双方の学芸員で作品の状態をチェックした上で、梱包しトラックに積み込みます。
海外の美術館だと、クーリエといって作品の運搬にすべて立ち会う専門スタッフがいることもあるのですが、日本ではそういった細かな役割分担はないので、そのトラックには必ず責任者として、借りる側の学芸員が同乗します。

返却する時も同じ事をします。

長時間トラックの後部座席に座り続けるので、体がカチコチになります。

・展示立ち会いのための出張

それからもうひとつ、これはしょっちゅうあるわけではないのですが、こちらが作品を貸す場合の話です。

貸し出した作品をどのように展示するかは、基本的に先方の美術館に任せるのですが(展示の際の注意点などは伝えます)、特別扱いに慎重を要する作品(コンディションや特殊な形状・材質など)の場合、学芸員が展示に立ち会って監督することを条件に貸し出しを許可する場合があります。

美術館によっては、作品の貸し出しはすべて学芸員立ち会いが条件としているところも稀にあります。その場合、その学芸員の出張費用も作品を借りるための必要経費ということになります。

よその美術館の展示に立ち会うと、収蔵庫の様子を見学できたり、展示のやり方、照明の当て方など「へー、こういうやり方をしてるんだ」という発見があって、なかなか楽しいです。

■思い出深い出張先

そんなわけで振り返れば、日本全国の様々な美術館に出張で行きました(海外はちょこっとだけ…)。
今年も、たぶん四国地方や九州地方に行く機会がありそうです。

これまでの出張回数で一番多いのは、京都かな。美術館・博物館の数も多いですからね。何度も行ってます。

さて、出張で行った美術館は、どれも記憶に残っているのですが、いま振り返ってみて真っ先に思い浮かんだのは、自分でも意外なことに美術系ではなく、なぜか文学系の施設でした。

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