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|007|岡本章大/建築系雑誌編集者/31歳

自分にとって嗜好する本は主に「時間を潰すもの」だった。小学校から大学まで漏れなく1時間程の電車通学だったため、空いた時間を読書に当てた。ほとんどが流し読みで、後から参照する時に読み返すくらいである。外出自粛によって自室で本を読む機会が増えて、初めてと言っていいくらいじっくり読んでいる。

部屋は床のどこでも坐れるし、スツールやベッドの高低差を利用して、様々な姿勢で本を読むことができる。自分は僧侶ではないので、同じ姿勢で坐り続けられない。横になりながら読むことも多く、何度も姿勢を変えて長時間読める環境にしている。家にいる時間が増えると積読の消化、あるいは新しく勉強するとか、読む「目的」を設定したくなるが、「ぼんやり読む」「ちょこちょこ読む」みたいに「どう読むか」を考えるよい機会でもあると思う。

じっくり読むと、学校の授業を聞いているような感覚になる。しかし授業は寝ると怒られるし、一度聞き逃すともう一度聞くのに時間を要する。本は寝てもいなくならないし、何度読み返しても怒られない。携帯できて、自分のペースで人に教えを請える本は貴重な存在だ。人に会えない今、読書でより多くの人の考えに触れている。

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インタビューをする仕事に就き、話を伺う建築家の著作を読んで予習するようになった。本に書かれているのは本人にとって過去の情報だから、今と繋がっているところもあれば、変わったところもある。その機微を感じ取り、インタビューで最新の言葉を引き出すことが情報として価値になるのだと感じた。

気に入った本や印象に残った本は集めて並べている。コンテンツより一回り外側のアイデアが面白い本はつまみ読みするだけでも面白い。些細な日常の出来事を99通りの文章で綴ったレーモン・クノーの『文体練習』や、擬音語だけを集めた辞書『ぎおんご ぎたいご じしょ』は、どちらも10年ほど前に買ったものだが、時々手にとって眺めている。

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「背」表紙や「のど」と言うように、本の各部分は身体の部位が名称になっている。人間味があって、集まった時に賑やかさを感じる。最近は電子書籍で読む本も多くなって、部屋に本が増えていかないのが、風景として少し寂しい。しかし並べても背を向けられているので、寂しさはあまり変わらないのかもしれない。

●棚主プロフィール

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岡本章大/建築系雑誌編集者/31歳
1988年大阪生まれ。大学院のプロジェクトをきっかけに地方の風景に興味を持ち、時間を見つけては歴史的景観地区や集落に訪れるようになる。建築設計事務所を経て、現在建築系雑誌の出版社勤務。設計事務所時代は主に福祉施設と商業施設の設計を担当。設計で関わった施主や、集落巡りで出会ったまちづくりのプレイヤーから、前線で戦う事業者の偉大さを知る。建築を「つくる」から「伝える」仕事に足を踏み入れ、客観的に魅力を伝える記事づくりに四苦八苦中。駄洒落が好き。

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