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展覧会の作り方 輸送①

書きためておいたものを時差投稿しています。

今日は朝からトラックに揺られております。
作品の輸送中です。今日は作品の借用と、輸送についてです。

作品の借用

テーマに沿う「よい」作品を、できるだけたくさん見てほしいと思うのは、どの学芸員も同じでしょう。
ここで言う「よい」にはいくつかの意味があります。たとえば、保存状態がよい。市場価値が高い。見た目に華やかである。などなど。
上記の「よい」作品は、いわば売れっ子です。どの館も借りたい。展示したい。地元の皆さんに見てほしいし、ブームに乗ればたくさんお客さんが来てくれるかもしれない。ただし、展示できる期間は限られていますし、先約があれば借りることはできません。所蔵者が展示したり、宗教行事やお祭に使ったりすることもありますから、借りるのは難しいものです。

そういうわけで、売れっ子の作品はふつう3年前くらいから予約があります。当館にもありがたいことに、「数年後の展示でご所蔵の◯◯、ぜひ拝借させていただきたい」とお電話やメールをいただくことがよくあります。知らない相手に電話する時には、とても緊張する瞬間です。

調書の作成


たいてい(何度も借りている作品でなければ)は相手先に出向いて展覧会の趣旨を説明するので1回目、2回目の訪問で「調書」を作ります。
調書は作品のカルテみたいなもので、作品名やサイズ、材質などに始まって、借用時には「どこが傷んでいるか」「どこが脆いか」をこと細かに記します
見た目で判断できる場合もあれば、裏返したり光を当てたりして発見する場合もあります。所蔵者に直接お聞きすることも大切です。
(ときに「さあ、どういうこともない思いますけどな、まあ古いもんでっさかい」と言って、こちらの扱いや観察が試されることもあります。状態に気がつかないで借りてしまうと悲劇)

とくに工芸品の場合は、手袋をするかどうか、手袋はニトリルか絹か、など所蔵者が決めている場合が多いです。さわってしまう前にその点をよく確認し、また輸送時に箱や付属品ごとお借りする場合は、それら全ての寸法をはかり、写真を撮ります。お互い様といえばそれまでですが、あとから箱のサイズがわからなくって…と尋ねられるとゲンナリします。
いずれにしても、所蔵者は必ず取り扱いを観察しています。大きな館になると調査に来た人と借りに来る人が違うということもありますが、原則として調書をとった人が借りる、というのが信頼関係にとっては重要です。(当然返すときもです)

書類の作成

さてここまでの緊張するやり取りが済んで初めて、書類を作成します。「企画書」「借用依頼状」「許可証の文案」を同封して送ることが一般的です。
依頼状では「作品を貸していただけますか?」という大前提のほかに、

  • 何日間の出品を希望していますが、どうでしょうか?

  • 出品者名はこれで正しいですか?(名前を掲載してよいですか?)

  • 画像をホームページやチラシに載せてもよいですか?

  • ご出品料はいかほどですか?

というような項目、さらに最近では「写真撮影を可にしてよいですか?」というような項目を盛り込むことがあります。
基本的には写真を載せたいし、お名前も公開したいのですが、希望されないご所蔵者もいらっしゃいます。とくに写真撮影、グッズ化といった項目には難色を示される方も多く、ここを強く推すと「作品を借りられない」という事態にもなりかねません。そのため2回目の訪問時にこのあたりは先んじて口頭でお伝えし、反応を見ます。
少しでも懸念があれば、引きます。

また出品料については、公立館どうしの場合お互いにいただかない、という暗黙のルールがあります。私立の館ですと、重文や国宝はいくら、そのほかはいくら、と決めておられるところもあります。だいたい1点50000円くらいまでが多いのですが、たくさん借りると端数を切っていただけることもありますし、こちらから何か別の作品をお貸出しする近々の機会があると、「お世話になってるから」と値引きしていただけることもあります。(貸し出せるようなコレクションが少ない館にはなかなかシビアな世界なのです)

お寺さんや個人さんはもうルール自由なので、1桁以上金額が違うこともあれば、無償のこともあります。国立館さんでもそうですが、作品の借用料はかからないが、画像を使うのには数千円〜数万円、というところもあります。売れっ子をお借りするのは大変です。
一番怖いのは、「そうですねえ、お任せします」です。展覧会の予算感と、相手さんのお気持ちを損ねないように、という感覚の間で神経をすり減らす学芸員がたくさんいます。

さて、次回はやっと梱包、輸送のお話です。


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