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§8.4 がんじがらみ/ 尾崎行雄『民主政治読本』

がんじがらみ

 私は長いこと,憲政擁護のために心血をそそいで来たが一向ききめがない.なぜだろうと考えてみて,自分がうかつだったことに始めて気がついた.それは,正義の国家は正義の家庭を土台とし,立憲的国家は立憲的家庭を土台としなければならぬ.封建的家庭の上に立憲的国家を築こうとするのは,ちょうど砂の上に家を建てるようなもので,とてもだめだということである.私はそれまで,家庭の立憲化につとめずして,専ら立憲的国家を建てようとするのと同じで,まちがっていたことに気がついた.私はそれまで,主に男を相手にして憲政の途を説いて来たが,家庭を立憲化するには,どうしても国民の半数或いはそれ以上(昨年総選挙当時の有権者は男16,278,900余人に対し,女2055万余人で,女の方が500万人も多い)の婦人の力を借りねばだめだということに気がついて『婦人読本』を書いた.(大正15年7月日本評論社出版,しかしこの本は,参政権を持たない婦人を相手に書いたので今の時代には適しない.その中ひまをみて,民主憲法実施後の時勢に適するような『婦人読本』を書いてみたいと思っている).
 そう気がついて,よくみると,日本の家庭に根強くはびこっている封建思想と,その思想のがんじからみにあって,身動きもできない日本婦人の家庭における地位のみじめさに,且つ驚き,且つあきれた.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月16日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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