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§8.3 唯一の手向草/ 尾崎行雄『民主政治読本』

唯一の手向草

 しかし先にも述べた通り,この参政権は決してただでもらったのではない.何十万という兵隊の命と1000億の戦費と幾多の都会を焼野原にした等,数え切れないほどの高い代価を払って手に入れた宝物だとして,大切に取扱わなければばちがあたると思う.この宝物を上手に使って,子孫の代まで,2度と再びこんなひさんな戦争は決してしないという平和な国をつくることが,この戦争のぎせいになって死んで行ったあなた方の夫,あなた方の子,あなた方の父,兄弟,いとこ,おじ,おい等々の霊をなぐさめ,その死を意義あらしめるたった一つのそして何よりの手向草であろう.平和を愛する心は,ほとんど婦人の本能である.日本婦人が思いがけない参政権を与えられたのは,婦人が平和日本をつくる原動力となれという天意のあらわれであろう.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月15日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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