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§6.6 一般投票(レファレンダム)/ 尾崎行雄『民主政治読本』

一般投票(レファレンダム)

 その2は一般投票(レファレンダム)の問題である.これを新憲法でとり上げなかったことは,千慮の一失であった.ことの大小軽重からいえば,リコールよりもレファレンダムの方がずっと重大である.
 “一般投票”(レファレンダム)とは,或る限定せられた問題の可否を全国有権者の投票によって直接に表決させる方法で,その精神はいうまでもなく,徹底的に民意を政治上に反映させることにある.そして,そのやりかたは政府より発案する場合と,人民より発案する場合と二つある.
 1920年スイス政府は[#入力者注6.6.1],国際聯盟に加入することの可否を一般投票に問い,加入を可とする国民の直接表決にしたがって聯盟に加入した.その翌年同国政府は,また資本課税の可否を一般投票に問い,これは否決せられた.
 濠洲政府も1916年(第一次ヨーロッパ戦争のまっさい中)徴兵制度実施の可否を一般投票に問い,国民はこれを否決した.以上は政府発案の場合の実例である.
 また,アメリカのカリフォルニヤ州の人民は,先年,日本人土地所有禁止法制定の可否を,一般投票にによって決すべしと発案し,州民はこれを可決した.これは第2の場合の例である.
 このように,発案者は,政府でも人民でもよろしいが,いよいよ一般投票を行うことに決定すれば,そのやりかたは,ほぼ総選挙のごときものである.ただ両者のちがう要点は,総選挙はその際朝野諸党の争点となっている各種の問題と,候補者の人物とを対照して賛否を決するのが,一般投票の場合は,限定せられた問題について可否の投票を入れるだけで候補者はない.
 すなわち総選挙は,解散もしくは任期満了による議員の改選であるが,一般投票の目的は議員の改選ではなく,目の前の問題の可否を投票によって,国民が自ら直接に決定するにある.ただし投票の結果,議会の空気と,国民の意向との間に大きな開きのあることがわかれば,自然,議会の解散となり,したがって議員の改選となる.しかし,それは副作用であって一般投票の目的ではない.


#入力者注6.6.1:「スイス政府は」は底本では「スイッツル政府は」


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cf.
1) 尾崎行雄『政治讀本』(日本評論社、1925年)の中の「一般投票」の章。(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/971535, 2021年3月3日閲覧)


底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月4日公開
2021年3月24日:「cf.」の脱字を修正。

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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