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§6.7 間接表決と直接表決/ 尾崎行雄『民主政治読本』

間接表決と直接表決

 一般投票の仕方は国によって違うが,この制度を設けた精神は全く同一である.すなわち,選挙で選ばれた議員が議会でやる議決は,いずれもみな間接の民意表現であって,直接の民意表現ではない.しかし,それではもの足らず,はがゆいと思う場合もあろう.特に総選挙以後に起った重大問題に対しては,そういう気持が生ずるのはあたり前である.そこで場合によっては問題の可否を国民の直接表決に問い,または国民自ら発案して直接に立法する必要も起るわけだ.これすなわち国民投票の精神であり目的である.
 こういえば,国民投票は代議制度に対する不信任を意味するようにもきこえるが,決してそうではない.むしろ代議制度の不備をおぎない,完全に民意の実行を期するための民主主義的制度というべきであろう.
 厳密な意味でいえば,1人の議員が数万乃至数十万の有権者の希望や要求を,つねに正直に間違いなく代表するということはとうてい不可能である.できることなら一々の問題について,一々直接に全国民の賛否を問うにこしたことはない.しかし,そういうことは実行できないのみならず,実際上はその必要もない.ゆえに便法として,大たいにおいて政治上の意見もほぼ一致し,人柄も信用できる総代を選挙し,大がいの人はこの総代の表決に一任することにしたのである.
 もし政府側に,大切な問題に対してはいつでも民意に問うた上で政治をしようという誠意があり,また国民の側にもはっきりした権利義務の自覚があれば,国家の重大問題については,全国民の直接表決――一般投票を要求するのが当然である.ことに,その問題が総選挙後に起り,国民はこれに対して,いまだ1度もその意思を表示する機会がなかったような場合は,特にこの制度が必要である.


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cf.
1) 尾崎行雄『政治讀本』(日本評論社、1925年)「一般投票」(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/971535, 2021年3月3日閲覧)


底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月4日公開

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