§5.6 新憲法の花―戦争放棄/ 尾崎行雄『民主政治読本』
新憲法の花―戦争放棄
新憲法の花は,何んといっても,第2章の戦争放棄の大宣言であろう.
“日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する.
前項の目的を達するため,陸海軍その他の戦力はこれを保持しない.国の交戦権はこれを認めない”(新憲法第2章第9条)
何んと堂々たる大宣言ではないか.私も多年の平和論者であるが,正直にいって,かくまでに徹底してはいなかった.私はこの原案の作製者と,この原案の冒頭に“日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を希求し”という文句を加えて,これを可決した議会に心からなる敬意を表する.
この条文の審議にあたり“我国だけが戦争を放棄しても,他国がこれに賛同しないかぎり,その実効は保障されぬではないか”という委員の質問に対し,政府は“この規定はわが国が好戦国であるという,世界の疑わくを除去する消極的効果と,国際連合自身も理想としてかかげているところの,戦争は国際平和団体に対する犯罪であるとの精神を,わが国が率先して実現するという積極的効果がある.現在のわが国はまだ十分の発言権をもって,この後段の積極的理想を主張し得る段階には達していないが,必ずや,いつの日にか,世界の支持をうけるであろう”と答えたと報告せられたが,この答もまことに結構である.
ただ一言,老婆心をもっていっておきたいことは,この1片の文章をみただけでは,わが国を好戦国であるとする世界の疑惑をとり除くことはできないであろうということである.この上は,日本人の生活のあらゆる面において,われわれが真の平和愛好者であることを,実践を通して証明しなければならぬ.
底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年2月22日公開
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