見出し画像

§2.2 民党吏党 / 尾崎行雄『民主政治読本』

民党吏党

 なぜそうなるかの理由は,別のくだり[※入力者注2.2.1]でくわしく説明するが,ともかく,立憲政治の先進国では,選挙の場合政府党よりも在野党の方が有利なのが,一般の通例である.しかるに,日本の選挙はその逆で,久しい以前から政府党は必ず勝ち,在野党は必ず敗れるていたらくである.わが憲政を毒する百弊のみなもとはここにありとさえ思われるが,日本でも,外国のお手本を忠実に学んだ初期の選挙は,けっして,こんなあさましいものではなかった.
 すなわち,明治23年初めての選挙から,日清戦争までの5年間に,4回の総選挙が行われたが,4回とも政府党が敗けて,在野党が勝った.ことに,明治25年に行われたマツカタ内閣の選挙では,腕力金力権力等あらゆる暴力を極度に使って,在野党に大圧迫大干渉を加え,政府の無理をおし通そうとした.まさしく憲政史上の一大危機であったが,全国多数の選挙民は,見事にこの政府と与党の圧迫をはねのけて,在野党に勝利を与えた.当時は民党を名のることは非常な強味で,吏党と呼ばれることは,ほとんど致命的な弱味であった.これを今日の与党でなければ巾のきかぬ選挙界にくらべて,今昔の感にたえぬではないか.


[※入力者注2.2.1]:例えば、下記を参照。
(1) 尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)の「出たい人より出したい人を」や「正規軍か馬賊か」
(2) 尾崎行雄「憲政の危機」『政戰餘業 第一輯』(大阪毎日新聞社、東京日日新聞社、1923年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/968691/1, 2021年1月3日閲覧)の「選挙は常に在野党に有利なるべき筈」
(3) 尾崎行雄『政治讀本』(日本評論社、1925年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/971535, 2021年1月5日閲覧)の「選挙の神聖」
(4) 尾崎行雄『改訂増補政治讀本』(日本評論社、1936年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1185916, 2021年1月5日閲覧)の「選挙の神聖」



←前:§2.1 うぬぼれのたたり

次:§2.3 国家壊滅の病原 →


底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2020年12月31日公開
2021年1月3日:[※入力者注2.2.1]を追加
2021年1月5日:[※入力者注2.2.1]に『政治讀本』と『改訂増補政治讀本』の記述を追加。また見やすいように体裁を変更。

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?