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§2.3 国家壊滅の病原 / 尾崎行雄『民主政治読本』

国家壊滅の病原

 選挙すでにしかり,選ばれて立法府に列する議員もまた,先進立憲国の議事ぶりや,先例を学んで,議会のはこびかたに,まちがいのないようにと,けんめいに努力した.
 問題が起るたびごとに,世界各国の議事規則や,先例を研究して,小心よくよくお手本にしようと心がけたから,不なれながらも,大した失敗はしなかった.
 なぜ,そうでなければならぬかの理由は,別のくだり[※入力者注2.3.1]でくわしく説明するが,ともかく,立憲政治の先進国では,それが正確な事実にもとづき,正しい理論に立っておればたとえ少数党から出した議案でも,議員多数の賛成をえて成立し,まちがったことは,たとえ多数党の議員が出した議案でも否決せられるのが通例である.しかるに日本の議会はその逆で,多数党の提案なら,たとえば鹿を馬だというごとき横車でもおし通すが,少数党の提案なら,馬は決して鹿ではないというごとき,正しい主張でも,押しつぶされてしまう.せっかく,めばえかけたわが国の政党政治が,かえってまず国民からあいそづかしをせられ,軍閥官僚のはびこるすきを与え,国家を破滅にみちびいた病根は,実にここにありとさえ思われるが,日本でも外国のお手本を忠実に学んだ初期の議会は,けっしてこんな恥知らずのものではなかった.
 すなわち,第1期議会においては,きわめて小数な[※入力者注:「小数な」はママ]改進党の定義した予算査定案が可決せられた.また第5期議会においては,多数党から選出せられた議長ホシ・トオル君除名の動議が,全院3分の2以上の多数をもって通過した.これを何んでもかんでも,多数の力で横車をおし通す昨今の議会にくらべて,今昔の感にたえぬではないか.


[※入力者注2.3.1]:例えば、下記を参照。
(1) 尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)の「無意味なひまつぶし」、「サル芝居」、「“男を女にすることはできない”」
(2) 尾崎行雄「憲政の危機」『政戰餘業 第一輯』(大阪毎日新聞社、東京日日新聞社、1923年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/968691/1, 2021年1月3日閲覧)の「事実の有無と道理の当否を度外視す」


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年1月3日公開
2021年1月6日:[※入力者注2.3.1]の体裁を変更。

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