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§5.9 厳粛な誓い/ 尾崎行雄『民主政治読本』
厳粛な誓い
日本国民が日本国家に負える義務もさることながら,私はこの章を結ぶにあたり,新憲法が名実かねそなわる人類最高の理想の象徴であることを世界中から承認せられ,日本民族が忠実にこの大理想に奉仕する平和の使徒であることを証明するために,日本国民が世界の平和と人類の福祉に負える崇高な義務について,一言して置きたいと思う.
新憲法はその前文において“日本国民は恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理念を深く自覚するのであって,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した.われらは平和を維持し,専制とれい従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う.われらは全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する”と宣言し,末尾において“日本国民は国家の名誉にかけ,全力をあげてこの崇高な理想を達成することを誓う”と結んでおる.
この誓いは,日本国民が各々己れ自らの良心に誓った誓いばかりではない,世界の平和と人類の福祉の前に誓った厳粛な誓いでなければならぬ.われわれはこの神聖な誓いは断じて守らねばならぬ.
じつに立派な憲法である.まぶしいまでに光りかがやく憲法である.こいねがわくば,この憲法が猫に小判を,豚に真珠を与えたような,宝の持ちぐされにならないことを切に祈る.
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スポーツ――ドイツのカイゼルは公人としてはイギリスを敵視したが,私人としてはイギリスの美点を学ぶことにつとめた.特にイギリスのスポーツを羨んで,ボート・レースを輸入し,帝室が保護して奨励したがためだった.スポーツの形は輸入しても,その精神を輸入することができなかったからである.ドイツ人はどうして,勝敗に重きを置く.勝ちさえすればよいという考えが出て困るとカイゼル自身告白した.イギリスのスポーツは勝敗が最後の目的ではない.スポーツマン・シップを養成するのが目的である.スポーツマン・シップというのは,フェアー(公正)と,ゼントルマンライク(上品)の精神である.勝敗の栄辱,戦争にも劣らぬというほどに人心をあおっておいてやるのであるが,その非常な名誉を得るためにも決して卑怯なまねはしない.勝つも敗けるも正義正道をふんで,公正に1品に争うのである.応援団も一般の見物人もすべてこの精神をもってする.
日本でも近来スポーツがなかなか盛んになったが,選挙にも応援団にも,一般見物人にも,スポーツの本当の精神が欠けているのではないだろうか.
底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年2月25日公開
誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。
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