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§8.7 舞台は広い/ 尾崎行雄『民主政治読本』

舞台は広い

 いうまでもなく,参政権とは代表者を選ぶ権利であると同時に,代表者として選ばれる権利である.国会・都議会・府県会・市町村会の議員として,または知事・市長・村長として,婦人がどしどし進出して来ることは望ましいころである.特に市町村会のごとき手近な自治機関に,婦人の勢力が深く喰い込むことは,日本民主化の地固めとして誠に結構なことだと思う.そこには婦人ならでは気の付かない,気がついても男では行き届かない,婦人の細かい心使いを必要とする生田の重大な問題がある.例えば小学生の教育問題・託児所の問題・育児の問題・風紀衛生の問題等々,殊に近頃の配給の問題などは,どうしても婦人の方が行き届いた世話がやけるわけである.さらに進んで禁酒禁煙の運動・売笑婦撲滅運動・畜妾廃止運動等々,婦人の活動を待つ舞台はなかなか広い.
 酒と煙草と売笑婦のために日本の男が浪費する金は,昭和の初年頃ですら毎年およそ20億円くらいと見つもられていた.今日でもおそらく数百億円にのぼるであろう.この巨額の金は,本人の健康を害し,仕事の能率を低め,家庭の悲劇の種をまき,国民道徳を破壊し,犯罪を増す等,百害あって一利なきことに費されるのである.何んとかしてこれを止めさせたいと思うが,もともとこれは男の道楽だから,男の力ではどうすることもできない.第1次ヨーロッパ戦争当時のアメリカの禁酒法は,主として婦人の力で成功した.日本でも,せめてこの難局を切りぬけるまで,全日本婦人が立って禁酒・禁煙・金売淫を断行させるような,力強い国民運動を起してもらいたいと思う.総選挙にあたり,禁酒禁煙禁売淫法の制定に賛成し尽力することをはっきり約束しない候補者には,1票も入れてやらぬと,全国婦人が申し合せ且つ実行する決意を示せば,決してできないことではない.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月19日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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