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§12.6 正規軍か馬賊か/ 尾崎行雄『民主政治読本』

正規軍か馬賊か

 申すまでもなく政党(公党)は,国家のためなら党の利益をぎせいにするを辞せない奉仕団体であって,党のために国家の利益をぎせいにする利権団体(私党)ではない.ゆえに公党が政権をにぎって局にあたれば,1,いかなる大政治家でも局にあたれば,多少の失策をして党員及び国民を失望させる.2,大政党中には必ず多少の地方的利害,または一身上の栄達のために入党するものがある.こんな連中は,国家本位の正しい政治や任用をやれば希望のいれられないのを不平として脱党する場合もあろう.3,政権をにぎれば仕事がしたくなる.仕事をするには金が要る.ゆえに政府党は増税党になりがちである.4,同じ内閣が3~4年もつづけば,失政なしといえども人心が倦んで,反対党の政治を希望するようになるのが人情のつねである.等の理由で政府党になれば,必ずやせ細るべきすじ合いのものである.ちょうど国家奉仕の正規軍が戦場にのぞめば,必ず多少の死傷者を出して出征の時よりも,やせて帰ってくるのと同じ理くつだ.
 しかるに,奪掠を目的とする馬賊は,出征のためかえって財貨と人員を増加し大いに肥って帰る場合が多い.政権をとれば必ず肥るわが国のこれまでの政党が,正規軍に比すべき公党にあらずして,馬賊に比すべき私党たる証こである.しかし,これも政党だけの罪ではない.わが国多数の有権者は,政権をとってやせる公党より,政権をとって肥る私党の方がすきで,いつでも政府党に余計投票するからである.
 鏡と影の関係は,ここにもはっきりあらわれている.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月23日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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