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都会の自然を発掘せよ〜壊したら直して守る〜

私としては珍しく。
11月の事だが、東京私学教育研究所の理科教員研修に参加してきた。

研修テーマは《人間が再生した海浜に棲む生き物と環境》。
要は自然の海浜(干潟)と人工の海浜を比較して、自然再生の可能性を探ろうというものだ。
奇しくも、昨年から担当学年で取り組んだ総合探究のテーマ《都会の自然は豊かといえるか?》に通じるものを感じて即参加を決めた。

研修は干潟や東京湾の保全を専門にされる大学関係の方や、自然再生に携わる企業の方によるレクチャーもあり、学びと発見の多い有意義な一日だった。主要なポイントを整理してみる。

1.自然の海浜《盤州干潟》

バンズ干潟の最奥部

言うまでもなく自然の海浜(干潟)はデカい

小櫃川河口に広がるのがバンズ干潟だ。
私もルアーフィッシングを趣味とすることから、行ったことはないが、シーバス釣り場としての知識はあった。しかし、多摩川河口干潟や三番瀬など有名な干潟はあるものの、この場所が東京湾に残された数少ない後背湿地(葦原の湿地)をもつ干潟であるとは考えてもいなかった。
確かに三番瀬に後背湿地はほとんど無い。

ただ、何とも困惑する広さ。ここが命のゆりかごだと言われてもピンとこない人も多いだろう。見学も単独なら迷子は避けられないのだが、今回は達人のレクチャー付きなので心配なかった。行く先々のポイントにて、広大な干潟からは様々な種類のカニや貝類が紹介され、底なしに多様な生物が棲みついていることが伝えられた。

場所も広いがポテンシャルも広い

個体数も大切ではあるが、何よりも種類が豊富。これを可能にしているのが自然の作り出す多様な凸凹だったり葦原だったり。広くて奥深い自然の干潟に息吹く生物の多様性の根幹は多様な棲家を提供できる環境なのであった。
これを人力で作ろうとしても、まぁ無理だ。

2.人工の海浜①《東扇島東公園》

東公園よりも西公園の方が…

ここは防災の人工島。
人工の砂浜がある。
今はアサリが棲みついているが、残念ながら多様性は相当低い感じた。環境修復を意識した設計をしないと、雰囲気を作っても生き物は勝手には戻って来ないという典型。
ちなみに、反対側の西公園は私のライトソルトゲームのホームグラウンド。去年まではドチザメ狙いで通ったが、今はカサゴとメバルと出会える場所として重宝している。なお、こちらの方が外洋に面しているから多様性も高い。修復しやすいのは西公園の方だよなと考えつつ…まぁよい。

人工の海浜②《大森ふるさとの浜辺公園》

環境修復の一丁目一番地

もともとは伝統的に海苔が養殖されていた干潟。
例外なくこの地も開発の波に押され、少しずつ自然が失われた。
のだが、開発されかけた場所を少しでも守りたい地元の方々の声に行政が耳を傾けた事で首皮一枚で助かった感がある。現在は大学や民間企業も関わりながら、「環境修復」に取り組まれており、
「多様性を取り戻す」という目的がはっきりしている。
訪れたときには残念ながら潮が満ちてきて、あまり干潟の様子を観察できなかたった。しかし、釣り人の視点で観察すると、水路の一画にクロダイが溜まっているのを確認した。クロダイは食物網の上位に君臨する種であることから、この場所に多様性が戻りつつあるのかが伝わってきた。

具体的な環境修復の実践からは、今後の環境保全のあり方のヒントが伺えた。

これからは直して残す時代だ

開発は悪だったのか

開発をしなければよかったのかと言うと、そうではないと思う。人口が増え、人が生きやすい場所を作るため。何より泥干潟を埋め立て、安全な、快適な場所が求められたのだから。
ただし、我々人類は生態系の仕組みや多様性のあり方に、あまりにも無知だったのだろう。
その場所を消してしまうことで、多くの生物たちどのような影響があるか。将来的に、人間の住む環境にどのような悪影響が出てくるのか。

当時から警鐘を鳴らしていた方は当然いただろう。しかし、開発に自然と共生するという選択肢が欠けていた。これば悪だったのではないだろうか。また、どのように共生すればいいのかを考える時代では無かったのだろう。
具体的な方法。それを示せなければ、絵空事に過ぎない。

一つ一つの生物をよりよく知る基礎研究が必要

私自身、干潟の魚類トビハゼの個体間相互作用を卒業研究とした。
また、教員になってからも生徒たちのサポートでクロカナブン・クロゲンゴロウ・アカボシゴマダラ・シロテンハナムグリ・チャネルキャットフィッシュ・クロメダカなどの研究に関わってきた。今も現在進行形で淡水二枚貝(主にイシガイ)の研究に携わっている。タナゴ釣りが好きな高校生O君は、タナゴを守る為に産卵基盤である、淡水二枚貝の研究に取り組んでいるのだ。

改めて実感するのが、こうした基礎研究の積み重ねが多様性を守ることにつながる。生態系を支える一助になるのだ。
目の前の生き物に興味を持ち、それを深く知ることは、とても大切なことだと思う。中高で理科を教えている自分にとっての役割はそこにある。

自然を”直して残す”時代

壊してしまった自然と同じものを再生するのは難しい。ただ「何を再生するのか」が明確であれば、やるべきことは見えてくる。遺伝子資源を守る為、生物多様性の再生の為と大義は尽きない。

盤州干潟レベルの干潟再生はやや非現実だが、小さな修復と再生ならば現実味を帯びてくる。基礎研究から分かった”棲める環境”を作ってあげれば良い。湾内にこうした場所が増えてくれば、近隣の小さな生態系同士で生物は行き来し、最終的には広大な再生圏ができるだろう。

ようやく、開発の為に壊してきた自然を”直して残す”時代になったのである。

理科教育にこの視点をどれだけ組み込めるかが重要だな…と振り返ってこのレポートを締めくくります。

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