「かっとばせ」デビューした日
私が本格的にプロ野球を見るようになってもう40年近く経つのですが、、
初めて球場に行ったのは幼稚園児の頃。
親が勤めていた会社の福利厚生で当時はまだ「大洋ホエールズ」(現・横浜DeNAベイスターズ)だった時代の横浜スタジアム。確か対阪神タイガース戦だったような気がします。
野球のやの字もよくわからず、父親に突然連れて来られたすり鉢状の建物のバックネット裏に座り、試合を見るというよりは全体を眺める。
グラウンドを見下ろすというよりは、バックスクリーンを見て「映画館のような大きな画面がある」と思ったり、「明るい電気がたくさんある」と思ったり、「人がたくさんいる」と思ったりしていた程度。
外野席から聞こえてくるのは、大洋ファン、阪神ファンがそれぞれイニング毎にトランペットから流れる各選手のヒッティングマーチに合わせて大合唱している応援歌と声援。
その中で締めくくりに唱えられていたのが、
「かっとばせ〜!○○」
の文言。
私はそれをバックネット裏のスタンドで繰り返し聞いているうちに「発声してみたい」という衝動に駆られたのである。
衝動に駆られるというのは実に突発的で見境も無くやってくる。
両チームのイニング間、トランペットの音も止んでいるその瞬間、
「かっとばせー!かーじーたー!」
当時、幼稚園児の私が子供特有の甲高い声で生涯初めて発したかっとばせである。
周囲がにわかにザワザワするのがわかる。
無理もない。
センター後方のバックスクリーンのどこを探しても「梶田」の文字は無い。
両チームの選手にも審判団にも居ない。
私は衝動に駆られたその発声で私自身の苗字を発したのだ。
ザワザワするスタンド、反射的に高まる高揚感。再びその言葉を発しようとしたその瞬間、父親に口を塞がれるのがわかった。
そのイニング以降、小ぶりなプラパックに入った焼きそばとフライドポテトをずっと頬張らせられていた。
これが私の球場発声デビューであった。