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分配と成長は両立するか?「岸田ビジョン」を読んでみた

こんばんは、Gakkyです。総裁選も終わり、岸田総理が誕生することになりましたが、Twitter等を見ていて岸田総理はかなり政策のビジョンを持っている人だな~と感じました。

その中で、「新しい資本主義」という言葉が登場し、「成長と分配の好循環」という目標が掲げられていたのが気になりました。いったいこれまでの資本主義とは何が異なり、今後の政策がどうなっていくのか?ということについて、簡単に見ていきたいと思います。

岸田総理の書いた「岸田ビジョン」という本も少し読んでみたのですが、あまり「新しい資本主義」は詳しく触れられていませんでした、、


1 「新しい資本主義」の背景

「新しい資本主義」は経済成長をしたうえで、その成長によって生まれた利潤を富裕層だけでなく全体に再分配するということを掲げています。これだけ聞くと至極真っ当な政策のように思われるのですが、岸田総理はどういう問題意識のもと、このような政策を掲げているのでしょうか。

ここで、岸田総理の総裁選特設サイトでは、以下のような言葉が述べられています。

規制緩和・構造改革などの新自由主義的政策は確かに我が国経済の体質強化と成長をもたらしました。他方で、富める者と富まざる者、持てる者と持たざる者の分断も生んできました。成長のみ、規制緩和・構造改革のみでは現実の幸せには繋がっていきません。

これまでの政策では、できるだけ規制を緩和して自由な経済活動を行うことを認めることにより、国としての成長をもたらすということが目指されてきました。

例えば、わかりやすい例として、大型店舗と地方の商店街の小さな店舗の関係について見てみましょう。1970年代には大店法という法律が制定され、大型店舗の出店が規制され、中小小売業の保護が図られていました。

こういった法律が存在すると、中小小売業は大型店舗と本気で価格競争をしなくても一定程度利益を上げることが可能となり、中小小売業が大型店舗につぶされるという危険性は低下することになります。

一方で、こういった競争が存在しないことは成長が阻害される原因ともなります。中小小売業としては、大型店舗と本気で競争をしなくてもよいから、仕入れの仕組みを効率化をしたり商品の品質を向上するという動機が、本気の競争をしなければならない場合より小さくなってしまうわけです。

つまり、市場での自由競争を促すことにより、品質の向上・効率化の動機を与えて成長を実現するというのがこれまでの政策(=新自由主義的政策)だったわけです。

しかし、新自由主義的政策は、一方で格差を生み出し、分断を生み出しているという問題が指摘されてきました。市場での自由競争に委ねる場合には、必ず勝つ者と負ける者が存在します。

先ほどの例でいうと、大型店舗の出店規制がなくなることによって、中小小売業は淘汰され、大型店舗には利益が更に入ることになりますが、中小小売業は下手すれば倒産、、という事態にもなるわけです。

そのような問題点を背景として、一方で市場での自由競争を促すことによって成長を実現すると同時に、成長によって生まれた利潤(ここでいうと大型店舗が得た利潤)を各人に分配することによって市場での自由競争の弊害を除去しようというのが「新しい資本主義」の考え方であると思われます。

こういった「新しい資本主義」が本当に実現可能なのか?という点については3章で検討していきます。

2 「新しい資本主義」の政策内容

では、このような成長と分配の好循環を目指すために、岸田総理は具体的にどのような政策を打ち出す予定なのでしょうか。

先ほど挙げた岸田総理の総裁選特設サイトでは、「成長」・「分配」ともに4つずつ具体策が示されているので、ここに挙げておきます。

【成長戦略】①科学技術立国の実現②デジタル田園都市国家構想(地方にデジタルの実装を進める)③経済安全保障④人生100年時代の不安解消

【分配戦略】①働く人への分配機能の強化②中間層の拡大、少子化政策③公的価格の在り方の抜本的見直し(看護師、保育士等の所得向上)④財政の単年度主義の弊害是正

最近話題となっている、金融所得課税の見直しは、分配戦略の1つに位置づけられていると思われます。


3 成長と分配の両立は可能か

さて、経済成長はどんどん進めて、儲かった利益をみんなに分配しよう!という政策は、理想的な政策のようにも思われます。しかし、このような政策にはかなりの難点があると思われます。

それは、分配をすることは成長を阻害しかねないということです。単純に考えて、1000万円を稼いだら1000万円丸ごともらえる社会と、1000万円を稼いでも500万円しか手元に残らず、半分はみんなに分配されてしまう社会なら、どっちの方が稼ぐ意欲が生じるでしょうか?

明らかに、1000万円を稼いだら1000万円丸ごともらえる社会の方が稼ぐ意欲が生じ、効率化・新たな価値の創出への動機が強く働くわけです。こういった動機がなくなってしまうと、岸田総理が目指すデジタル田園構想も、デジタル技術の進歩が遅くなってしまい、結局全てが企画倒れということにもなりかねません。

ただ、一方で、分配の方法を工夫することによって、成長を阻害せずに再分配をすることも可能です。

先ほどの例でいうと、1000万円を稼ぐ能力を持っている人は、1000万円を稼いだとしても、ちょっとサボって800万円しか稼がなかったとしても、どちらにせよ500万円を奪われてしまうとします(普通なら、800万円しか稼がなかったらその分所得税は減少するはずです)。そうすると、稼ぎが多くなるほど取り分が増えるという状態は保たれることから、成長意欲をそがずに再分配をすることができるわけです。

しかし、誰が1000万円を稼ぐ能力を持っているのかを把握するのは非常に困難であり、このような制度を実現するのはかなり難しいと言えます。このように、成長を阻害せずに再分配をするためにはかなりの工夫がいるように思われます。

というわけで、まとめると「新しい資本主義」は次のどちらかの方向に進むのではないかと考えられます。

①再分配の方法を工夫し、成長を阻害せず再分配をする仕組みを作り出す。それによって、本当に成長しながら格差を埋めるという世界が実現される。(ただしその実現はやや困難と思われる。)

②成長はある程度抑えることになるが、一方で格差が是正されることになる。上手くいくとある程度平等な社会が実現されるが、下手をすると国民全体で貧困になりかねない。

4 終わりに

さて、ここまでは自分なりの考察をしてみましたが、経済政策は非常に難しい分野だと思うので、どのような結果になるかは正直わかりません(笑)

あと、ここまで経済成長を目指すことを正義としてきましたが、その点に疑問を向ける見解も存在します。それについては以前記事にまとめたので、また読んでみてください。

というわけで、まだ具体的にどのような方向に向かうかはわかりませんが、岸田総理の政策に注目していきましょう!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!



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