夜遊び、或いは午前5時のアディオス・マザーファッカー Vol.1
私は普段ほとんど飲み歩かない。
理由はいくつかあって、酒が強くない、金が勿体無い、面倒など。
また、「行くな」と止められているわけではないのだが、彼女と同棲していることもその一因かもしれない。
それでも大学最終学年の2017年には京都木屋町に、上京したばかりの2018年には勇気を出して新宿ゴールデン街の文壇バーなどに行ったりしていた。
居酒屋での大人数の飲み会は、どちらかと言えば好きだ。しかし仕事が絡んだ途端、それは業務になる。サークルの飲み会(幹事を除く)が最も理想的な楽しい飲みの場のように思える。
しかし今日、私は飲み歩いた。都合4軒、これは夜遊びと言えるだろう。その記録をできるだけ鮮明に書こうと思う。
きっと数年後に読み返すと、自分の思い出にもなる。
まず私は、2023年11月に新卒で入社し5年半勤めた会社を退職した。
転職のあてもなく辞めた、その感慨を越後湯沢への旅行記として書いた随想は、現在ある公募に出したので、落ちたあとに公開したいと思っている。
ともかくしばらくゆっくりしていて、お正月の帰省も、実家に5泊するという異例の長さだった。
その後年明けから転職活動を本格化させ、履歴書と職務経歴書の作成や応募、スーツにネクタイを締めての面接活動に勤しんでいた。
時間が空くとやるかと思っていた小説の執筆は、まったくというほど進まなく、私の創作に必要なのは時間ではなく「現実逃避の気持」と、「現実逃避を成し遂げた寝不足の翌日でもなんとかなってしまうレベルの仕事量」だということが分かった。
転職活動は終わり、3/1から働き始めることになった。
しかし、当初思っていたときほど喜びの気持は感じなかった。ほっとしたというくらいだ。
これは意外だった。わたしは今の生活のまま金だけが入ってくることを望んでいるのだ。
とはいえなんの予定もない日々は暇で、ひたすらYouTubeの動画を作ったりしていたのだった。
就職が決まったからには、羽を伸ばして遊びたい。
それで夜遊びに繋がるわけだ。
昨年9月におよそ5年ぶりに再会した、小学校からの友人であるFくんと予定を合わせて、池袋に集まった。男二人で飲みに行く。こういう状況で、私はいまだに村上春樹『ノルウェイの森』の「僕」の永沢さんを連想する。
Fくんは私とは全然違う人生を歩んでいて、ホスト、ヒモを経て、現在は昼職をしている。遊び慣れているし、なにやら哀愁すらただよっている。
彼とは特に中学や高校でよく遊び、AKB48の握手会にも行ったり、18歳で初のセクキャバに行ったりした仲だが、われわれの友情の根源を書き出すと大変なので割愛する。
ところでこの間AKBの当時聴いてた桜ソング、「桜の木になろう」や「GIVE ME FIVE!」を聴き、暖かい春のような日に歩きながらだったせいで懐かしさに感動して泣きそうになった。いや、ほとんど泣いてた。これが世代ってやつかと思った。
この日のちに登場するキャバ嬢に見せた私のサブスクのお気に入りリストは、世代でない古い曲(みんなは揃って「渋い」と形容した)ばかりなので、あの頃AKBを聴けていたのは財産だと思う。
そして今後私がおじいちゃんになって、神7がおばあちゃんになって、これらの曲を歌ったら、とんでもなくヤバいだろうというふうに想像した。
そしてそういうことを、ポール・マッカートニーやボブ・ディランやローリング・ストーンズはやり続けている。
私は彼のような友人がいないと、まず夜の街では遊びなくなっているから、大変ありがたい。
彼の方も、仕事関係以外の人と飲みに行けることを、嬉しがってくれていた。
一軒目はよくある居酒屋で、きゅうりや山芋などを肴に飲んでいた。
私はいつFが隣の女性客に声をかけ出すだろうかと楽しみにしていたのだが、そんなことはなかった。
というのも、昔私の学生時代にFはラウンドワンであちらこちらの女の子にウインクして、向こうをはしゃがせていた記憶が鮮明なのだ。
彼はちゃんとキャラとして成立する具合に、顔が整っている。この辺りも永沢さん的要素の一つである。
これほどの整い方をしている人間は、自己肯定感が高く、自分よりダサい人間を男女問わず見下す傾向にあると、私は人生経験上思っていたが、彼はそんなことがなかった。だから全然違うのに付き合えている。
居酒屋を出たころは終電の時間を過ぎたあたりで、というのも集まる時間が遅かった。向こうは明日休みだし、こちらは当然無職の昼夜逆転生活なので、池袋でずっと過ごそうということになった。
他の候補としては新宿2丁目でFの高校時代の友人が働いているというゲイバーに行くというものだったが、移動が面倒なので辞めた。
ちなみに、一体誰に向けてこんなことを書くのか、その必然性もないのだが、私はニューハーフが好きで、ヘルスにも行く。
その話をFには前回会った時もしていたのだが、忘れたのか忘れたていのほうが話の流れがスムーズだと思ったのか初めて聞いたように驚いて、
「俺も一回客がニューハーフやった時がある」とやはり前回聞いた話をしてくれた。顔や声では分からなかったが、豊胸をしておらず、乳首が男の乳首だったと彼は話した。
しかしゲイバーはニューハーフはあまり来ないということだ。それもそうだろう。
もともと我々は相席居酒屋に行こうと約束していたのだ。というのも相席居酒屋ならそこの女性客とお楽しみがあるかもしれない。
しかし彼は「一回コンカフェを挟もう」と言い、歩いていると寒空の下キャッチのお姉さんが立っていた。そして彼女は、Fがつい先週、仕事の上司と行った店の女の子だった。
続く
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