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台本「則子ちゃんのキャラ弁③」

第三場
翌日。
2年4組の教室内。11時頃。
担任:新島聡美が、みっちゃんを立たせ、他の生徒の前で叱責している。
みっちゃん、怒られているからなのかその目は何処か生気がない。

新島「どうしたの佐竹さん、」
みっちゃん「……」
新島「昨日はちゃんとできたのに、どうして今日は出来ないの? ちゃんと復習しなかったの?」
みっちゃん「……」
新島「一人の気の緩みは全体の気の緩みになるんだから。わかってる? どれだけみんなに迷惑をかけたか、うん」
みっちゃん「……」
新島「里山さん、」
みっちゃん「……」
新島「聞いてますか?」
みっちゃん「……はい、」
新島「みんなに迷惑をかけたか自覚してる?」
みっちゃん「……はい、」
新島「謝って。みんなに。謝りなさい」
みっちゃん「……すみませんでした」
新島「皆さん、今ので納得できましたか? できましたか? 先生は納得できません。今回皆さんは頑張りました。でも佐竹さん一人が足を引っ張ったので、全体の評価は上がりませんでした。今、佐竹さんは、ねぇ、謝りましたがすぐに許してはいけません。むしろ皆さんの努力は「その程度で許されるくらいの努力だった」と思われているんだと、怒って良いくらいです。佐竹さん、帰りまでに、もっと真剣にクラスメイトに謝れるように考えておいて下さい」

チャイムが鳴る。

新島「では、授業を終わります」

新島出て行く。
途端にガヤガヤと騒ぎ出す生徒達。
ぼんやりと椅子に座るみっちゃん。そんなみっちゃんの側にやって来る則子や友人ら。

則子「気にする事ないよ、」
みっちゃん「……」
友人2「みっちゃん、今日朝から具合悪そうだけど、」
みっちゃん「え……?」
友人2「大丈夫?」
みっちゃん「うん……大丈夫……」
友人1「あんま昨日勉強出来なかったの……?」
みっちゃん「あ、うん……出来なかった、」
友人2「あるあるそんな時あるよ、私も推しが不倫した時は勉強出来なかったもん」
友人1「でもさあ、あの言い方無くない?」
友人2「ないない」
友人1「1回動画撮りたい、あの説教」
友人2「ねー。やっちゃおうか」 
則子「ニージマ先生撮るの?」
友人1「そう、辞めさせられるんじゃない?」
則子「どうかなぁ」
友人1「辞めさせないと来ちゃうもん家庭訪問で、家、」
友人2「マージやだー!」
則子「私今日……」
友人1「うっわ地獄!」
友人2「則子ちゃん今日かぁ~。お茶に毒仕込んでやんな」
則子「え~?」
友人2「毒飲んでとんとんだよアイツは」
友人1「はぁ……。嫌な事ばっかだねぇ~」
みっちゃん「…………」
則子「……お弁当食べよっか」
友人1「そうしよそうしよ、」

立ち上がる友人1・友人2。

みっちゃん「ねぇ、」
友人1「私達パン買って来るねー」
みっちゃん「あのみんな……」
友人2「いこー」
友人1「先食べててー」
則子「うんー」

友人ら、教室から出て行く。
残される則子とみっちゃん。

則子「みっちゃんホント大丈夫? 具合悪いの?」
みっちゃん「ちょっと……うん、」
則子「気持ち悪いの?」
みっちゃん「じゃないけど、あんま……うん、」
則子「そうなんだ……。保健室行く?」
みっちゃん「今はまだ大丈夫……」
則子「行く時はいつでも言ってね(弁当を取り出す)」
みっちゃん「(それを注意深く目で追いながら)……有難う……」
則子「風邪かなぁ?」
みっちゃん「わかんない……」
則子「みっちゃん、食べないの?」
みっちゃん「もうちょっとしたら食べる……」
則子「そっか……。ごめん、私お腹すいたから先食べるね」

則子、弁当の蓋を開けると、昨日と同じ一般男性の顔のキャラ弁がある。

みっちゃん「!!?」
則子「あ。キャラ弁だぁ」
みっちゃん「(物凄い形相で弁当を睨み付け)……則子ちゃん……」
則子「なに? え、やっだ、凄い怖い目してるよみっちゃん、」
みっちゃん「その……その……お弁当、」
則子「ん? これ? 食べたいの?」
みっちゃん「食べたくはない!」
則子「えぇ⁉」
みっちゃん「……2日、連続だね……」
則子「え? そうだっけ?」
みっちゃん「そうだよ! この顔ってさ、」
則子「う、うん」
みっちゃん「モデル、いる?」
則子「え、これの?」
みっちゃん「そう。モデル、いる……?」
則子「モデルぅ?」
みっちゃん「このキャラ弁の顔、見覚えない?」
則子「ないけど、」
みっちゃん「よく見て!!」
則子「え、え、どうしたの? お弁当開けただけでなんでこんな空気に、」
みっちゃん「……則子ちゃんの、知ってる人だったり……しない?」
則子「え、これが?」
みっちゃん「(頷く)。心当たりがあるはず」
則子「そんな、手配写真みたいなお弁当なの? これ?」
みっちゃん「よく見て、ホクロとか、目の辺りとか、」
則子「(まじまじとキャラ弁を見つめ)わかんないよぉ……」
みっちゃん「身近に、いない?」
則子「え、身近?」
みっちゃん「身の回りにいない? こんな顔の人」
則子「いないと思うけど……」
みっちゃん「……家族とか……」
則子「家族? いないよぉ」
みっちゃん「昨日則子ちゃんのキャラ弁が、喋ったって言ったじゃん。実はね、放課後則子ちゃんの家に行った時さ、」
則子「え?」
みっちゃん「……ん?」
則子「キャラ弁が、喋った? 何それ? これが?」
みっちゃん「……え? な、なにそのリアクション、」
則子「なにそのオモシロい話ーうけるー」
みっちゃん「え、え? 昨日言ったじゃん、これ喋ったよって、」
則子「初耳だよぉ」
みっちゃん「言った言った、言ったよ!!」
則子「いや言ってないって。一回聞いたら忘れないよそんな変な話」
みっちゃん「え、だって、キャラ弁に説教されたって、言ったよね⁉」
則子「誰がぁ?」
みっちゃん「いや、だから私が、」
則子「(笑い)え~なにそれ~。なんでお弁当が説教するの?」

則子、ぷすぷす笑っている。

みっちゃん「本当に覚えてないの?」
則子「そんなの知らないよ」
みっちゃん「なんで? 嘘でしょ、昨日の事だよ? 昼、お弁当食べた時、」
則子「嘘ばっかり~」
みっちゃん「お昼、コウジ君来たじゃん」
則子「来た」
みっちゃん「則子ちゃん廊下出てったじゃん」
則子「出た」
みっちゃん「で、戻って来たでしょ?」
則子「戻った」
みっちゃん「漫画1冊借りたね、コウジ君から!」
則子「借りた」
みっちゃん「で、キャラ弁喋った話したじゃん!!」
則子「してない」
みっちゃん「なんでよ! 嘘でしょ!? これが喋って私説教されたって言ったじゃん! で、そんで則子ちゃん引いたじゃん!」
則子「今引いてるよ」
みっちゃん「なんでよー! 私、「目にお箸刺すのは止めなさい」って、正座させられて説教されたって言ったじゃん! 言ったでしょ?」
則子「え、ドッキリ?」
みっちゃん「違うよ、なんで覚えてないの?」
則子「じゃあさー。他に誰か聞いた? みっちゃん以外、これ喋ってるの」
みっちゃん「……誰も……」

間。  

則子「保健室、」
みっちゃん「行かない……」
則子「ねぇ、みっちゃん。もし今悩んでるなら、」

再びキャラ弁が、囁くような声で「あ~」とか「も~」と唸り出す。

みっちゃん「(声に気づき)ねぇ、ねぇ……」
則子「なに?」
キャラ弁「はぁ。もーしんどいわ……」
みっちゃん「言ってる言ってる!」
則子「な、なに?」
みっちゃん「もーしんどいわ、って言ってる!」
則子「それはみっちゃんの今の心境?」
みっちゃん「私じゃない、これがそう言ったの!」
キャラ弁「だーれも助けてくれない」
みっちゃん「誰も助けてくれないって!」
則子「みっちゃん、私、なんでも相談に乗るよ?」
みっちゃん「だから私の心の叫びじゃないの! これの! キャラ弁がずっと喋ってんの!」

教室の扉に、他のクラスの生徒:コウジがやって来る。

コウジ「谷、」
則子「コウジくん……」
コウジ「あの~、ちょっと、」
則子「(みっちゃんの方を気にしつつ)あ、うん……」
みっちゃん「則子ちゃん、今は、今だけは独りにしないで! 私の話に耳を傾けて!」
則子「……ごめん、行ってくる……すぐ戻るから」
みっちゃん「いや、則子ちゃん! 則子ちゃん――! お弁当と2人にしないで――!」

則子、呼ばれて扉の方へ。コウジと共にどこかへ行く。
みっちゃん、弁当を気にしつつ、力なく椅子に座る。

間。

キャラ弁「……もー散々だ……」
みっちゃん「……」
キャラ弁「散々、散々だよ……」

間。

みっちゃん「…………それ、私のセリフです」
キャラ弁「……は?」
みっちゃん「私のセリフです……私の方が、散々です」
キャラ弁「……誰かいんのか?」
みっちゃん「はい」
キャラ弁「顔、見せろ。この角度だと、ちょっと見えないから」
みっちゃん「(キャラ弁に顔を見せる)」
キャラ弁「おお、なんだ若いな。中学生か?」
みっちゃん「……」
キャラ弁「どした?」
みっちゃん「え」
キャラ弁「なんだよ、」
みっちゃん「……覚えてませんか? 私の事、」
キャラ弁「いや、知らん」
みっちゃん「昨日、会ってるんですけど……」
キャラ弁「覚えてないけど」
みっちゃん「え?」
キャラ弁「だから何だよ、」
みっちゃん「ホントに?」
キャラ弁「おお。キャラ弁嘘つかねぇよ」
みっちゃん「はぁ……散々だぁ……。こっちもかよ……」
キャラ弁「なんだ、大丈夫か? 悩んでるんか?」
みっちゃん「キャラ弁にまで心配されてる……」
キャラ弁「大丈夫か?」
みっちゃん「……はい。はいっていうか、まあ、はい、」
キャラ弁「恋か? 勉強か?」
みっちゃん「……」
キャラ弁「(大人の余裕を感じさせる口調で)恋か?」
みっちゃん「(小声で)あなたです」
キャラ弁「(デカイ声で)え!?」
みっちゃん「なんでもないです……」
キャラ弁「元気出せ。悩んでたって始まらないぞ若人」
みっちゃん「…………」
キャラ弁「よし。じゃあ、特別に、アレだ。食って良い」
みっちゃん「え?」
キャラ弁「俺の眉毛、食って良いぞ」
みっちゃん「まゆ、げ?」
キャラ弁「腹減ってんだろ? 食え、眉毛」
みっちゃん「眉……(覗き込み)……あ、卵焼き」
キャラ弁「特別だぞ。ただあの~取る時は、目、ちょっと気をつけろよ。目アレだから」
みっちゃん「お腹、大丈夫です」
キャラ弁「良いのか?」
みっちゃん「はい、減ってないんで」
キャラ弁「気ぃつかわなくて良いんだぞ? 俺のことは、アンパンマン的なアレだと思ってくれて良いんだから」
みっちゃん「大丈夫です。有難うございます」
キャラ弁「そうか。まぁ、無理強いはしねえけど。何あったか知らないけど、抱え込まない事だなぁ」
みっちゃん「…………」
キャラ弁「俺も若い頃は色々抱え込んだもんだよ」
みっちゃん「若い頃、」
キャラ弁「うん。まぁ基本一晩寝りゃ忘れるんだけどさ、」
みっちゃん「気楽でいいですね」
キャラ弁「馬鹿、気楽とはなんだ気楽とは」
みっちゃん「……すみません、」
キャラ弁「ハハハ。いやまぁ、良いんだけどさ、」
みっちゃん「あの……。お弁当の若い頃って、何ですか?」
キャラ弁「うん……。俺も言いながら自分で思ったわ。何だろうって。できたてって事かな? どう思う?」
みっちゃん「知りませんよ、私が知るわけないじゃないですか」
キャラ弁「それもそうだな…………なんか、お前と話してると、俺、顔しかないけど胸の辺りがムズムズする感じがするなぁ。懐かしいつーか。俺にもお前くらいの子供がいたような気がするよ。俺、弁当だけど」
みっちゃん「……」
キャラ弁「子供じゃないか?……あれ? 子供じゃなくて……何だろう……でもいたんだよ、小さいのが……家に、」
みっちゃん「もしかして女の子?」
キャラ弁「そうそう、女の子がいたんだよ。お前くらいの年の。いや、いた気がする。やっぱ眉毛食わないか?」
みっちゃん「……タカヒロさん」
キャラ弁「……え?」
みっちゃん「タカヒロさん……?」
キャラ弁「……………」
みっちゃん「……もしかして、キャラ弁さん……「タカヒロ」って名前じゃ、ありませんか?……」

間。

キャラ弁「……いや、どうかな……わかんない……」
みっちゃん「私くらいの女の子……則子って言うんじゃありませんか?」
キャラ弁「わからない、」
みっちゃん「良く思い出して、」
キャラ弁「俺に名前なんてない……子供も、俺の思い違いかも……」
みっちゃん「真剣に思い出して下さい! これ、これ本当に、本当に大事な事なんです!」
キャラ弁「だって俺今朝出来たばっかのキャラ弁、」
みっちゃん「レーシック受けたんでしょ?」
キャラ弁「え」
みっちゃん「レーシックの手術、したんでしょ!だから目、大事なんでしょ!」
キャラ弁「え? うん。したした、した気する、」
みっちゃん「お弁当、レーシック受けませんよ。目、ゆで卵じゃないですか」
キャラ弁「まぁなぁ」
みっちゃん「キャラ弁さん、元々人間なんですよきっと、」
キャラ弁「唇ウィンナーで眉毛卵焼きだぞ、」
みっちゃん「今はそうですけど、なんか、なんかでそう言う形にさせられて、」
キャラ弁「なんかって何?」
みっちゃん「だから……呪いかなんかで……」
キャラ弁「ハッハッハ。んな事あるか、んな非科学的なこと」
みっちゃん「キャラ弁喋ってる時点で何でもありじゃないですか!」

      則子、戻って来る。

則子「お待たせ。……具合、どう?」
みっちゃん「……」

則子、弁当を手に取る。

キャラ弁「(則子を見て)あれ、この子……」
みっちゃん「思い出しました?」
則子「みっちゃん、」
キャラ弁「おい、なんか、ちょっと見覚えがあるぞ……」
みっちゃん「則子ちゃん、タカヒロおじさんの顔、こんなじゃなかった?」
則子「え、タカヒロおじさん?」
みっちゃん「そう!」
キャラ弁「この子はどこかで、見た事がある気がする……」
則子「えー……違うよぉ」
みっちゃん「良く見て、レーシックしたタカヒロおじさんじゃない? タカヒロおじさん、レーシックしたんでしょ?」
則子「したけど……。え、なんで知ってるの?」
みっちゃん「レーシック、したんですよね?」
キャラ弁「したした」
みっちゃん「ほら、このお弁当もしたって言ってる、」
キャラ弁「あ……思い出した……!」
みっちゃん「な、なんですか……!」
キャラ弁「お前、則子か……則子か!」
みっちゃん「そう! 則子ちゃんですよ! この子は則子ちゃんです!」
則子「(弁当を机に置いて)ちょっとみっちゃん、、
みっちゃん「もう一度伺います。あなたは、タカヒロおじさんですか!?」
キャラ弁「ああ、そう、そうだ、タカヒロだよ!」
みっちゃん「点と点がつながったぞ――!!!」
則子「みっちゃん!」
キャラ弁「則子、俺だよ!!」
みっちゃん「ほら! キャラ弁さん、タカヒロおじさんだって言ったよ!」
則子「ホントどうしたの、怖い……」
キャラ弁「則子、お、おい、助けてくれ! なんかよく分かんないんだけど、身体変な事に……」、

友人1・友人2、戻って来る。

友人1「お待たせー」
友人2「あれ、まだ食べてなかったの?」
則子「あ、うん……」
友人1「購買混みすぎだよね~」
キャラ弁「そうだ……あの日だ。あの日……お袋の口座から金卸してレーシックして……」
友人1「食べよ食べよ」
みっちゃん「ちょっと待って!! 今やっとタカヒロおじさんが、」

則子、箸を取り出し弁当を手に持つ。

みっちゃん「待って、もうちょっと待って! 黙ってて!」
友人2「なに?」
則子「みっちゃん……」
キャラ弁「……家帰ったら、則子、俺、お前の親父とお袋に呼ばれてさぁ。お前のお袋が、姉貴が「お前の生き方むかつく」って言い出してよ。なんかごにょごにょ言ったと思ったら身体動かなくなって……で……首から下を包丁で、」
友人2「いただきまーす」
みっちゃん「待ってって! これきっと事件の核心、」
則子「みっちゃん!!!!」
みっちゃん「…………」
則子「変な事言わないで」
みっちゃん「だって!」
則子「お弁当は…………喋りません!!!!!」
みっちゃん「…………」
友人1「え、え、なにそれ?」
則子「なんか、みっちゃんの、悪戯、」

則子、箸で躊躇なくキャラ弁の目を突く。
ギャーというキャラ弁の声が、どこか白々しくに聞こえる。
暗転。

続く。

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gake
老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。