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台本「犀に🈡」

男2、戻って来る。
先ほどよりも明らかに顔色が悪く灰色になっており、鼻からは白い突起物の様なものが出来ている。
 
男2「(戻りつつ)なんだよ、言う程顔色悪く無いじゃん」
男1「おいおい、」
男2「ん?」
男1「お前顔色滅茶苦茶悪くなってるよ!!」
男2「えそう?」
男1「いやさっきこんなんじゃなかったよ。鼻のニキビも、なんかスゲーデカくなってるし……」
男2「そうかぁ?」
男1「おお……」
男2「取りあえず、飲も飲も」
男1「え、いいの……?」
男2「全然平気だもん。何か頼んだ?」
男1「え?」
男2「メシ」
男1「まだ……」
男2「スミマセーン」
 
店員、登場。男2の顔を見てギョッとする。
 
男2「え~っと…何食べようかなぁ。食べたいのある?」
男1「大丈夫……」
男2「あ、そう? じゃぁ~、とりあえずきゅうりと人参、そのまんまでいいから何本か持って来て」
店員「生のきゅうりと人参ですか?」
男2「そうそう野菜ね」
店員「はい……」
 
店員、去る。
 
男1「生のまんま食うの?」
男2「当り前だろ、持って帰ってどうすんだよ。転職したらさぁ、自由になりたいわ。何にも縛られる事なく、こう~野山を駆け回りたいね。あ~なんか今、スゲーサバンナとか行きたいもん」

間。

男1「ごめんやっぱり凄い気になるんだけど、大丈夫、身体……?」
男2「なに、全然大丈夫よ?」
男1「顔色絶対に悪いって……」
男2「え~そんなに~?」
男1「白とか青とかじゃなくて、灰色っぽくなってるよ……?」
男2「俺、もとからこんなよ?」
男1「んなことねぇよ、数分前まで肌色だったよ」
男2「え~マジで~? ……ちょっとまた見て来るわ」
男1「うん……」
 
男2、トイレへ。
    
男1「……………」
 
外から、ドカンドカンど何かがぶつかる音がする。
店員が登場。
 
店員「勘弁してくれよ~……」
 
店員出て行く。
 
店員の声「うっわ、こら! やめろこんな所で!! 離れろ! 離れろって!! この野郎!!」

店員戻って来ると、バットを手に再び外へ。

店員の声「盛ってるんじゃないよ!!」

バットで激しく引っ叩く様な音が数回し、その後ドドドドドドとサイが駆け出す音がする。
間。 
疲れ切った店員が、バットを手に戻って来る。
 
男1「どうしたんですか……?」
店員「……いやあの、(外を指し苦笑しつつ)なんかサイのカップルが店の前で交尾始めちゃって。困るんですよね~飲食店の前で交尾されちゃうと」
男1「……今日なんか多いですね、サイのトラブル……」
店員「興奮しやすい時期なのかも知れませんね。今って発情期なのかなぁ。あの巨体で興奮されちゃうと手が付けられませんよ……」
 
店員、店の奥へ。
入れ替わりに男2、戻って来る。更に肌は灰色に、鼻から出ていたものは角になりそそり立っている。筋肉も膨れ上がり、全体的にビルトアップもしている。
 
男2「(戻りつつ)なんか俺興奮してきちゃったぜ!!」
男1「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
男2「これアレだな、仕事辞めたからだな」
男1「え、え? え!?」
男2「転職決めて良かった。生を実感してる今」
男1「お前……お前……」
男2「したくも無い仕事に噛り付いてちゃダメだ、自分のやりたい事を真っ直ぐ前だけ見て突き進まなきゃ。それが、生きるって、事だよな?」

間。

男1「お前……サイ、なって来てるぞ……」
男2「(椅子に座り)俺が? サイに? 何馬鹿な事言ってんだよ。あ~自由気ままに人生突っ走りてぇ!」
男1「肌、灰色だよ……」
男2「酒飲みすぎたな」
男1「サイみたいな角生えてるぞ!」
男2「(笑い、角を指し)ニ・キ・ビ」
男1「嘘つけ!! サイじゃねぇかよ!!」
男2「あれ? まだ野菜来てないの? 生野菜噛り付きてぇな! 生のサツマイモとかをコリコリってよぉ!」
男1「サイじゃねぇかよ!」
男2「俺、マジで仕事辞める事にして良かったよ」

男2、鼻息が荒くふーふーとずっといっている。

男1「……お前が止めたのは仕事じゃないよ、人間だよ……」
男2「何言ってんだ馬鹿。……む?……(キョロキョロし)コンクリートジャングルが俺を呼んでる。ちょっとひとっ走りしてくるわ!」

男2、立ち上がるとどんどん筋肉が膨張し、着ていたスーツがビリビリ破け出す。

男1「うわあああああ」
男2「野菜取っといて」
男1「……ちょっと待てって!! 出ちゃったらもう戻れなくなるかも知れないぞ、人に!」
男2「だから何言ってんだよ。すぐ戻ってくっから、先帰んなよ! あ~叫びてぇ! い…い…い、イヨーーーン!!」
 
凄まじい物凄い足音を立て、男2が店から出て行く。
恐らく、店から出た彼は完全にサイの姿へと変貌しているだろう。
店員が驚いてやって来る。
間。
  
男1「……………サイって…イヨーンって啼くんだなぁ」
 
暗転。

🈡

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。