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アルコール診療のまとめ

はじめに
私がアルコール診療をしてきた実践をまとめ院内の若手に渡していたたもので、患者さん向けではないことや、保険適応外の薬剤のことを書いたりしたので、それなりの値段(PayWall)を設けました。みなさんの診療の一助になりますと幸いです。

アルコール使用障害の豆知識(と、基礎知識ちょっと)
あえてエビデンスのない話をしましょう。エビデンスのある話もごちゃまぜになってますが…

§1. 基本的な姿勢

■慣れないうちはひとりで依存症の人をみないこと

・以下いろいろいいますが、自分ひとりで依存症をみないこと。ひとりでアルコール診療しようとしても、まわりのスタッフの陰性感情が濃いままでは、まわりがついてこれないです。そうなると自分も大変です。

■基本的な治療者側ののマインドセット

・自己治療仮説、信頼障害仮説のかんたんな理解が必要。「人を信じられない病」小林桜児や「ハームリダクションアプローチ」成瀬Drを読みましょう。特にハームリダクションアプローチ読んでください。

・めっちゃざっくりいうと、あらゆる医療者から困難患者扱いされている依存症患者であるが、多くの患者が、幼少期からの逆境的体験等を背景に、極端に自信がなく、ストレス対処能力が低く、それで仕方なく最も手に取りやすい…合法で…なのに極めて危険な…アルコールに手を出してしまい、次第にアルコールに飲み込まれてしまい、気づいたときにや依存が形成され、やめようにもやめられなくって困っている人たちである、という認識が大前提です。

・みんな皮の枚数は違うけれど、本音を隠しているので、本音を言えるような関わりづくりが大事。表面上の「断酒します!」は意味無しと心得よう(ちなみに入院中の断酒できそうですもほとんど意味なし、集団生活充実してたら飲酒欲求みんな出ないので)。私としては入院および外来で飲酒欲求を聞くことも飲酒量を聞くこともほとんどないです。(これはさすがにちょっと変わってるかもしれませんが)。当然、断酒しましょうね?のようなクソテストは患者さんに課しません。

・では何を聞くかというと、やはり飲酒に至る理由…うつなのか、トラウマなのか、自閉なのか、そこをしつこいくらいアセスメントします。で、しっかり(主に薬剤で)治療します。体感、大げさですが、半分近くの人は薬物療法メインでお酒は減ります。トラウマの人であれ、少量のメジャー、リチウム、抗うつ薬などでぐっと緩和される人が多いです(杉山登志郎先生の「発達障害の薬物療法―ASD・ADHD・複雑性PTSDへの少量処方」は面白かったです、マネできませんが)。

・次によく聞くのが、その人の酒の害。ようはそれさえなくなれば本人も家族も困らなくなるのです。飲酒運転で困ってる、肝臓の数値が高くなって困ってる、等。そしてそれをどうすれば止められるか・減ぜるかを、本人主体で考えます。無闇に金銭管理を支持したり免許返納を指示したりするのは悪手です。ここは、とびきり時間をかけて一緒にウンウン唸りながら害を減らす…つまりハームリダクションを…考えるのです。

・あとは成瀬Drのテクニックですが、依存症の人の初診時に「ようこそ」と言うというやつ。通称「ようこそ外来」。ちょっとやりすぎだと思うので(別に言ってもいいと思うが)、私が言うのは「いろいろな思いがあったと思いますが、よくこられましたね」、「アルコール依存症の方々で病院にまで来るのは3%ともいわれています。病院につながってくれただけでも大きな治療の前進だと思いますよ」、「アルコールのせいでこんなに大変なことになったけど、アルコールのおかげで命をつないできた所もあるんですね」みたいなこと言います。

お酒やめましょうね、は禁句(…言ってる先生いるけど…)。お酒やめるつもりが少しはあるから、受診or入院しているのです(口では、飲んだるー!と言っていたとしても)。断酒・減酒・ハームリダクションをどうやってしていくか、医者と本人で共同作業のように考えていくスタイルがいいと思います。当然人権配慮的ですし、患者自身が自分のことを考えますし、メンタライゼーション的な作業にもなるし、何より医者が楽です。

・当然、動機づけ面接の(エッセンスだけでいいとおもいます)勉強をしておきましょう。

§2. 診断

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